新しい家
ちょっと短めです。
「ここが学園寮だよ」
「え……これ?」
スキルニールさんに案内された寮は、想像とはずいぶん違うものだった。
「ずいぶん“こぢんまりと”してるのね」
私の目の前にあるのは小さな塔のような建物。
てっぺんには時計があり、入り口の扉だけはずいぶんと立派な作りをしている。
確か、聖オーデンセ学園は全寮制のはずだ。
こんな寮じゃ十人と寝泊まりできないんじゃないだろうか。
「まあ、入ればわかるよ」
なんだか面白がっているみたいなスキルニールさんに促され、扉を開けて中に入った。
次の瞬間、私は思わず声をあげていた。
「わぁ……すごい!」
時計塔の中は巨大な空間が広がっていた。
明るくひらけたエントランスホールに、どこまで続いているかわからない長い長い廊下。
見上げた天井は高く、表の小ぶりな塔からは想像もできない。
「なにこれ、どうなってるの?」
「この建物自体が聖遺物になっているんだよ」
また聖遺物か。
ほんと神様なんでもありだなー。
でも、こういう“何でもあり”は大歓迎だ。
やっぱり魔法学園ときたらこうでなくちゃ。
「そこに“名簿”があるだろう? 君の名前を書いてごらん」
エントランスの真ん中には台がありそこに名簿らしきものが置いてあった。
羽ペンに、呼びだし用のベルもおいてある。
言う通りに台帳に名前を書き込んだら、スキルニールさんが呼びだしベルを鳴らした。
「ナニカ、ゴ用デスカ」
「うお!? なんか変なのが!」
てっきりエントランスのインテリアかと思ってたものが動き出した。
「そいつはコンシェルジュ。君たち寮生の生活のサポートをしてくれる。といっても、あまり難しい命令には対応できない。掃除や荷物持ちくらいだ」
でっかい起き上がり小法師のような見た目のコンシェルジュは私から荷物を受け取ると動きだす。
「勇者サマ、オ部屋マデ、ゴ案内イタシマス」
「勇者様?」
「もともと、ここは女神に召喚された勇者たちの宿舎だったんだよ」
なるほど。
そりゃそうか。別の世界から連れてこられたなら住む場所くらい用意されてないと困っちゃうよね。
「名簿に登録された勇者の数だけ部屋が出現し、そして部屋の数だけ中の空間も広がる。そういう仕組みになっているんだよ。ちなみに、入り口は学園の敷地内に他にもいくつかあってすべてここに繋がっているんだ」
「ほんと何でもありね……」
あらためて聖遺物のデタラメさに呆れながら、コンシェルジュの案内で自分の部屋へと向かう。
「さて、僕はここまでかな。さすがに教師が女子生徒の部屋に入るわけにはいかないからね」
部屋の扉の前でスキルニールさんが言った。
例のコンシェルジュは私の部屋専属になるらしく部屋に備え付けの台座に収まってしまった。
「今日はゆっくり休むといい。明日は魔法科の生徒たちに紹介するよ」
「はーい」
スキルニールさんに別れを告げ、自分の部屋の中に足を踏み入れる。
ルエイムの屋敷であてがわれた部屋に比べればずいぶん質素な部屋だった。
とはいえ広さは申し分ない。
ベッドに机、クローゼットと必要そうなものは一通り揃っている。
「今日からしばらくはここが私の生活の場ってわけねー」
勇者を倒すために旅に出たはずが、なんの因果か勇者を育成する学校に通うハメになってしまった。
今さらながら妙なことになったもんだ。
そんな風に感慨に浸っていると、私の鞄がモゾモゾと動き出した。
あ、忘れてた。
「いつまで妾を押し込めておくつもりじゃ!」
「いたいいたい! いたいってば!」
鞄を開けた途端にりっくんが飛び出してきて私の頭にガジガジ噛みついた。
「ほら、りっくん、わりと邪悪な存在なんでしょ? 勇者候補の通う学校なんて危ないかもじゃない?」
「ウソつけ。どうせ忘れておったんじゃろう」
うーんバレてーら。
「オ部屋ニ、異物ノ侵入ヲ感知シマシタ。排除シマス」
「誰が異物じゃ! この案山子め!」
例のコンシェルジュがりっくんをむんずと掴んで放り出そうとする。
「あー、それはいいの。ちょっとうるさいけど私のだから」
「承知シマシタ。ゴ主人様ノぺっとトシテ登録シマス」
「妾をペット扱いするでないわ!」
りっくんが文字通りコンシェルジュに噛みついているのを横目に、私は荷物をといて新たな住処の準備を整えるのだった。




