“ズタ袋の魔王”と世界情勢
「──ビッグブリッジを消したのは君かい?」
スキルニールさんからの質問に対して、私は少しだけ答えに窮した。
確かに、あれは消したという表現が正しいだろう。
でも私がやったのかと言われると、今となっては少し疑わしいと思っている。
私はただ、何か途方もない存在の一部をこちら側に引っ張り出してきたに過ぎないのではないか──
じゃあその“途方もない存在”ってのが何かと問われれば、それこそ「なんもわからん」としか言えないのだけど……。
「うん。たぶんね」
「たぶん……。君が望んでやったことじゃない? まさか、無意識や身体が乗っ取られたような状態にあったということ? いいかい? これは重要なことなんだ。ちゃんと答えてほしい」
いつになくスキルニールさんの表情は険しかった。
「うん。私が望んだことで間違いない。戦争を起こさないためにはもう橋をなくしちゃうしかないって思ったから」
「そうか……」
スキルニールさんは安堵したように息をつく。
「いや、あれほどの力だからね。君がちゃんと制御できているのか心配だったんだ」
「いくら私だってそんなヤケクソみたいなことしないわよ。前々から研究してたオリジナルの魔法よ」
もちろん嘘だ。
あれは魔法とかそういう代物じゃない。
言わないけど。
「それはいいんだ。ただ、重要なのは君が『聖遺物』の一つであるビッグブリッジを破壊してしまったということだ」
「あー、やっぱりまずかった?」
実は私も薄々気づいてはいたのだ。
『聖遺物』は神様が作ったもので、壊すことはおろか傷一つつけることができない──
──というのが今までの常識だった。
元の世界でも、常識が覆ると大きな混乱が起きていた。
それが神様がらみならなおさらだ。
「この世界では武力とは『聖遺物』そのものだ。それが失われるということは国の存亡に関わる。おまけに君はあの場で『魔王』を名乗ってしまった。今じゃどの国も“ズタ袋の魔王”のことで大慌てさ」
「うう〜」
こうしてあらためて指摘されると、かーなーりヤバいことをしてしまった気がしてきた。
軍隊が橋を渡ったら戦争が起きるのなら、橋がなくなっちゃえばいいんだ!
なんて、とんちみたいなこと思いついたあの時の自分を張り倒したい。
「とはいえ、おかげでサルラ同盟は今や骨抜きだ。魔界への陸路が失われたわけだからね。そうなると次は海からってことになるんだけど、もともとサルラ同盟とは距離を置いてきた海洋都市国家がどう出るかな。それに、長いこと聖王国と戦争状態にある“ロンゴミニアド帝国”が今の状況を見過ごすはずもない。世界は大いに荒れるだろう。だけど、ある意味で魔界の危機は遠ざかったので結果オーライってところかな?」
「その言い方だと、私が自分の国のために世界を混乱の渦に叩き込んだみたいじゃない」
いや、結果的にその通りなんだけど。
ていうかこれって全部のしわ寄せが現魔王に行くってことじゃない?
ごめんなさいお父さま。帰ったら肩とか揉んであげよう。
「今度は君が質問する番だけど、何か聞きたいことはあるかい?」
「聞きたいことねぇ……なんかいろいろ察しがついてきちゃったけど。何年も音信不通だったのは、ここで教師をしてたから?」
「うん。そういうことにしておこう」
「しておこうって……それじゃ質問に答えてないじゃない」
「子供には言えない大人の事情ってやつさ」
なーんか誤魔化された気がするけどまあいいか。
「じゃあ次は僕だね。君、ランフォード家の推薦で入学してきたって聞いてるけど、聖王国の公爵家といつの間に親しくなったんだい?」
「それはまあ偶然というか、橋をぶっ壊すことになって理由にも関係してくるんだけど……」
そうして私は、フイディールの街で起きた出来事を話した。
その代わりというわけではないけれど、スキルニールさんもこの数年で得た『勇者』に関する情報を教えてくれてお互いに連絡がとれなかった間の穴埋めをしたのだった。
「それで、君はこの学園で何をするんだい?」
「とくに何も。ルエイムたちからはただ学園に通えばいいとしか言われてないし。勇者のこと知るにはいい機会だなと思って地味に目立たず大人しく学生をやってくつもり」
「地味に目立たず……」
なんだその疑わしそうな目は。
「あと、そうだ。せっかく魔法科に入学したんだしスキルニールさんに魔法をいろいろ教えてもらおうかな」
「君は、魔界で高等学院まで卒業したんだろう? 僕が教えることなんてないよ」
「そうかな。教科書に載ってない裏技的な魔法をいろいろ知ってるんじゃない? さっきの『あなたの心に直接語りかけています』的なやつとか」
「う……まあ、多少はね……」
なぜそこで嫌そうな顔をするのかわからないが、私としてはスキルニールさんの知識を最後の一滴まで絞り抜いてやるつもりだ。
「というわけだから、これからよろしくね師匠」
「はいはい。お手柔らかに頼むよ」




