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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
勇者学園
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借金姫様

「お前、“魔族”だろう」

「ぶふーっ!!!!」

 

 エドワードの突然の指摘に、私は盛大にお茶を噴いた。


「うっ、げほっ! ごほっ!」


 そしてむせた。

 

「汚いではないか」

「そ、そっちが急に変なこと言うからでしょ!」


 やばいやばいやばい!

 思いっきりバレてる!

 いや、まだだ! まだ慌てる時間じゃない! 誤魔化せ! 誤魔化すんだ私!


「わ、私が魔族とかー、マジありえないんですけどー。ていうか事実無根? 風評被害?」

「なんだそのしゃべり方は……」


 ダメだ! 動揺しすぎて昔のギャルみたいになってしまった!

 ぜんぜん誤魔化せる気がしない!

 あばばばばば……! ど、どうしよう!

 私が魔王の娘だってバレたらどうなる!?

 勝手に聖王国に入りこんだことが問題になるかも!

 ええと、戦争とか起きちゃう!?

 え、えらいこっちゃ! えらいこっちゃやで!(混乱)


「その反応だけで十分と言えば十分ですが、あらためて確認させてください。あなたはポーリア王家の血を引いていますね?」

「へ……」


 あ、そっち?

 魔王の娘だってバレたわけじゃない?




 なーんだ! ラッキー!

 ギリギリセーフって感じ?


 オホン。というわけで改めて落ち着こう。


「……確かに、私のひいお祖父さんはポーリアの王子様だって聞いてる」

「やはりそうですか。これは思わぬ収穫でした」

「こんなのが一国の姫だというのか。正直、勘違いであってほしかったがな」


 “こんなの”とか言うな。


「何を企んでるか知らないけど、私が知ったのもごく最近だし、証拠なんてなんにもないわよ。そもそもポーリアって国はずっと昔になくなってるんだから意味なくない?」

「現時点ではそうですが、いずれはその血筋が役に立つかもしれません。それに証拠などいくらでも作れます」


 うわー、なんかメチャメチャ悪い顔してる。

 まあ、変なことに巻き込まれそうだったらすぐに逃げるけど。


「どうする? 俺の名を使えばすぐにねじ込めるだろうが……」

「いえ、まだ王家との繋がりは隠した方がいいでしょう。どんな横やりがあるかわかりませんからね。ひとまずランフォード家が後見となって入学までこじつけてみます」

「ねえ、ちょっとさっきから“入学”とか言ってるけどなんなのよそれ」


 なんか自分たちばかりで納得して、なかなか本題を切り出さない二人に痺れを切らせて私は口を挟む。


「お前には『聖オーデンセ学園』に入学してもらう」


 聖オーデンセ学園? なんじゃそりゃ。


「聖オーデンセ学園は、聖王国における貴族教育をつかさどる機関です。そして、同時に未来の『勇者』を育成する場所でもあります」

「勇者を育成……!?」


 なんかそれっぽいやつキター!

 

 いや、待て。

 のんきに喜んでていいのか私。

 育成するって、そんなにポンポン勇者が生まれて来たら魔王的に大ピンチじゃない?

 だいたい私、魔王(の娘)なんですけど。


「私、勇者になんかなりたくないんですけど」

「安心しろ。俺たちもそのつもりはない」

「はい? どゆこと?」

「学園には、魔法を学ぶ科もあります。あなたにはそこに入ってもらいます」

「はぁ……いや、だからって今さら学校なんて……」

「グダグダ言うな。誰が牢から出してやったと思っている」

「えー、でもー、考えてみたら私のおかげで領主を捕まえられたワケでしょ? 恩に着せられる筋合いがないっていうかー、むしろお礼を言われて然るべきなんじゃない?」

「こいつ……いきなり調子にのりはじめたぞ」

「彼女もバカではなかったということですよ」


 なんかひどい言われようだが今は気にしない。

 理由はわからないが、どうしても私をその学園とやらに入れたいらしい。

 入学すること自体は別にいい。むしろ願ったり叶ったりだ。

 聖王国で勇者のことを調べようと思っていたのでまたとないチャンスと言える。

 だけど、そんな私の事情をこの二人は知らない。

 ならここで出来る限り良い条件を引っ張ってやるのだ!


「私もできればこの手は使いたくなかったのですが……」


 そう言いながら、ルエイムは何やら紙切れをテーブルに差し出した。


「なにこれ?」

「あなたがフイディールの街で壊した物すべての被害総額の見積りです」

「なヌゥ!?」

「全焼した教会の建物、牢の鉄格子、領主の屋敷の食器類などなど……」

「いち、じゅう、ひゃく……お、おおう……」


 見積りにはわりとシャレにならない額が記載されていた。


「あなたが街から逃げてしまったので、すべて私が立て替えておきました。つまり、あなたは私にこれだけの額の借金があるということになります」

「借金!」


 なんて恐ろしい響きだろう。

 かつて資本主義社会に生きた身としては、その言葉の重みは計り知れない。


「おい、借金女」

「やめてええええ!」


 ツノ女、怪力女ときてついに“借金女”……。

 過去一嫌な呼び方かもしれない。


「借金女、お前が俺のために働くなら給料を出してやる。それでルエイムの借金を返していけばいい」

「お、お給料……? ほんとに? 借金返済できるの?」

「学費はもちろん制服や教科書など学園生活に必要な経費もすべてこちらで用意します。ちなみに全寮制なので住むところの心配もいりません」


 学園に通うだけで給料がもらえて、おまけに衣食住の心配もないなんて……。

 なにそれ最高じゃない!?


「やります! 学園通います!」

「決まったな」

「では、この契約書にサインを」

「はーい!」


 おっと、いきなりサインはせずに契約書の内容はちゃんと確認しないとね。


「なになに……一日の手当がこのくらいで……返済に充てられるのがこれだけと……三ヶ月ほど働けば完済できる計算か。妥当なラインね」


 おまけに、学生以外の業務は別途手当が付くみたい。

 うん。悪くないじゃない。

 というわけでささっとサインしちゃおう!


「契約成立です。頑張ってくださいね」

「任せて!」


 契約書を大事そうにしまいながらルエイムはステファンに向かって片手をあげる。


「話はつきました。エレノアを呼んでください」

「かしこまりました」


 エレノアを?

 なんかあるんだろうか。


 しばらくしてエレノアが部屋に戻ってくる。


「お兄さま、わたくしをお呼びと伺いましたが……」

「彼女はあなたと同じ聖オーデンセ学園に入学します」

「学園に通うのですか……」


 エレノアはひどく驚いた様子で私を見た。


「あそこは少々特殊な場所です。最初は戸惑うことでしょうから、相談にのったり手を貸してあげてください」


 そう、兄に頼まれたエレノアはひどく困ったような顔をする。

 そして──


「申し訳ありませんが、その頼みを聞くことはできません」


 毅然とした態度で、その頼みを断ったのだった。

借金姫爆誕

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