姫様のお風呂(二週間ぶり???回目)
「ヒャッハー! お風呂だー!」
思わず世紀末的感嘆符を叫ぶくらいにはテンションが上がっていた。
なにせ一週間ぶりのお風呂だ。
道中、魔法で水を作って軽く汗を流すくらいはしていたけど湯船だけはどうしても用意できなかった。
やっぱり、元日本人としては肩まで湯船に浸かってゆったりゆっくりしたいもんね。
エドワードにいったいどんな仕事をさせられるのか戦々恐々としていたけど、お風呂に入れるだけでもかなり元は取れた気がする。
「さーて、貴族様のお風呂はどんなかしらねー……って、うおう!?」
なんか、お風呂にメイドさんがいっぱい居るんですけど!
「もしかして私の湯浴みを手伝うつもりだったり?」
「ルエイム様より仰せつかっております」
やっぱり……。
正直、ちょっと予想はしていたのだ。
「ひとりで出来るって言っても、ダメ……だよね?」
「どうか、わたくしどもにお任せください」
私はすっぱり諦めて身を任せることにした。
メイドさんたちはさすが手慣れたものだった。
私はただ、寝そべったまま手や足を差し出すだけでいい。
全身をくまなく洗われ、さっぱりしたところで良い香りのするオイルやらクリームやらを肌に髪にと塗りたくられる。
下ごしらえをされている魚の気分だ。
とはいえ、私も魔界にいた頃はこんな感じだったわけで。他人に洗われるのも慣れたもんである。
ツノの手入れがないぶん楽なもんだ。
ツノ触られるのなんかムズムズしてやなんだよね。
とくにメリッサの手入れは念入り過ぎて風呂の時間がやたらとかかってしまうのが難点だ。
「そういえば、メリッサたちどうしてるかしらねー……」
メイドたちの洗いからやっとのことで解放され、湯船に身を沈めた私はぼんやりと故郷に思いを馳せるのだった。
お風呂から上がるとメイドさんに身体を拭いてもらって、またも全身にいろんなものを塗りたくられた。
髪は丁寧にタオルドライ。
どうやら、こっちには髪を乾かすための魔導具はないみたい。
時間がかかって仕方ない。それに自然乾燥は痛むからやなんだよねー。
「髪は自分でやるわ」
驚いた様子のメイドたちを下がらせ、私は小さく呪文を唱える。
「<熱風>」
途端に熱をもった風が吹き上げる。
魔力で生まれた風は私の髪を舞い上げてあっという間に乾かしてしまう。
「これでよし、と」
ふと気づくと、メイドたちが唖然とした顔で私を見ていた。
あ、そっか。
こっちの人はあんまりこういう便利魔法は知らないんだっけ。
「まあ、とても便利な“魔法”ですわね」
そう言ったのはメイドさんではなかった。
女の子が、着替えの服を抱えて立っていた。
歳は、私よりも少し下くらいだろうか。
見るからに育ちがよくて私よりもずっとお嬢様らしい。
メイドたちの態度からして、この家の人なのだろう。
ってことは……。
「ごめんなさい。名乗るのが遅れてしまいました。わたくしはエレノアと申します。お兄さまに言われて、着替えを持ってまいりました」
「あ、やっぱり」
「やっぱり?」
「あ、ごめん。たぶんルエイムの妹なんだろうなと思ってたから」
「わたくし、お兄さまとはあまり似ていないと思うのですが」
「うん。ぜんぜん似てない。あんな陰険眼鏡よりずっと可愛くて性格良さそう」
あ、やば。つい本音が……。
さすがに、その人の家で本人の悪口は行儀が悪かった。
「あ、違うの! 悪いやつじゃないとは思うのよ! ただちょっと意地悪というかなんというか……」
エレノアははじめ驚いて目を丸くしていたが、すぐにクスクスと笑いだした。
「お兄さまのこと、そんな風に言う人ははじめてです」
「ははは……」
よかった笑ってくれて。
「私、アリスよ」
「アリスさん……変わったお名前。でも、とてもキレイな響きですね。お召し物をご用意しました。わたくしのお古で申し訳ないのですけど……」
「ううん。ありがとう。すっごく嬉しい」
エレノア、めっちゃええ子やん……。
あの陰険眼鏡の妹とは思えないわ。
* * *
エレノアから借りた服は胸とウェストがちょっとキツかった。
スレンダー体型うらやましい。
久しぶりにドレスなんてものを着た私だけど、意外と所作振る舞いは身体が覚えているものだ。
「お待たせいたしました」
なんて言いながら、恭しくお辞儀をしてみる。
ふははは。嫌味王子に陰険眼鏡よ、私のエレガント仕草に恐れおののくがよい。
これでもお姫様生まれなのだ。
「思った以上に化けましたね。これなら入学に支障はないでしょう」
おいこら化けたとか言うな陰険眼鏡。
もっとこう、他に言うことがあるだろう。
嫌味王子もなんかひとことくらい言え。
と思ったら、当のエドワードがなんか固まってた。
「……エドワード? どうしました?」
「あ……いや、なんでもない。さっさ座れ。話をはじめるぞ」
なんか慌ててる? 意味わからん。
考えてもしょうがないので私は言われるまま席についた。
それを見計らったかのように、メイドさんがお茶を出してくれた。
うーん、こういうのほんと久しぶりだわ。
「申し訳ありませんが、ステファン以外は下がってください」
「かしこまりました」
メイドたちはしずしずと部屋を後にしていく。
残ったのは執事のおじいさんだけというところからみるとステファンというのは彼のことらしい。
「エレノア、あなたもです」
「え……」
一瞬、悲しそうな顔をするエレノア。
ちょっとのけ者にしたら可哀想じゃない。
「他家へ嫁ぐ予定のあなたには聞かせることができない。そういう話です」
「……かしこまりました」
そう言って、エレノアも部屋を出ていった。
なんだろうこの罪悪感。
そんな気持ちを飲み下すようにお茶をひとくちすする。
すると、エドワードが唐突にこう切り出した。
「お前、“魔族”だろう」




