王子と姫様の再会
「なんであんたがここに!?」
しまった。
思わず「あんた」なんて呼んじゃったけど、相手は王子様だった。
だけどエドワードは私のそんな呼び方を気に留めた様子もなく、むしろ妙に嬉しそうに笑いながらしばらく私を見ていた。
「ちょ、ちょっと、なんか言いなさいよ」
「牢に入れられた人間などそうそう見る機会がないからな」
こ、このやろう!
相変わらず嫌味なやつ!
「しかし、よくよく牢に入れられる人ですね。あなたは」
今度は呆れたような声。ルエイムだった。
「ど、どうして二人がここに……」
「ここは聖王国だ。王子である俺がどこにいても不思議ではあるまい」
そういうこと言ってるんじゃないんだけど。
でも、今はそんなことどうでもいいか。
「ていうか今、『出してやろうか』って言ったわよね? それって私のこと助けてくれるってこと?」
「俺が一声かければ罪一等減ずるなど造作も無い。だが、それはお前の返答次第だ」
「私しだい?」
「俺のものになれ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「はああああぁ!? な、なな、なにいってんの!」
あわわわ!
なにこの展開!
ていうか、乙女ゲーとかでしか聞いたことないセリフを、まさか自分が言われる側になるなんて!
てな感じで慌てていると、深〜い溜息とともにルエイムが口を開く。
「……その言い方では誤解されますよ。殿下はこうおっしゃっているのです。『自分のために働け』と。そうすればこの牢から出して差し上げます」
「な、なんだそういうこと……」
「俺はそう言ったつもりだ。妙な勘違いをしたお前が悪い」
するわ普通!
「ああ、もう心臓に悪い……。わかりました。ここから出られるならなんでもします」
とりあえず言うこと聞いておいて、都合が悪そうな話ならさっさと逃げ出しちゃえ。
「では、詳しい話は場所を変えてしましょう。あなたも、そんな冷たい床の上に座ったままでは嫌でしょう」
私を気遣ってか、それとも単に自分がこんな場所に長居したくなかっただけなのか、そんなルエイムの言葉であっさりと牢から出してもらえた。
そのまま、外に待たせてあった馬車に乗せられて私はどこへともわからない場所へ連れていかれる。
「それで、いったい何をすればいいんでしょうか。また、ごはん作るとかですか?」
「バカかお前は。今さらお前に侍女の真似事など頼んでどうする」
バカとか、ひとこと余計だ。
「それよりなんだそのしゃべり方は」
「いや、王子様相手にため口はまずいかと思って……」
「今さら何を。普通に話せ」
「じゃあそうする。あんたたちなんでここにいんの?」
「いきなりくだけすぎだ」
普通に話せって言ったのそっちじゃん!
「ここの領主に用があったのです」
「へー、なんか大変そうね」
「あなたも無関係ではありませんよ。あなたがエドワード王子を毒殺しようとしたあの事件──」
「ちょちょちょい! 私じゃないってば!」
「これは失礼。言葉が足りませんでしたね。あなたがエドワード王子を毒殺しようとしたと疑われたあの事件に関係していることです」
まるで私の反応を楽しむかのように笑みを浮かべるルエイム。
こいつ……わざとだな。
「到着してみればこの領地の公認勇者が何者かに襲撃されたというじゃないですか。おまけに、その賊は勇者から『聖遺物』を奪って逃走したと」
「あ! それ!」
ルエイムが取り出したのはあのナイフ──勇者ザザンの『聖遺物』だった。
「返してよ! 私がもらったんだから」
「バカなことを言うな。これは我が国の宝具殿から盗まれたものだ」
「盗まれた……?」
また「バカ」と言われたことに文句を言うのも忘れて、私は聞き返す。
「リンデンは王国に仕えていた頃、聖宝具殿から多数の『聖遺物』を盗みだしていたことが発覚しました」
「リンデン……? 誰だっけ」
「お前に毒殺の罪をかぶせたあの司祭だ。なぜ覚えていない」
「私、嫌いな人のことはさっさと忘れることにしてるの」
マトゥーカさんにケガをさせたようなやつのことをいつまでも覚えていたくない。
「リンデン司祭……元司祭は盗み出した『聖遺物』を横流しすることで聖王国の貴族たちと関係を深めていたようです。その証拠を押さえるため領内をくまなく捜索するつもりだったのですが、手間が省けました。あなたのおかげです」
「はいはいお役に立てて光栄ですことよ」
「今頃は俺の部隊が領主と子飼いの勇者を拘束しているはずだ」
「貴族院の法廷で会うのが楽しみです。失脚させそこねた私の前で、彼がいったいどんな顔するのか」
うわー、二人して悪い笑みを浮かべてるわ。
ちょっとだけ領主に同情……はしないわね。ちっとも。
とかなんとか話をしているとお馬さんが嘶き、同時に馬車が停まった。
そこはずぶんと立派なお屋敷の庭だった。
ルエイムがお屋敷向かって進むのに合わせて内側から扉が開かれる。
一瞬たりとも主の歩みを妨げてはならないと仕込まれているかのような動きだった。
そうして訪れた屋敷の中」では執事のおじいさんとたくさんのメイドたちが待ち構えていた。
ルエイムたちが足を踏み入れるなり、彼女たちは一斉に頭を下げる。
これまた一糸乱れぬ動きだ。
「ルエイム様、お帰りなさいませ。エドワード殿下もようこそお越しくださいました」
「じいも元気そうだな。相変わらず使用人たちを怖がらせているのか」
「滅相もございません。皆、よく働いてくれておりますよ。私が尻を叩いたのは後にも先にもイタズラばかりする悪ガキ王子くらいのものです」
王子の嫌味に嫌味で返すこの執事、できる……!
私も見習おう。
「ルエイム様、急なお戻りの理由をおうかがいしても?」
「思ったより仕事が早く片付きました。彼女のおかげです」
ルエイムの言葉をうけて、執事さんの鋭い視線が私に注がれる。
忘れてた。
あの変態勇者に切り刻まれたせいで私の一張羅はボロボロだった。
「これはまた変わった格好でございますな。カーテナ領ではこういったファッションが流行しているのでしょうか」
「どちらかと言うと彼女の趣味ではないでしょうか」
「んなわけないでしょ! 変態勇者にやられたのよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
「変態勇者とは?」
「気にしないでください。今頃は全身の霜焼けに苦しんでいるでしょう。それより、彼女の身支度を調えてあげてください」
「かしこまりました。ところで、身支度とはどの程度のものをご用意すればよろしいでしょうか」
「そうですね……私やエドワード殿下の隣を歩けるくらいです」
「つまり、どこに出しても恥ずかしくない淑女をご所望ということですな。これはやりがいがありそうです」
なんとなくわかってきたぞ。
エドワードとルエイムの性格の悪さは子供の頃からこの執事さんとさんざんやり合ってきたからに違いない。
「お嬢様、お名前をおうかがいしても?」
「あ、アリスです」
「ではアリスお嬢様こちらへ。わたくしめがエスコートさせていただきます」
執事さんは、そんな風に妙に芝居がかった所作で私を案内してくれるのだった。
この主人公、しょっちゅう牢屋に入ってる……




