鉄格子の中でできること(一ヶ月ぶり二回目)
あの変態勇者は、女の子たちが踏んだ葡萄で作ったワインで商売をしていたらしい。
自分を社長だと言い張ってたのは間違いではなかったみたいだ。
生産量は少ないが、その筋の貴族や金持ちの間では珍重され高額で取引されていたらしい。
ご丁寧にワインのラベルには女の子の足を強調したようなデザインまで採用していた。
なかなかに邪悪な商売である。
さて、そんな変態勇者のもとで働かされていた女の子たちを村に帰してあげた。
女の子たちが無事に戻って来たことに家族や恋人はとっても喜んでくれた。
いやー、たまにはこういう正義味方的な活動もいいもんだね。
例の婚約者同士も熱い抱擁で再会をかみしめていた。
途中、二人の間に妙なやり取りがあったりもしたが──
「靴が脱げちゃったわ。履かせてくれる?」
「え……あ、はい」
跪いて靴を履かせる未来の夫を見下ろす彼女はなんだか恍惚としていた。
もしかすると勇者の元で新しい性癖に目覚めてしまったのかもしれないが、愛があればきっと乗り越えられるだろう。
そんなわけで、良いことした私は意気揚々と聖王国の都までの乗合馬車が出ているという街へと向かったのだった。
さて、このあたりで私がどういう経緯をへて聖王国までたどり着いたのかについて話しておこう。
イルランドの王都に到着したのがだいたい一ヶ月くらい前のこと。
肝心の商隊はタッチの差で聖王国に出発してしまっていた。
それからどうしたかと言えば、次に商隊が来る一ヶ月後まで王都で働いて待つことにしたわけだ。
それはもう地味で目立たずバイトに明け暮れるの日々……にはならなかった。
『白銀湖』と呼ばれるイルランドの『大聖遺物』と、それを操ることのできる鍵──“聖剣”の継承者を巡って巻き起こる宮廷闘争に巻き込まれることになってしまったのだ。
紆余曲折あり、イルランド王国には二〇〇年ぶりに『勇者』が誕生することになる。
意図せず私はその後押しをしてしまった。
『勇者』を倒すために旅に出た魔王の娘が、新たな『勇者』を誕生させてしまうなんて本末転倒もいいところだけど、『勇者』はすっごく良い子だし、今では友達と呼べる間柄だから後悔はしてない。
そんな感じであれこれやらかして街に居づらくなった私は、ローガンさんに紹介してもらった商隊が戻るのも待たず逃げるようにイルランドを後にしたのだった。
時には歩き、運が良ければ村から村へ荷を運ぶ商人の馬車に乗せてもらったりしつつ、やっとのことで聖王国の領内までたどり着いたのだった。
目的地である都まではすぐそこというところで、“悪い勇者”の話を耳にした私は討伐に向かった──
というのがここまでの経緯だ。
「ほんと、さんざん寄り道するハメになったけどやっとここまで来たって感じね」
「どの件もそなたが積極敵に首を突っ込んでおった気がするがのう」
鞄の中からひょっこり顔を覗かせながらりっくんが痛いところをついてくる。
街の通りはけっこう人が多い。見るからに怪しい黒ナマコがしゃべっていたら大騒ぎになりそうなものだけど、りっくんは私以外には見えないし声も聞こえない。
いわゆる、「あなたの心に直接語りかけています」ってやつだ。
「すぐに乗合馬車で出発と言いたいとこだけど、まずはこの破れたズボンを買い換えないとね」
さりげなく話題を変えてりっくんのツッコミをスルーする私。その時だった。
「そこの娘、止まれ!」
武器を持った男たちが私の前に立ちはだかる。
格好からして街の警ら隊だろう。
「栗色の髪に破れたズボン……情報と一致します!」
警ら隊の人たちは、武器を構えて私を取り囲む。
逃げるのは簡単だ。でも、理由がわからないままでは気持ち悪い。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 誰かと勘違いしてない!? 私、やましいことなんてなんにもないんですけど!」
「とぼけても無駄だ。貴様が勇者ザザン様のお屋敷を襲撃したことはわかっている」
あ……。
「いや、でもあの自称勇者は村から女の子を連れ去って無理矢理働かせてたのよ!?」
「娘たちは正式に雇われたと記録に残っている。そもそも、ザザン様は領主様が公認された勇者だ。公認勇者にあだなすは領主様に剣を向けるに等しい」
「なによそれ!」
あんな変態紳士が領主の公認!?
ていうか公認勇者ってなに!?
「娘を捕らえろ!」
私は有無を言わさず逮捕された。
* * *
「なっとくいかーん!」
冷たい牢獄(一ヶ月ぶり二回目)の中心で、私は憤懣やるかたなく叫んだ。
「なにが公認勇者よ! あんな変態! その領主もぐるなんじゃないの!? ということは領主も変態よ変態! ぜーったいそうよ!」
「やかましい! それ以上叫ぶなら水をぶっかけるぞ!」
「う……」
見張りの人に怒鳴られた。
いったいどこから汲んでくるかもわからなあい水をかけられるのは嫌なので仕方なく黙ることにする。
でも、不満と怒りの炎は燻ったままだ。
「あのような連中、蹴散らして逃げればよかったであろう」
りっくんが呆れたように言う。
「騒ぎを起こしたら都に入れなくなるかもしれないじゃない」
「いずれにせよ、この状況ではどこにも行けはせんがのう」
まったくもってその通りだった。
毒殺犯にされた時と違って、今回は疑う余地なく私がやったわけだし。
「いっそのこと、領主のとこに乗り込んで話をつけるとか?」
「そなたの場合、最後には領主の屋敷を丸ごと氷漬けにするとか跡形もなく吹き飛ばすとかいうことになるのではないかや」
そんなことしないわよ! と、いつもなら言い返すところだができなかった。
領主があの勇者と同じレベルの変態だとしたら思わずやってしまいそうだ。
「さすがに領主とケンカしちゃまずいわよね?」
「まず間違いなくこの国自体を敵にまわすことになるのう。すでにそうなっておると言えなくもないが」
なんてこった! 詰んでるじゃないか!
私は頭を抱えた。
「俺が助けてやろうか」
鉄格子の向こうから私に声をかけてきたのは、こんな場所にいるはずのないあいつ──
エドワードだった。
しょっちゅう牢に入れられる姫様




