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正しい勇者の倒し方  作者: 冷田和布
勇者学園
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地下蔵の秘密

 私がここにきた目的は二つ。

 一つは連れて行かれた女の子たちを救出すること。

 もう一つは()()()『勇者』がどんなやつか確かめることだ。


「これが『聖遺物』ねぇ……」


 あらためて、勇者ザザンからふんだくった──

 じゃなくて、もらった『聖遺物』をマジマジと見てみる。

 妙に凝った装飾以外はなんの変哲もないナイフだ。


「シューティングスターナントカ! やぁ!」


 見よう見まねでナイフを投げてみた。

 当然、ナイフは分裂しない。

 それどころかあらぬ方向に飛んで行ったうえに刺さりもせずその辺に転がった。

 相変わらずひどいコントロールだ。


「なにやっとるんじゃ」

「うおう!? りっくん……!」


 パタパタと小さな羽で飛んできたのは一見すると黒ナマコ。

 しかしその正体は巨大な黒い龍である。ちなみにメスだ。


「りっくん、見てたなら声かけてよ」

「そなたの密かな楽しみを邪魔せぬよう気を遣ってやったのじゃ。それ、見ててやるから続けるがよい」

「やんないわよ、もう」


 『聖遺物』のナイフを鞄の中にしまった。


「やっぱり、私には『聖遺物』の力は使えないみたいね。種族のせいなのかな。それとも別の理由があるのかしら」

「妾がくれてやった方は使えたのであろう」

「ああ、あれね」


 私が持っているもう一つの『聖遺物』は『宵闇(よいやみ)の翼』という黒いマントだ。

 これがまたチートめいた力を秘めていた。

 着ているだけで暑さや寒さを和らげ、並の剣では斬ろうが突こうが傷一つつけられない。

 強力な魔法や『聖遺物』が相手だとそうもいかないけど、破れてもしばらくしまっておけば勝手に修復される。

 さらに大きく広げれば落下速度が遅くなり、どんなに高いところから飛び降りてもふわりと着地できるという優れものだ。

 どうやら他にも便利機能がありそうだけどそっちは要検証中。取説とかあればいいのに。

 しかし問題は、見た目が邪悪すぎるという点。

 真っ黒で薄ら竜の鱗のような光沢と模様があり、首回りにはこれまた黒いファーがついている。

 普段使いにはまったくもってむいていない。

 そんなわけで、いつもは首飾りに変えて装備している。これも便利機能の一つだ。


「『聖遺物』は主を選ぶっていうのは本当みたいね。ま、どっちにしろこうやって取りあげちゃえば勇者もただの一般人よね」


 そんなわけで、また一人『勇者』を倒してやった。

 魔王(の娘)の面目躍如ってやつだ。


「ところで、連れ去られた女子(おなご)たちは見つかったのかえ」

「ううん。そっちは?」

「上の階にはおらんかったぞ」

「てことは、どこかに地下への入り口でもありそうね」


 なんて言いつつ、だいたいの目星はついてるんだけどね。


「お、あったあった」


 案の定、奥の倉庫に地下への階段があった。

 さっそく降りていくと、独特のツンとした香りが鼻をついた。


「これ……お酒の匂い? それもワインね」

「そなた、その歳で酒がわかるのかや」

「前世では多少嗜むくらいはしたわよ」


 前世の私はバリバリの社会人だった。

 無茶ばかり押しつけてくる上司と面倒見なきゃいけない若手たちの間に挟まれて、なかなかにストレスのたまる日々を送っていたので、たまにはお酒の力で何もかも忘れたい時だったあったのだ。


「しかし魔族の嗅覚も考えものね。匂いだけで酔いそうだわ」


 アルコール臭に鼻をつまみながら、さらに地下へと階段を降りていくとそこは思った通りワイン倉だった。

 さらに何やら水っぽい音が聞こえてくる。


「なにこれ? 何かを潰してる音?」

「あまり気持ちの良いものではないのう」


 整然と並ぶワイン樽の間を進んでいく。

 さっきの水っぽい音はどんどん大きく、近くなっていった。


 そして怪しい地下で、私たちが見たものとは!

 

 もったいぶっても仕方ない。

 そこで繰り広げられていた光景は、大きな桶の中で円陣を組んで足踏みをする若い娘たちだった。

 水っぽい、何かを潰すような音の正体はその桶の中らしい。


「もしかして……“葡萄踏み”ってやつ?」


 ワインを作るための工程はまずぶどうをグチャグチャに潰すところから始まる。

 大量に作るなら圧搾機で潰すのが普通だけど、便利な道具のなかった大昔は人が足で踏んで潰していたと聞いたことがある。


「いや、なんでわざわざそんな面倒くさいことを……」


 樽の影からこっそり覗くと、勇者の子分たちが見えた。

 どうやら女の子たちを監視しているらしい。しかもワインを嗜みながら。


「やはりワインは若い娘が踏んだ葡萄で作るに限る」

「しかもその足を眺めながらの一杯は格別だ」

「オラ! もっと心を込めて踏むんだ! おまえたちのその“足”からエキスを絞り出すつもりで!」


「気持ち悪いことを言うな!」


 あ、しまった。

 あまりのキモさに思わず声を出してツッコんでしまった。


「なんだてめェは」

「新しく連れてこられた娘か?」

「ふむ……悪くない。よし、足の裏を見せてみろ」


「ぎゃあ! 近寄るなーっ!」


 背筋がゾワゾワする!

 

「「<愛しき茨(フレイヤ・ソーン)>!」


 私の呪文に応えて出現した“魔法の蔦”が子分たちをグルグル巻きに縛り上げる。

 いっそ爆裂系の魔法で吹っ飛ばしてやろうかとも思ったけど、ギリギリ踏みとどまった。

 邪悪な変態を相手に理性的に対応する私を誰か褒めてほしい。 


「あの……あなたは?」


 葡萄踏みをしていた女の子の一人が私に聞いてくる。


「あなたたちを解放しに来たの。村へ帰してあげる」


 私が言うと、女の子たちから小さな歓声があがった。


「よかった。家族のことが心配だったの」

「一生、葡萄や洗濯物を踏まされるのかと思ったわ」

「これでもう毎晩のように男たちの顔を踏まなくていいのね」


 なにやら変態めいたプレイの話が聞こえたような気がしたが……うん。聞かなかったことにしよう。


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