第一章帝都にてその2
ライカルは四帝連合の北部に根強い人気を誇る中堅ソルベリ商会の長男である。今、商会では弟のリートに期待がかかっているが、六歳の頃まではライカルを次期商会長にという両親の考えで経済について浅からぬ知識を身につけていた。その中にはその都市の経済の規模などを簡易的だが、推測する方法を教えられていた。それは簡単にいうと商品の値段である。値段が安いということは大量の在庫があるということ、逆に、高いということは限られた在庫しかなく、その土地の経済が貧弱であることを表している。もちろん、その土地でしか採れないものや生産量に差があるものはその限りではない。だが小麦や芋等はいろんな所に生産地、消費地があり世界中で取引されているので経済規模の指標にぴったりなのだ。
そしてライカルのいた北部においては芋が6個で250アル(アルはこの世界の通貨です。)なのに対し帝都では18個で100アルなのだ。これは決して北部の経済が貧弱な訳ではないのだ、むしろ戦いがよく起きるため、軍人がよく戦の前や後に何かを買ったり、国境近くなので人や物はよく動いており、全体で見れば上位の経済力を持っているのだから250アルでもかなりの安さなのだ。だからこそ、帝都のこの値段こそ異常なのだ。
流石は聖都、カラーズリス帝国の帝都に並ぶとされ、三大都市と称されるカルーフェだ。
帝都の力の強大さを知りかなりライカルは興奮していた。
その後も、北部にはなかった見た目に凝ったお菓子や店のサービス等を体験した。…そのどれもが普通に北部で買ったり、店で飲み食いするときより、安く、美味しい、とわかったときは流石に笑うしかなかった。
そしてライカルが一番目を見張ったのが四帝連合の指導者である今代の皇帝アウグスト・フォン・タルヌールとその血縁たちが住む帝都カルーフェが誇るエディンヒィール城とその周りを囲むように建ち並ぶ宮廷貴族の邸宅や領地貴族の別邸、将軍達の館がどれも建築様式を揃えており、一体感を生み出し、見るだけで不思議に感動を覚える。
それに商人として、品物に対する確かな目を育まれてきたライカルにとっては、貴族達の館は様式は統一されているが窓枠の装飾、微妙な高さと幅の比率の違いに至るまで同じものはなく、ひとつたりとも似ているとさえ感じないのに、どの館からも気品が感じられて景観を損なう所がない。これが貴族なのか!とライカルは自然と畏怖の念を抱いた。
そして、帝都に入って大通りを直進すると現れる『偉大なる四皇帝』の像の前で立ち止まり右腕の肘を肩より少し低いくらいの場所首の前で握りこぶしを作り、四秒位その態勢を維持する。
この動作(帝国式敬礼)はこのカルーフェにおいて、過去の四帝国の皇帝たちに敬意を示す意味で行われるものである。これを知らない場合心優しい人が教えたりしない限り、帝都で嘲笑の対象になるため、さまざまな人に認識されるようにしなければならない。
(面倒だなぁ。)
と内心で悪態をつきながらも表面上は本当に敬意を払っているかのように振る舞うライカルはおそらく、商人としても十分な才能を持っていることがうかがい知れる。ライカルはこの習慣を糞ほどの役に立たないものだと思っており、自分が偉くなったら帝都以外に本邸を構えてこの習慣から無縁の生活をしようと本気で考えるほどであった。
ライカルがこの習慣をめんどくさがるのには理由があります。なぜなら、帝都に出入りするとき以外でも、この像が見える位置にいたならば、一日に何度もこの動作をしないといけないからです。流石に意味のわからん動作を何度も繰り返すのは苦痛でしょう。今度からは、この動作を敬礼と称することにします。また、問題点やパクったと思われるような部分がございましたらしっかり指摘していただけると幸いです。ブックマークもよろしくお願いします