第二章 本当の…
ジャーベラ中央部にて
「シャーロック様、レンベルク将軍率いる丘前面守備軍が、相当な苦戦を強いられています。将軍より救援求むと。」
その知らせを聞いたシャーロックは顔をしかめ、救援を考える。
「…よし、本陣守備の千五百を救援に向かわせろ。それを軍に厚みをもたせるのに使えば奴ならそれで十分だ。」
「は。」
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レーズリー等五人はシャーロックから本陣守備を任されていた。
開戦してより一度たりとも本陣から動いていない彼等はシャーロックからの指令が来た瞬間、直ぐ様行動を開始した。
「……」
しかし、昂っていた筈の彼等はすぐに消沈する。
ドーラスト・ビンドックという怪物を真正面で見てしまえば余程肝が据わらなければ身体が、細胞単位で硬直する。
すぐ近くにいるわけではない。人を数百人、数千人挟んだところに居るだけ…怪物は彼等を認識すらしていない、なのに彼等は恐怖する。
彼等とは別に、レンベルク軍に編入されて、後方にいた二人の特殊士官上がりの三百人隊長が狂乱し、逃げるでもなく、意味の無い突撃をし、今しがたレーズリー等に見えるように両断されていたことも彼等を恐怖させた。
「…か、勝てるわけがない。」
そう言い出したのは誰だったか…普段なら強気を崩さないレーズリー、バルディアでさえその言葉を咎めない。
彼等は知った、いや、感じた…いや理解した。
少し前に戦ったレステュス等も、大将軍と同じく国を代表していた。
そのレステュスに向かって足を踏み出した筈のバルディア、ライカルはドーラストに対して動かない。
いや、動けないのだ。国の規模が違えば、敵が違う。国内での競争も桁違い。そんな中でアドベナントの顔となった大将軍は未熟な彼等に明確な死を示唆する。
結局彼等は、レンベルクの指示に従い後方にて軍に厚みをもたせるだけだった。
その事を何となく予感していたシャーロックは大して責めることは無かった。
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その頃、ラストランとメストルノが対峙するこの場は、中央以上の熱を持っていた。
戦場のほぼ中央で二人の男がしのぎを削っていた。
ラストランとメストルノである。
メストルノが先陣に立ちながら前進するアドベナント王国軍は昨日までとは熱量が違い、四帝国軍の絶対的優勢を覆しかけていた。
そこでラストランがメストルノの進撃を止めるべく一騎討ちを仕掛ける。
メストルノはその、大剣をそのまま先端に搭載しているのではと思わせるような規格外の大槍を豪快に旋回させ、ラストランの肉体を消し飛ばそうとする。
対してラストランは愛用の剣を腰に下げ、手に装飾の施されていない、ただただ戦闘を想定して造られた槍を持ち、ただ速く、ただ正確に、ただ力強く槍をふるいメストルノの隙をつく。
しかし槍の年季の差か、戦場の経験の差か分からないが少しずつメストルノをラストランが追い詰める。
メストルノがラストランの胴体を狙い槍を動かすが、躱すでもなく、迎え撃つでもなく槍を巧みに操り必殺の一撃を逸らす。そうしてがら空きになったメストルノの心臓をラストランが狙うが、メストルノは大きく体を右に傾け、避けるとともに左に逸れた大槍を返し再びラストランを狙う。
ラストランは冷静にそれを避け、再び槍の応酬を始める。
メストルノも攻めてはいるが、ラストランに攻撃速度、練度は軍配が上がるため、どうしてもラストランの方が攻撃が多く、強力になる。
段々とメストルノの重厚な鎧に傷がつき始め、それが深く大きくなっていく。
ラストランの勝利は時間の問題であった。
更に今まで動かなかったカーセン・クラウストが最後の上将であるジャルアットのもとに向かいジャルアットを討ち取った。
ジャルアットは軍の指揮もさることながら、個人の武勇にも長けていた。しかし、カーセンの鋼鉄をも抉る斬撃がジャルアットの剣ごとジャルアットを両断した。
その間にもジョン・ジャックソンが戦線を荒らし回り、覆されかけていた戦場を引き戻した。
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さらにさらに、ソーラス率いる右翼は近衛戦士団を半日で殲滅し、軍を中央の戦場に向かわせた。
これが到着すれば如何に大将軍と言えども、難しい戦場になる。
本来ならばレンベルク等を粉砕できた筈だが、次の公国等との戦に備えて力を温存していた彼等の驕りが、この戦況を産み出していた。
終結は近い。