第二章 大将軍
初日を両翼優勢で切り抜けた四帝国軍は二日目、三日目と同様な形で進めた。
左翼ラストラン軍は二日目にジョン・ジャックソンを先頭にカッセン本陣に迫り、その首級をあげた。
それによって勢いづいたラストラン軍は三日目にそのままの勢いを保ちながらウィリアム、ディムセルの二人をも討ち取り、戦局を決定づけた。
最後の上将、ジャルアットが必死に兵を纏め、抗戦しているが、結果は目に見えていた。現に四日目現在、ラストラン軍がジャルアット軍を正面より分断し、各個撃破に移った。
さらに、ソーラス率いる右翼は、経験の乏しいデランダルトを手玉にとり、一時は近衛戦士団の壁を突破し、デランダルトをその視界に納めた。
これは失敗に終わったが、本陣に迫られたことが余程堪えたのか、デランダルトは本陣をかなり後ろに下げ、ただでさえ指揮が稚拙だったのに加え、指揮の速度、現状把握の速度が共に落ちた。
そのためさらに劣勢になったアドベナント王国軍左翼だが、その隙を戦巧者のソーラスが突いた。
ソーラスは第一軍の精鋭を率い、再び正面よりデランダルトに迫った。デランダルトは流石に意地を見せ、不退転の覚悟でこの場でソーラスを迎え撃とうと防衛の構えをとった。
しかしソーラスは本陣を無理に攻めず、隊を反転させ、再びアドベナント王国軍左翼本隊を急襲し、これを完全に分断。
右翼と同じく軍を分断され、殲滅の危機に陥った。
しかし、ここで三日間動きを見せなかった、アドベナント王国大将軍メストルノが動きを見せる。
もともと戦力比3:2で優勢だったアドベナント王国軍中央軍だが、メストルノの参戦により戦局が動く。
メストルノを含む四人の大将軍は皆先陣を自ら切る猛将に分類され、幾度と無く戦局を覆した彼等の参戦は四帝国軍中央にとってはあまりに大きい。
それに対応するために本陣で指揮するシャーロックは予備兵力一万を中央軍に投入したが、戦力比5:3となった戦場はあまりに厳しすぎた。
シャーロックはこの事態に右翼のソーラスを中央に呼び出すことで対応した。
実際、右翼の戦場は、ほとんど決しており、ソーラスの武力は持ち腐れていた為、理には叶っていた。
しかしそれでも中央はアドベナントに追い風が吹いており、四日目、四帝国軍中央軍は大幅な後退をすることになった。
ソーラスが力不足な訳ではなく、実際メストルノ個人の進撃を少なからず止めていた。それでも、勢いづいたアドベナント兵は止まらなかった。
「くそッ、これだからアドベナントの奴等は厄介なのだ。一度動き出せば将が居なくても、勢いそのまま進撃する。」
「しかし、閣下。アドベナント王国軍中央軍は確かに優勢ですが左翼と右翼の戦場は此方が圧しております。明日以降はおそらく、そちらに力を注ぐかと。明日以降は中央軍と本陣を合流させ、丘で防衛戦を展開すれば、その間にラストラン将軍等が勝敗を決すると思われます。」
「…ふっ、俺等が丘を守りきれればだがな。」
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「デランダルト殿下、御無事でしたでしょうか。」
「……」
「殿下ッ」
「ッ………」
「……しばらくしたらまた参ります。」
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「デランダルト殿下は傷心中だな。」
「まあ相手が悪かったな。それにしてもソーラスがあれ程とは。あれなら十分四将に入れるであろう。」
「ハッハッハ。しかし、なかなかどうして大した男だレンベルクは。頭のできはそこそこだが、力なら俺等に並びかけているのぉ。」
「…それもラストランが上将を止めているからだ。今の四将ならば、ジャルアット達で十分事足りた。…ラストランは王国にとっての死神か。」
「…明日……明日俺が右翼を率いる。殿下の近衛戦士団等を壁にして、左からの敵の侵入を防いでる間にお前の中央と俺の右翼で敵を葬る。」
「…ラストランは脅威足り得ないか?」
「脅威だと感じるからこそ俺が往くのだ。」
「ならば何も言うまい。……頼むぞッ。」
「ああ、明日で決めてやる。」
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数日遅れてだがカルーフェに戦況報告が届く。
「ラストラン閣下が上将の三人の首級をあげたそうです。」
上将は名将として広く知れ渡っており、それは四帝国も例外ではない。
その上将を三人も討ち取ったとあれば、カルーフェが熱狂するのも無理はなかった。
たとえ他の後継者候補達だろうと、ラストランの戦果に喜びこそ見せるものの、負の感情など出ようはずもない。
「陛下、これは行けるのでは?」
「フゥー、頭を下げる心配は無さそうだな。」
そう、作戦は少し早まったものの、軍事大国であるカラーズリス、公国からしたら、合わせられる程度の歪みなのだ。
実際、両国共に王国攻めを始めており、王国は窮地に陥っていた。
そして二日後、カルーフェには激震が走る。
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「将軍、敵の配置に動きが見られました。」
「どうなっとる?」
「は。敵左翼は変わらず王国近衛戦士団等を主力とした軍ですが、中央はドーラスト軍が全面に立ち、右翼もメストルノの旗が確認されました。」
「老いてなお、勇猛ですか…」
「ハッハッハ、勇猛ではない。ただ耄碌して引き際、攻め際さえも分からんくなっとるだけよ。」
近年一部の例外を除き泥沼化することの多い数万規模の大戦だが、一週間と経たずして異例の決着がつこうとしている。
いつも通り主人公は空気です