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地球とは違う世界の物語  作者: 週刊M氏
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第二章 大召集

作戦会議より一週間後…四帝国連合軍第三軍にて


ライカル、レーズリー等は300人隊長に昇格してから、ラストランの北方軍集団から四帝国連合軍主力の一つである第三軍所属になっていた。


異例の栄転であるが、ボルヌンディアがバルディアのことを気に入っており、ラストランがそれを配慮したためと思われている。


「失礼いたします。レーズリー・アルメア以下五名が参りました。」


「うむ、通せ。」


カルーフェ近郊にあるジュベア市にたてられた第三軍の施設に新鋭300人隊長達は呼ばれていた。



ボルヌンディアは彼らが入室したことを確認すると用件を伝えた。


「此度の召集はお前達に次の戦争について知ってもらうためだ。次はアドベナント王国との戦だ。」



「…アドベナント王国とですか?」



アドベナント王国とは大陸東部の国である。四帝国連合が南にあり、公国が西、カラーズリス帝国が北と、強国に囲まれているにも拘らず、四帝国連合建国前より変わらず存在しており、大陸の中でも古い歴史を誇る。


そんなアドベナント王国はいつの時代も四人の大将軍君臨している。


四人の大将軍擁する王国は公国の前身、ハルトレット連合衰退を招き、大陸東部に影響力を広げてきた聖皇国を幾度ともなく撃退してきた大陸東部の雄である。


少し前に四帝国連合のアルデュス率いる四将に暴れられ、今はカラーズリスの台頭により、東部における影響力が下がっているが、それでも大陸東部を代表する大国である。


さらに王国には大将軍だけでなく、守備の名手である四人の上将を有しており、その攻防完璧な陣容にはさすがのカラーズリスとて容易に手出しできない程だ。


そんな国に攻め込もうとしているのは、レーズリー達にとって驚きしか出てこない。


「それにな、今回は我が国だけでなく公国、帝国の二国との合同でだ。俺も詳しくは知らんが、帝国はアドベナント王国を滅ぼす勢いで戦争をするそうだ。」



特に誇張もせず伝えられたその言葉にはあまりにも衝撃的な内容が散りばめられていた。レーズリー達の顔に動揺が浮かんだが、ボルヌンディアは敢えてそれを黙殺し、会話を続ける。


「そして、他の者にはもう伝えたが、今回は俺の三軍、レンベルクの二軍、さらにはシャーロックの一軍の連合軍で攻め込む。作戦まではしばし空いておるが、準備をしておけ。」



「「了解しました。」」


~~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~~


「おい、聞いたか。今回は連合軍で、それも四将全員で戦うそうだぞ。そんな作戦に参加できるとは…」


バルディアが、興奮冷めやらぬような口調でレーズリーたちに語る。




「そうだね、バルディア。しっかり活躍できるようにしないと。」



「四将が揃ってか…アルデュス陛下の治世の際にはよく起こったと聞くが、最近は単軍、もしくは二軍での戦闘しかなかったからな。それもアドベナント王国との戦だ。これは興味深いな。」



「……アドベナントと言えば、大将軍達を擁していた筈。どう戦うのかな?」



「さあな。恐らくだが公国、帝国の軍が相手取るんじゃないか?」


彼らは解散したあとも興奮冷めやらず、どこか落ち着きがなくなっていた。しかし、機密を漏らしたりはしなかったために、情報の拡散は防ぐことができた。


~~~~~~~~~~~~~~~


~~~~~~


アルデュアント市にて…


防音効果がある程の分厚い壁に囲まれた部屋に二人の男と一人の女がいた。


「アーデルヴァイツ提督、ハードラヴェント提督、招集に応じていただき感謝する。」


「いえいえ。しかし、第一艦隊はともかく、私の第五艦隊までも呼び出されるとは…如何様な作戦で?」



「……」



「実はですな、先日からアーデルヴァイツの饒舌な口が止まってましてな、私はなにも知らんのですよ。」


ハードラヴェントと呼ばれた男が面白おかしく訪ねると…


「ハッハッハ。いやー今回はアドベナントに攻めるのですがあまりにもアドリーナ・ラヴォが難儀でしてな。そこで王国沿岸に上陸作戦を、と思いまして、上陸部隊が載った輸送艦隊の護衛諸々を任せたいという次第です。」



「…なるほど。陸上戦を知らぬ我々にまで聞こえてくる程アドリーナ・ラヴォは強力らしい。………………しかしながら、私の第五艦隊が呼ばれた理由が見えてきませぬ。このじゃじゃ馬が不機嫌になる程の作戦があるのでしょう。お教えいただけますな?」



ハードラヴェントは海軍の中でも異質な立ち位置にある。帝国の第五艦隊の提督ではあるが、その第五艦隊は試験艦隊であり、統一されてない武装、艦船の規格、船の上に取り付けられた破城槌に投石機、巨大な弩等々、様々な要素により通常戦力としては数えられておらず、結成されてより三世紀の歴史を持っていながらも、ただの一度も実戦投入されていない艦隊である。そんな艦隊を率いる提督という立場は、アーデルヴァイツをして、扱い方に困るほどである。




ラストランが先程の問いに答えようとすると、アーデルヴァイツが先んじて口を開いた。



「この男は吹き下ろしの風を背に輸送船でジーヌェットを越えようとしているのだ。あそこは海賊、アドベナント海軍も近づかないゆえ、うまく行けば輸送艦隊だけでも上陸地点まで進めるだろうが、風と荒波に艦船が耐えきれ無いことは目に見えている。」



其の言葉には、少しの失望と大きな呆れが含まれていた。その声ができっこないと諦めていた。


アーデルヴァイツはラストランのことを高く評価していたのだ。堅実的な戦いかた、自己だけでなく周りを見渡せられる広い視野、会議の際に陸軍と海軍の対立を鎮め、まともな話し合いに変貌させる其の手腕……陸にもまともなやつがいる、そう考えたからこそ招集に応じたのに海上の作戦において海の専門家たる自身の意見を聞かず、海軍が頭を縦に振る前に陸軍の動員を始めると言う騙し討ち、評価が高かっただけに失望も大きい。



しかし、



「ということは我が艦隊の役目は、輸送船に劣らぬ程の重量を誇る試験艦船でジーヌェットの荒波を輸送艦隊と共に越えて、上陸地点の敵を投石機等を用いて一掃し、上陸地点の確保か……面白い。アドリーナ・ラヴォを越えると言う偉業に、ジーヌェットを越えると言う偉業。素晴らしい、是非とも参加させていただきたい。」



「…まともな実戦に行けない虚しさからとち狂ったかハードラヴェントッ!」




憤慨するアーデルヴァイツを見つめてハードラヴェントは言葉を続ける。


「曇ったな。不可能を可能にするのが海の者達だ。実際ジーヌェットをはじめとして国や時代、場所は違えどもッ、周りに反対され続けてなお諦めず、海路を切り開くッ、その誉れ高き精神を受け継いできたのが我々だ。その我々がどうして出来ぬと言う、不可能に思える道だからこそ我々は挑まねばならぬッ。そうではないかアーデルヴァイツ=シュナイドゥ=アーネガー?」 



一流のアーデルヴァイツをしてこの熱量には押し黙るしかない。そして変わった自分を知る。聖皇国海軍との戦いで多くを失ったせいで、どこか変化を恐れていた自分がいた。それを押し潰すどころか、受け入れていた自分に腹が立つ。



「確かに、私は実戦に出ることができなかった。日に日に増える失敗作や異質な船を運用するお飾りの立場にも悔しい思いをしたさッ。だが…だがッ日々海に出て活躍し続ける貴様がカッコ良かったのだッ。いつかそうなると胸にだいていたからこそ腐らなかったのだ。陽の目に当たり続けた貴様がッ、日陰しか知らぬ私達より先に諦めてくれるなよッ」


「ッ!?」


今までの醜態を晒し続けた己が、今まで見下してきた者たちに心を奮わされる弱き己が、憎い。



腐った自分にとって、腐らなかった彼が羨ましく思える。そしてラストランは確かに海の意思を持っていた。


海の者達を率いる自分がこのままでよいのか?





そんなはずがないッ




「揃いも揃って馬鹿どもが一人前に語りよって…良かろう愚か者どもッ私もこの作戦に乗るぞッ。」



ラストランやハードラヴェントは吹っ切れたアーデルヴァイツを見て笑みを浮かべる。


ラストランは昔のアーデルヴァイツを苦手としていた。だからこそ殻に閉じ籠りかけているアーデルヴァイツを歓迎していた。しかしそんな者にアーデルヴァイツと言う名前は、第一艦隊の提督は不相応に感じた。惑っていた己が心だが今の姿を見て確信に至る。




ハードラヴェントはアーデルヴァイツを憎んでいた。自分より若く、それでいて才能、実力を兼ね備えた彼の者に消えてくれといつも思っていた。

少しでも弱さが有ればといつもいつも思っていた。


しかし、弱いアーデルヴァイツに気づいたとき、彼が思ったことは強いアーデルヴァイツ以上に気に入らない、だ。自分達を、ライバル達を抑えてその席にいるのだから堕ちないで欲しかった。自分が負けたのは強きアーデルヴァイツなのだから。







アーデルヴァイツは復活を果たした。それが良いことなのかと言われれば疑問が残ってしまう。弱いアーデルヴァイツも現実的で良き点もあった。



それでも本人が認めず、周りも認めない弱いアーデルヴァイツはもういない。


今ここにいるのは世界に喧嘩を売ることを厭わない不敵なアーデルヴァイツ=シュナイドゥ=アーネガーだけだ。

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