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地球とは違う世界の物語  作者: 週刊M氏
31/38

第二章  三国同盟



小国連合軍侵攻から約一年…



公国貴族連合軍と四帝国連合軍との戦争が泥沼化し、かなりの被害が双方に出たため、一部特殊な条件をつけての講和及び、同盟の締結となった。


戦争していた国が終戦後すぐに同盟を結ぶのは珍しいがたまにあるのでそこまでの話題性は無かった。しかし、その同盟は大陸全土を揺らがし、諸島国家連合すら驚く程であった。


同盟に異質な参加者がいたのだ。


その国は、カラーズリス帝国である。


カラーズリス帝国は大陸の2割の領土と一割強の富を持つ大国であり、軍においては公国軍に負けたものの、ライザジールや、アーシュを始めとする強力な若手や黒槍、弓騎士のような老練で強かな将軍達を擁しており、聖皇国に次ぐ規模、質を兼ね備えている軍事強国の一面も持つ。


そしてカラーズリス帝国は同盟を結ぶことはほぼほぼ無い。


そんな国が同盟に参加したのだ、これは大陸の四割以上の領土、三割に達する人口を誇る大陸最大の宗教国家である聖皇国ですら喰われかねない事態である。


世界がこの三国同盟の動向に注視することとなる。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~




公都ジヌヴァ・ハルトレットにて




いつも活気に満ち溢れている公都であるが、この日ばかりは異様な重圧を放っていた。



公都ジヌヴァ・ハルトレットの中央に建てられたジャクレアット城の中でカラーズリス帝国、四帝国連合、公国の代表が集まっていたのだ。



カラーズリスからは帝位継承権第一位の皇子が、四帝国からはラルトラスの当主が直々に訪れており、公国からは外交部門の最高責任者である宰相が出席した。



「我が国が今回の同盟に参加させていただいた理由は対王国戦を考えてのことです。王国は今まで我が国の背後を脅かし続けており悩みの種でした。貴国達が同盟を結ぶということでしたので、この機会に南の脅威を封じ、王国に攻めいりたいのですよ。あなた方が協力してくださるなら、帝国は見返りを確約いたします。如何です?」



「見返りの内容を聞かないことには判断は下せませんぞ。」


「しかり。四帝国からしてみればカラーズリスの増大より、王国と組んで貴国に対抗する方が良いと思うのだが。」



「確かに我が国の今までの行動を見れば四帝国の考えは当たり前のものと言えます。しかし、我が国は公国に攻めいる気が全く無いのです。我が国の理念は一貫して帝国の安寧のためにあります。北方小国郡を併合したのは国力増強のためと大陸中央の小国地帯のような常時戦争状態を防ぐためです。聖皇国に攻めたのは彼の国の伝統である聖戦行軍を迎え撃てるようにするため、山脈が必要だっただめです。」



「ほう、では我が国との戦争は何故?」


「それは貴殿方の北進があまりにも不愉快だったのでたしなめるためにです。」



「…ますます貴国とではなく王国と組みたくなったぞ。」



「…失礼だが、我が国にはさして利がないのだが。無論害も無いがな。帝国が王国を滅ぼしたら南進をしないと言うが王国は我が国とさして対立していない。貴国に協力しようがしまいが現状維持ではないか。」



「そうですが、我が国に協力するならば王国の南部の穀倉地帯を四帝国に、東部の人口地帯を公国にと考えているのですが如何でしょう?」



「いや、それであるなら王国に付こう。人口はそこまで増やさんで良いし、我が国にはむしろ王国と四帝国と我が国の三竦みの関係が好ましい。」



「これは可笑しなことをおっしゃる。三竦みですと?公国や、四帝国、アドベナント王国の三ヶ国は確かに大陸中央部や、南東部においては強国ですがベヌーレとビーアの二王国や騎馬民族どものジンラスント等、実力ある国も多数あります。そんな国とも時折戦争を起こす貴国が三竦みとは…驕りが過ぎませんか?」



「ほほう、我が軍にまともに勝てたためしがない国に心配されようとはな。驕っているのはどちらでしょうな。」



公国とカラーズリス帝国の険悪な関係は有名であるが、このままでは進展が無いと感じたラルトラス家の当主が場を動かす。


「まあ、下らぬ口論はそこまでだ。帝国も王国の領土の一部を与えるだけで我々が、特に公国が味方になるとは思っておるまい。」



「やっと話が進みますね。アーケド閣下、感謝します。」


「気にするな。それで、見返りは?」


「今後三世代に及ぶ軍事協定です。」


「ほほう、して、その内容は?」


(よし、ラルトラスは食らいついた。あとは公国だが…)


「はよ、内容を言わぬか。まさか内容も決めずにここに来たわけではあるまい。」



(食らいついた、あとは納得させるだけだ。)



「そうですな、簡単に言うとそれぞれの国の現指導者から三代後の指導者になるまでの間、聖皇国の聖戦行軍が起きた時のみ、三国間での戦争を何があろうと取り止め、合同での軍事行動をするというものです。帝国は百年ほど前、聖戦行軍により山脈より西側の土地を失陥し、帝国軍にも多くの被害を出しました。その轍を踏みたくないのですよ。」



(同じく聖戦行軍で先代四将の二人を失った四帝国は賛同する筈、やはり問題は公国…)


「カラーズリスと聖戦行軍…ヴィレンテンでの大敗北のことか。確かに我が国もジーテ戦役で苦い思いをしたな。聖戦行軍の被害を知ってるワシらからしたらとても嬉しいことだな。」


「公国も聖戦行軍に注力できることはかなり嬉しいものだが、それだけではあるまい。よもや、一国を滅ぼす対価が入らぬ人口に、いつ起きるかも知れぬ聖戦行軍に向けての協定だけとは言うまいな。」



「勿論です。もし王国を滅ぼす又は弱体化させる事が出来たなら、帝国のライザジールや、アーシュ等の主戦力を殆ど聖皇国に向けるので、貴殿方は我が国に対する守りを割かなくても良くなりますよ。」


「ハッハッハ。皇子は冗談もお上手らしい。」



「いえいえ、~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~~~~」



「~~~~~~~~~~」


その後一週間に渡った会談は終わり、軍事協定の締結、対王国戦の合意に至った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~


カルーフェにて



「ラストラン将軍、参謀総長としての最初の戦が決まりました。準備しておいて下さい。」



「ベドルート・サルーテン閣下、それは何処とです?まさか公国ではありますまい。」



「アドベナント王国です。」


「…では第2軍に国内の守りを任せて、第1軍と第3軍を使いたいのですが、宜しいですかな?」


「すみません、言葉が足りませんでした。今回は我が国だけでのものではなく、公国とカラーズリス帝国と我が国の三ヶ国でのものです。」



「………それは真ですかな、にわかに信じがたいのですが。」



「ええ本当です。今回の会談に仲介役のカラーズリス帝国が乱入したためとのことです。」



「…どのくらいの規模でするおつもりか?」



「軍の規模は各々の自由、しかし目標は王国の壊滅のためそれが出来るだけの軍容を用意すべしとのことです。」



ラストランは頭を抱えそうになる程憂鬱になったがそれでも務めを果たさんとした。



「我が国にあてられた役割はどのようなものですかな?」



「…カラーズリスからの書にはカラーズリスが王国の大将軍二人を引き受け、公国も二人引き受ける。四帝国は王国南部…即ち、王国の上将達がひしめく、アドリーナ・ラヴォを突破し、王都を落とせとのことです。」



アドリーナ・ラヴォ…それは王国南西部から南部にかけて築かれた要塞地帯の総称である。


アルデュス率いる四帝国連合軍に対抗するために築かれたそれはアルデュスについぞ使われることが無かったが、有事に備えて年々改修を施され、王国南部の守りの要となっていた。


そこに詰めている将軍達も一流揃いであり、王国軍において大将軍に次ぐ実力を持つ四人の上将までも詰めているのだ。


上将は攻めの要の大将軍に対して守りの要である。時折公国が、南西部の土地を掠めとらんと軍を起こすが、その尽くを弾き返した程である。



それを落とすには最低でも、四帝国の主力である第1軍と第2軍と第3軍の全てが必要であるとされている。



(これを落とすのはほぼほぼ不可能であろう。シャーロック達の強さは野戦にあり、城攻めには向いていない…かといって他に大軍を率いることの出来る将も居らん。)



「…閣下、質問良いですかな?」



「どうぞ。」



「…勇士五家は動かせますか?」



勇士五家…アルデュス率いる四帝国連合軍において、武功をあげたことで昇爵された五つの貴族家の総称である。


オストロイ家は国外へ亡命、ジョンラッテは世継ぎがなく、途絶する等して当時から続いているのは、クラウスト家、レーベルアー家、シャーネガント家の3家、ジョンラッテについては今代のタルヌール家当主の兄が継いだことで復権を果たしたが、権威は下がっている。


その家らは四将と違い、要塞を落としたりと、どちらかと言うと要塞、陣地攻略、守戦を得意とするため、今回の戦にて軍を率いてもらいたいのだ。



しかし、


「無理です。勇士五家については帝国の防衛を任せているために動かせません。」



「……では、ワシの直下兵はどうですかな?」



ラストランは五家が無理ならと自分の軍を率いようとした。



ラストラン軍は忍耐力が必要な戦いや攻城戦を得意としている。なればこそ、今回の戦で役立つだろうと思っていたのだが…


「将軍の私兵も駄目とのことです。いや、少しなら良いのですが、大規模な運用は避け、国の顔である四将の軍だけで攻略せよとの事です。」




少しの間を空け…



「………了解いたしました。」


としぶしぶ了承した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~



2週間後…



カルーフェには四帝国が誇る四将のシャーロック、レンベルク、ボルヌンディア、そしてシャーロックの副官ソーラスといった四帝国連合軍の名だたる武官が集められていた。


そして呼び出した本人である、「軍参謀総長」兼「第二皇女後見人」ラストランが室内に入室した。


「全員揃っておるな。各々忙しかろうにすまんな。」



「無駄話は不要。早く本題を。」


「相変わらず「華槍」殿はせっかちじゃのう。…耳の早いものなら聞き及んでいるだろうが、先の公国戦の講和にてカラーズリス、公国、四帝国合同でのアドベナント王国に攻めいることとなった。察しは付いておるだろうが、此度は第一軍、第二軍、第三軍合同でアドリーナ・ラヴォを突破、その後王都を攻め落とす。」


国の代表たる四将と言えどもアドリーナ・ラヴォは脅威である。それを突破せねばならなぬとなれば、苦戦は必至。さすがの諸将も動揺が見える。



「正気の沙汰とは思えんな。普通ならアドリーナ・ラヴォを迂回して王都に侵攻し、それを阻みに来た王国軍主力と野戦にてけりをつけ、そこから王都攻めが有効と思うが。」


「しかり。さらに此度はカラーズリス、公国も味方。其方から攻めた方が要衝に当たることなく王都に進めると思うのだが…」



「その二国は大将軍四人を相手取ると聞いている。カラーズリス主導の戦だけあって、詳細な計画案が送られて来たが、それによると、四帝国連合方面は王国軍の戦力が他方面より少ないらしい。」



「アドリーナ・ラヴォがあるのだから当たり前であろうに…」



「…まぁワシもこのままでは無理だと思うてな、代替案を送ってみたところ、できるならと返ってきた。」



「どのようなもので?」



「我が軍がアドリーナ・ラヴォを攻め大将軍を一人おびきだす。そしたら公国が王国西部全域に攻勢をかけて残りの大将軍二人から三人を釘付けにする。そしたら帝国が北部より進軍を開始、帝国軍が王国軍をはね除け、王都を占領する。」



諸将は先程よりはまだ可能性がある作戦に安堵を見せたが、すぐに険しい顔をした。



「確かに公国軍は大将軍の二人や三人に対し、優位に戦局を運ぶでしょうが、問題はアドリーナ・ラヴォをどう窮地に陥れ、大将軍をおびきだすかです。」



「うむ。それについては考えがあるのだが、当人が来ておらんし話の進めようがないのだ。しばし待たれい。」


諸将がその考えと、その当人について思考を割いていると、部屋の扉が軋むほど勢いよく開かれた。


そこに姿を現したのは、一般女性よりかなり背の高い銀髪の美女だった。


室内に居合わせた諸将はその人物を知っていた。


「…ラストラン殿がおっしゃった人物とはもしやアーデルヴァイツで?」


少しゲンナリした様子でレンベルクが訪ねると…


「あーむさ苦しい。何で陸の奴らは筋肉馬鹿しかいないのよ。」


アーデルヴァイツと呼ばれた女が失礼極まりない発言をする。それを聞くとソーラスが、


「アーデルヴァイツ、貴女も女性なのですから品位を気にしてみては如何です?そのような粗暴な態度では結婚が遠退きますよ。」


と、おおよそ女性に面と向かって言うべきではない内容を告げる。



この女性、アーデルヴァイツは四帝国連合海軍第一艦隊の提督である。若くして第一艦隊の提督になっただけあり、確かな実力、才能を保持している。ビーア王国海軍とのアーデラ沖海戦、ビーアニズ前哨戦をはじめとする様々な海戦を勝利に導いた実績もあり、海軍の実質的なトップである。


余談だが、もともと陸軍のトップであったラストランとアーデルヴァイツは軍事費等について幾度となく論争を重ねてきており、ラストランをして四帝国のどんな男より気性が激しいと言わしめる程の女性である。



「まぁこのじゃじゃ馬を呼んだということの意味は分かっておるとは思うが、今回は陸海の合同での作戦を行う。」



陸軍と海軍は伝統的に仲が悪い。それをラストランはよく知っているが、今回、共同作戦にしたのは、それだけ厳しい戦いである事の証左である。



「此度はまず第一軍と第二軍がアドリーナ・ラヴォに攻勢をかける。ここでアズヴェ・ラヴォを超えてもらう。それが作戦の初動じゃ。」



アズヴェ・ラヴォ…アドリーナ・ラヴォはいくつもの防御壁、防衛拠点等の総称だが、大まかに三つに分けられる。アズヴェ・ラヴォはこの中でも最も南にある集団のことである。アドリーナ・ラヴォのなかでは最も弱い部分でもある。


何故国境近くの防衛が弱いのかと言うと、これは王国の防衛戦術にある。



王国軍の防衛戦術は敵がアドリーナ・ラヴォの防衛拠点等を強行突破し疲れているところを万全の状態で迎え撃ち、これを撃滅することにある。


そのためには最初は比較的簡単に突破できるようにし、敵を奥へ奥へと誘い込み、敵を逃げられなくしてから衝突するのが最も効率が良いのだ。



アドリーナ・ラヴォはたった一度だけ軍を率いてラストランが攻めたが、アズヴェ・ラヴォ、中間のジルヴィエ・ラヴォこそ抜いたものの、最北の最終防衛線、アールト・ラヴォはついぞ突破できなかった。



しかし王国側はその際、ジャンセン・リーバ、グネヴァ・ビリンシー、ランドール・パールーバという三人の上将を失っており、さらにはアールト・ラヴォも半ば突破されかけており、王国が停戦交渉をしなければラストランがアドリーナ・ラヴォの完全攻略を成し遂げたと噂されている。


しかし今回は、敵は更なる軍備の増強をしており、アズヴェ・ラヴォはともかく、ジルヴィエ・ラヴォからは正攻法での突破が不可能であった。



そこで考えたのが、アズヴェ・ラヴォを突破し敵の戦力がジルヴィエ・ラヴォに集中したところでアールト・ラヴォの最東端を強襲上陸によって攻め落とし、そこを拠点として上陸部隊が南下、ジルヴィエ・ラヴォを挟み撃ちして突破する方法である。


その作戦を成功させるには二つの要素が必要である。



一つは相応の海軍戦力である。それも王国沿岸の制海権の奪取、上陸部隊の護衛の両立が出来るほどのである。


これについては潤沢な海軍戦力を保持する四帝国連合海軍を使うことで解決できる。


もう一つは囮の第一軍、第二軍が王国を騙せるかである。


これは囮部隊がどれだけ暴れて、王国軍に本気であると伝えるかということ。


四将の二人がアズヴェ・ラヴォを落としたのなら、それは主攻として見られ、戦力を向けられるだろうが、問題はアズヴェ・ラヴォをどう攻略するかである。 



比較的攻略しやすいといっても国境近くなだけあり、抜くのは容易ではないのだ。


………



囮の軍だが、しばらくの議論を重ね、前回のアドリーナ・ラヴォ攻略戦にならい、広範囲同時攻撃による揺さぶりで、一部を突破し、そこを起点としてアズヴェ・ラヴォを攻略することで決まった。




続いての議題は主攻である第三軍の上陸作戦となった。


「少し良いかな、アーデルヴァイツ嬢。」



「何かな参謀総長殿。」



「いやはや、大したことではないのだが…第一艦隊は補給が危うく、海賊、アドベナント王国海軍がひしめくアドベナント沖で輸送艦隊を護衛しながら、作戦に載っとり行動し、不測の事態に対応することができますかな?」



「……お優しいことで。」



アーデルヴァイツが歯切れが悪くなりながら質問に答える。



「心配されずとも、我が第一艦隊は最強だ。平均高い水兵に優秀な人材が多く配属されている。」



「…煽っているように聞こえたなら許せ、今はただできるかどうかしか聞いていない。このような場所での自慢はよしてくれ。」


「………ふー。良かろう答えは、できる筈がない、だ。」


これには諸将も驚きを隠せない。彼らにとってアーデルヴァイツと言えばいついかなる状況においても不敵な態度を崩さない女である。そんな人物が、弱気である。



「先程までの話を聞いていると、アズヴェ・ラヴォを落としてから三日後に上陸だったな、まずそれが不可能だ。」



「理由をお聞きしても?」



この作戦の要である上陸作戦が不可能と言われ、ボルヌンディアが堪らず質問した。



「四帝国連合の海軍基地のなかで最も北にあるアルデュアントから出航するとの事だが、王国沿岸への上陸にはジーヌェット線を越えねばならんからだ。あそこの潮の流れは不規則だ。人がぎゅうぎゅうに詰まった輸送船ではその流れに船体の向きを合わせれず、推進力を得れないどころか、荒波のせいで確実に大半の船が転覆し、第三軍は戦わずして壊滅するだろう。」



ジーヌェット線…アドベナント王国海軍の祖と言える王国海軍初代総督、ジーヌェットが没した場所として有名である。



小島によって潮の流れが妨げられ、逸らされることで生まれた複雑怪奇な海流が流れるザールフェット海峡のことを言っており、海に愛されたジーヌェットですら波を掴めなかった、アーデルヴァイツが知るなかでも二番目の難所である。



「もし迂回するとしても3日だと短すぎる。悪いがその上陸作戦はたとえ聖皇国海軍であっても成功し得ない。」



「……」



諸将は押し黙る。ようやく希望が見えたと思ったらさっそく潰えてしまった。



だが、この男だけは諦めなかった。



「アーデルヴァイツ、この季節のジーヌェット線付近での山から吹き下ろす風の向きは?」



「ああ、北東だが……もしやラストラン、お前吹き下ろしの風を背に受けてジーヌェットを越えようとしているのか?」



「ああ、吹き下ろしの風は強すぎて戦闘艦は航行が難しいが重量が重い輸送艦ならその風に耐えれるし、その風にによる推力ならジーヌェットの荒波にも負けぬ筈だ。」




アーデルヴァイツとラストランの間で視線が交わる。


双方が傑物であり、纏う雰囲気は一流のそれ…


帝国の軍のトップ達が威嚇し合えば、戦場と変わらぬ重圧を放つ。この時、エディンヒールにいた官吏や貴族達はこの重い雰囲気に対しては少しの冷や汗をかいたという。





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