第一章新たな戦いその15
レステュスの死とその旗下の騎馬の壊滅により、この場の勝利は確定したのだが、そこに更なる吉報が入る。
「閣下、追撃隊を指揮していたジョン・ジャックソン、カーセン・クラウスト両軍団長より報告です。」
「ほぅ、もう来たのか…内容は如何なものか?」
「はっ、報告いたします。敵歩兵集団を追撃していたジョン・ジャックソン、カーセン・クラウスト両軍団長の御活躍により、ラスカホースは取り逃がしたものの、敵の歩兵集団の指揮官、エルゲリン・ファーラントを捕えたとのことです。さらに敵の捕虜を約一万人程得たと。」
「そうか、エルゲリンを捕えたか…大金星ではないか。フッフやはり持つべきは優秀な部下じゃのう。して、奴ら勢いにのって追いすぎてはおるまいな…どうなっておる?」
「はっ、現在、敵の目的地であるハトランテから2日程の距離にあるシュトッス市にカーセン・クラウスト軍団長の率いる軍を留めて、ジョン・ジャックソン軍団長が率いる騎兵がその周囲の警戒に当たっているとのことです。」
「シュトッス市か…よしここの歩兵から少し割き、シュトッス市への増援とする。そしてジョンと、カーセンに騎兵を率いさせ、シャベリ殿率いる第1軍、第2軍の連合軍への増援とせよ。」
上層部への報告、被害等の確認等を暫くしていると、ラストランはふと有ることを思い出した。
「そういえば特殊士官はどうした?」
「現在はカンドス騎兵の殲滅を行い、その後片付けをしているとの事です。そして、ライカル・ソルベリという者がレステュスによって重傷を負ったとのことです。」
「そうか、初戦としてはかなり特異な戦場であったが良くやったようだな。…それと、詳細については、彼等から聞くため、暫くしたら呼べ。負傷した者についてだが、本人の状態次第で来いと。」
「分かりました。」
特殊士官視点~
「そういえば、あの後バルディアはどうなったの?」
衛生兵に尽力より、ライカルの容態は、回復の一途を辿っていた。
「……すまない。レステュスは討てなかった…」
「いやいや、大丈夫だよ、あの「双璧」と少しでも渡り合ったんだから、十分だって。」
「………お前の援護が俺を救った…本当に助かった。」
「いきなりどうしたんだよ?バルディアらしくないよ?」
バルディアは戦場で見せた勇敢な武将とは似ても似つかないような、気弱な姿を出していた。
やはり、目の前で学友が自分の為に傷を負ったとなると心にくるものがあった。さらに、自分の弱さが招いた結果であるため尚更である。
ライカルは気にしていないようだが、自責の念が強まる…
そこに騎馬を指揮していたレーズリー、シャルル、歩兵を指揮していたジルクが見舞いに来た。
「大丈夫だった?戦場で遠目だけど、レステュスとのやり取りが見えてて、結構気にしてたんだよ。」
「すまない、私達が敵に追い付けなかったせいで、お前達にかなりの負担を強いてしまった。」
ジルクとシャルルがすぐさま、見舞いの言葉をかけて、しばらくして、
「俺たちはレステュスの姿を捉えるどころか、奴が指揮する騎馬に追い付くことも出来なかった。此度の勝利は、貴様らのお陰だ。感謝する。」
ライカルは驚きを隠せなかった…
レーズリーが頭を下げるとは全く思わなかったからである。
(嘘だろッあれ、もしかして夢かな…)
「貴様、何か邪なことを考えたな。俺とて自身の非を認めたなら、頭くらい下げる。…此度は自身の実力の無さ、慢心によって被害を受けたのだから…」
(そうだったのか…いつも先輩に噛みついたりしてたから、全然、分からなかったな…)
少しの歓談をしていると…
天幕の入り口の布を動かして、伝令兵が入ってきた。そして…
「ラストラン将軍より貴官ら特殊士官に召集の命が下った為、すぐさま本陣に移動せよ。」
と用件を伝えた。
彼等は移動を開始した。
~ラストラン軍本陣にて~
「失礼いたします。レーズリー・アルメア以下7名、閣下の命に従い、参上致しました。」
「うむ、此度の召集だがな、貴官らに今回の詳細を聞く為じゃ。お主らに何か重大な非があり、その処罰のための召集ではないから、安心して良いぞ。」
「は、詳細ですか…」
「そうじゃ、まあ主ら初めてでも思い出したりせねばなるまいし、時間はかかっても良い。とにかく正確な情報を出せ。」
「了解しました。」
しばしの話し合いを終えてジルクが口を開いた。
「では、まず今回の戦いに置いて、我々が考えていた戦い方を説明いたします。今回は敵の騎馬隊に対して正面より歩兵集団をぶつけ相手の足を止めた所を後方より騎馬隊を突撃させ、最終的に包囲殲滅を行う。というように考えていました。」
「……」
ラストランは少しの思考を見せながらも何も言わず、次を催促している。
その様子を見たジルクは再び口を開いた。
「その作戦に踏み切った理由ですが、これは二つあります。」
ラストランは少しの興味を向けた。
「まず一つ目の理由は、我々と敵の戦力差にあります。今回の敵は百騎前後であったのに対し、我々は騎馬だけで二百を超えていました。歩兵も合わせれば、その戦力は七百となり、おおよそ七倍近い戦力の開きがありました。もし我々が横陣を敷いた場合、敵と相対するのは試算した所、三百程度でした。即ち、半数以上が遊兵となります。それを防ぐためです。」
少し間を開け、ラストランは満足そうに言葉を発した。
「ガーラードは今後三十年は安泰だな。ワッハッハ。その歳で、しかも初戦でしっかり理由付けができているのは、素晴らしいな。…して、二つ目は何かのぉ?」
「はい、二つ目ですが、確実に敵を討つためです。普通の守備陣形であったり横陣を敷いた場合、迎え撃ち迎撃することは可能だったと思われますが、相手もかなりの余力を残すこととなり、度重なる奇襲を受ける可能性があったがための今作戦です。」
「うむ、素晴らしい識見を持っているな。まあ、この作戦については置いておき、次は…そうじゃな…戦闘中での各々の行動及び、結果について聞こう。順番は誰でも良い。」
一同が顔を見合わせた後、暫くして、レーズリーが手を上げた。
「は。私は後方より騎馬の一隊を率いてレステュス隊を攻める役割を担っていました。しかしながら、敵の勢いが想定よりも、かなりのものであった為、追い付くことができず、結果遊兵をつくり、歩兵集団に更なる負担を掛けることとなりました。」
「次の者。」
ラストランの催促の後、バルディアが口を開く。
「私は、歩兵集団を率いてレステュス隊の足止めを行う役割でした。しかし、敵将レステュスに我々の戦線を蹂躙され、一騎討ちにて止めようと思ったものの、すぐに追い詰められ、結果、一時的とはいえ、貴重な指揮官を失う事となり、軍の力を落とすこととなりました。」
「いやいや、貴様が弱いのではない。レステュスが強かっただけよ。実際、膂力に関しては恐らく奴と並んでいた…いや超えていた。あと数回実戦を経験すれば、個人の強さは並ぶであろう。まぁ良い。次の者。」
次にライカルが発言した。
「私も中央にてレステュス隊を足止めする役割でした。戦線が崩壊する可能性が出た為に、同様に騎馬を率い、足止めを図りましたが、負傷し、逆に敵に利することになりました。」
「ふむ、次の者。」
その後、残りのジルク、シャルル等四名が言い終わると、少し間を空け、
「では、ここから最も重要なことを聞く。貴様らはレステュスの迎撃を失敗した。それは何故か?」
本当に聞きたい質問をした。
これには流石に即答できず、長い沈黙が訪れた。
やっと一人口を開いた。
「自分は経験の差だと感じました。先程もいった通り、自分は中央の歩兵を指揮していたのですが、敵の騎兵がレステュスの周りを離れず一丸となっていたのに対し、我々には一部敵に背を向けるもの、狂乱に陥ったもの等、まともに戦える純戦力以外が多かったことから、軍の力を十全に発揮出来ませんでした。」
「確かにお主らはかなり惑っていたな。経験の差もとても重要だ。しかし、それ以上が有るのだよ。他の者、なにか無いか?」
「相手の大将である筈のレステュスが先頭を駆けていたことにあると思われます。やはり国の代表的な将であり、国民にとって英雄である男が自分達を率いていることが実感できるため、いやが上にも指揮が高まり、動きが良くなっていたと思われます。」
「それこそ四将であったり、剣聖だったりが強い理由だ。兵の前に将がたち、その姿を見た兵が奮い立つ。眼前の将を死なすまいと限界を超えてまで武器を振るう。……まあ、そうなるためには、かなりの信頼を築き上げなければならんな。」
特殊士官が静かに聞いていたが、ラストランがまた口を開いた。
「しかし、今回はそれだけでは無いのだよ。正面からぶつかった歩兵を指揮していた奴らなら分かるだろうが、奴等に後が無かったこと一番の原因だ。」
ジルク、レーズリー等は、敵の姿を思い出す…
槍が折れたのにも関わらず、体当たり、噛みつきをしてでも一人でも多く相手を地獄に連れていこうともがく者たち…
心臓を穿ち抜いた筈なのに暴れる者たち…
記憶を思い出すだけで気分が悪くなる程の惨状…
あれは決死隊となった者たちには後がなく、撤退の事、味方の援護等を考えなくても良い為、普段以上の能力を出せたのだと理解した。
~ラストラン視点
(幾人かの顔色が悪いな…アルメアの小僧は顔に出していないが、雰囲気は落ち込んでいるな…可愛いところも有るではないか。)
(ちと、助言といくか…)
「お主ら、本当の殺し合いを経験して落ち込むのは分かるがお主らは何故軍学校に来たのだ。詳しくは知らんが、志したものが各々あり、努力をしてきたのだろう。過去の自分を無駄にはするなよ。」
(少し恥ずかしい内容じゃがそれでこそよ。恥ずかしい奴だと馬鹿にするかも知れんが、若い奴らはそのくらいであれば良い。)
~ラストラン視点終了~
ライカル視点~
(ラストラン将軍は部下の精神面の補助もしてくれるのか…これが…将軍。)
レーズリー視点~
(確かに将軍だな…かなり恥ずかしい事を言い出したが、不器用ながらも手助けしているからか…確かに俺はアルメアの次期当主なのだから、この程度の障害を乗り越えられずして何が帝国貴族か!)
ジルク視点~
(帝国軍の将は、大変だな。人の死に慣れ、人を自分の一手で殺し、部下の精神面を気遣う…父上が偉大に感じられるわけだ。)
シャルル視点~
(私もいつかその様になれるのだろうか。あの様な死地に陥る気は無いが、死地に置いても変わらぬ信頼を得られるのだろうか…何故お父様や、お兄様は恐怖に倒れなかったのだろうか…)
バルディア視点~
(通りでボルヌンディア様が強いわけだ…死に慣れ、同様に成長している敵を打ち破り続けた…その過程で部下が将軍を知り、揺らがぬ信頼を…後数回の実戦というが、実感が湧かないな…)
かなり精神的に来たものの、それぞれが思いを持ち、改めて今後を考え直すこととなった。
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特殊士官達は、本陣を後にしていた。
行きとは違い、暗い雰囲気になっていたが…
「君でも落ち込むんだねレーズリー。」
「ふん、自身の力不足、無知を痛感したのだからしょうが無いだろ…」
「俺らは力、経験、なにもかも足りない。だが…ボルヌンディア様も同様の経験をしてきたのだ。今日のことで改めて決めたぞ。俺は確実に四将になる。」
「バルディアの大言も勇気をくれるものだな…」
「何を達観しているシャルル。この俺の同期でありライバルであるお前達が平凡どまりではたまったものではない。お前達には俺に及ばずとも、四将候補くらいにはなって貰わんといかんのだ。この程度で折れるなよ。」
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その背を見ていたラストランは、四帝国の懐かしい光景を見たような気がした。
先代の四将、先先代の皇帝、そして自分が初めて顔を合わせた在りし日にあの背は重なるのだ。
あの時は自分のような先達は居なかったが同じように、惨状に心を暗くし、それから立ち直った…
彼らに自分達のように羽ばたいて欲しいと夢見てしまうのはあの時代に未練が残っているためであろうか…