第一章新たなる戦いその12
~ラスカホース軍にて~
伝令兵が本陣にて報告を大将ラスカホースと副官であり、ラスカホース軍最強の武人セントールにしに来た。
「閣下、帝国軍が進軍を開始いたしました。」
「そうか、定石どおりだな。編成まで定石に沿ったものだと少々つまらないが此方もやりやすくて良い。」
「そうですな。しかし、相手は四帝国軍最長の戦歴をもつ将軍です。我らが生まれる前より戦争にて定評を持っていたとのことです。流石に定石だけとはなりますまい。」
「しかり、だが我が軍はエルゲリンの監修のもと効率的な防御陣地をつくっており、いかに経験があろうと、簡単には状況が変化することなしであろう。」
「であれば、私の騎馬隊はやはり後退の支援くらいですな」
「そうだな。半日も保てば十分であろうから、さして出番があるわけではないだろうがな。」
ラスカホース軍には士官の間で歓談が行われるほど余裕があった。
当たり前である。期限は殆ど決まったようなものであり、守る側が最も大変なゴール設定をしなくて良いのだ。
所変わって、エルゲリン軍にて~
「第一軍騎馬隊、歩兵部隊に伝令、敵を打ち破れ、と。」
「ハッ了承いたしました。」
エルゲリン軍と帝国軍の戦力比があまりに酷なものであり、完全にエルゲリン軍の勝ち戦だとエルゲリンは確信していた
後はラスカホース軍が耐えている間に倒すことができるかである。
筈だった……
「閣下、敵が前進を開始しました。」
若い伝令兵の報告がジョン・ジャックソンとカーセンの合同本陣に入る。
「来たか…」
「うむ、しかし閣下も無茶をいいなするなぁ。作戦変更など直前に伝えるものではなかろうにな。ワッハッハ」
「貴様よりはましだ、ジャックソン。貴様は聴くところによるとノヴァ・カスノフでもいきなり単身突撃をしようとし、部下を困らせたそうではないか…」
「そんなこともあったかな?まぁ未遂だから俺の方がマトモだなワッハッハ」
苦労人気質のカーセンは改めて思った。この男と同じ戦場にだけは二度なりたくない、と。
「カーセン閣下、敵が想定していた地点をまもなく越えそうです。」
「そうか、では通達どおり各将に行動を開始させよ。」
「ハッ」
「エルゲリン閣下、敵に動きが見られます。」
「そうか、して如何様に動いておるか?」
「そ、それが…後退しています。」
「もう一度言って貰えんか、敵がどうしたと?」
「後退しております。」
「えっ…?????」
エルゲリンは考えることを手放しかけていた。相手は時間の猶予が無い筈なのに、なぜか戦闘を長引かせようとしているのだ。何がしたいのか分からなかった。それでも此方も余裕が無いため、
「第1軍騎馬隊に通達せよ、「追撃せよ」と。」
「ハッ」
「加えて、第2軍騎馬隊及び第3軍騎馬隊に突撃を開始させよ。歩兵に関しては俺がまとめる。」
とにかく時間稼ぎに乗らず直ちに撃滅を狙った。
「ラスカホース将軍、戦線がかなり押されており、第一次防衛線を破棄したいとのことです。つきまして、騎馬隊に援護をとのことです。」
「なにッ、もうか…想定よりかなり早いが、仕方あるまい」
「セントール、頼むぞ。」
「今回の出番がこれくらいかもしれないので精一杯暴れてきますよ。」
「援護だからな、慎重にたのむぞ…」
「分かってますよ。」
(しかしまぁ、奴らが守備から攻めになったとはいえ、ここまでの差が生まれるとはおもわなんだな…それにしても敵の攻めがかなり重くて速い…これはちと、保たんかもしれん…)
そう、ラストランはかなり攻めを急がせていた。まだ戦える兵士を下がらせ新戦力を投入し、それも少しの疲労が見えたらすぐ交代させるのを繰り返しかなりの損害を敵に加えるのは良いもののの、やはり味方も困惑を隠せないでいた。
(まぁ時間に限りあるし、しょうがないか…)
と納得したが…
そしてセントールが援護を終え、帰還しようとしたその時、ラスカホース軍に戦慄が走る。
ラスカホース軍から見て左の森林よりなんと万近い騎兵が現れたのだ。
new!!
▽▽
ラスカホース軍
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ラストラン軍
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ラスカホースは混乱していた。この際、どうして万近い騎兵が来たのかは置いといて、
「あやつら、一体何処より現れたのだ?」
そう、どこから来たのかである。流石に他所からの援軍ではないことは分かったが、となると、後ろのラストランの副官の軍勢か、今、相対すラストラン軍のどちらかとはなるわけだが、それが、不可解であった。ラスカホースはしっかりとラストランの陣容等に細心の注意を払っており、今に至るまで怪しい行動は見られていないので除外すると敵は副官の軍より出たことになる。そして、あの万全な状態で来た騎馬隊は、エルゲリンに気付かれぬように慎重に移動してきたこととなるのだが…
エルゲリンは決して無能ではない。むしろ、有能で、その中でも天才であったりと持て囃される逸材である。
その男に気付かれぬように軍を動かす、それも一万に届くほどの騎馬の軍勢をだ。
その事を理解したラスカホースは今戦っている軍の本当の力の程を遅まきながらも勘づき、恐怖を感じた。
(たとえ俺が倒されこの場にいる軍が壊滅することがあったとして、それはさして脅威とはならん。多少の打撃を喰らうであろうが、立て直せないほどじゃない…)
(本当の脅威は、この軍の、ラストランという怪物の片鱗を祖国が一切知らぬことだ。)
(ラストランは、「凡将軍」と言われるように、誰もがそこまでの危機感を抱いていない。むしろ弱いとさえ思われている。俺が、国軍の頂点たるこの俺がそうだったように…)
(客観的に見て、元々敵同士だったものたちの内輪揉め、相手の方が初戦の勝利で勢いに乗り、こちらは意気消沈していた等、多くの敗因は見つかるが、そのどれもがラストランは運が良かった程度ですむ…)
(しかし、そうではない…そんな簡単なことじゃない…)
(ラストランはその戦略眼、用兵術、率いる軍、そのどれもが、何もかもが世間に気づかれていない…)
(次なる戦があればまたしても、いや、今回よりもひどい惨状となることが目に見えている。)
(祖国のためにも、ここで手を間違える訳にはいかん!)
「セントール騎馬軍に至急伝えよ、左方の敵騎馬隊の対処を一任する、暴れてこいとなぁ!」
「分かりました。」
これでいい、ここの守備は厳しくなるが、それでもこの陣地を活用すればエルゲリンが後方の敵を討ってくれる。
~ラストラン軍本陣~
「閣下、敵は我が方の騎馬隊にセントール率いる騎馬一万を当てたようです。」
「そうか、ならば勝ったな。」
ラスカホースは間違っていない。確実にその動きこそ、この場における最善手であることは疑いようもない。むしろ、騎馬隊をすべてぶつけるという判断をすぐ出したこの男は有能である。愚将の優柔不断とはかけ離れた思考は、実力をあわせて、確かに国の、軍の顔として充分なものである。
しかし、彼は知らない…ラストランのもう一人の副官を、カーセンという元四将候補に名前負けしており、諸国はおろか、自国の軍ですらジョン・ジャックソンを知らない有り様であるが、最強と謳われた先代四将と共に国の膨張を支えたラストランが副官として任用しているのだ、凡愚ではあり得ない。
(貴様らの驕り、ジョン・ジャックソンを知らなかったことこそが、此度の致命傷だ。)
セントール~
セントールはまさに死地にいた。流石に、四将であったり王国の四名の大将軍に並ぶほどとは思わないが、それでも追い縋れると…「双璧」の武力方面を担うレステュスに劣らないと思っていた、実際にそれに十分すぎるほどの実力があった。
今回も、多少兵の質に差があろうとも、勝つという道筋が見えていた。
だが、この場の主、死地を造り出した張本人は、嗤っていた。