第一章新たな戦い(ライカル)その10
以前に史上最大の決戦と銘打った戦いがありましたが、今回の方が人数おって大きいやろと言われる方もおられることでしょう。しかし、前回はそれなりに力を持った国同士の対決であり、それによって両国の戦争の一時的とはいえ決着がついたのに対し、今回は大国と小国で、明らかにパワーバランスが傾いていて、さらにそこまで本格的な激突はしておらず、ほとんど何かが決まるというわけでもなく、決戦と言うにはちょっとショボいと思われるので前回は史上最大の決戦と言えるのです。
ラストランは深い思考のなかにいた。
(もし、もしかして軍神がカーセン、ジョンの軍勢に気づいたならば、一万や、二万程のあいつらはおそらく各個撃破の対象となるじゃろう。)
(気付くことを事前に防ぐことは、並大抵の努力では不可能である。ならば、ワシらのとるべき作戦は…)
(気付かれても、そちらに軍を送れぬほどに手一杯にさせる。それしかないな。)
(各地から小隊が帰還し、騎馬戦力の充実が叶った我が軍であるが、それでも先の戦闘によって起きた重装歩兵の損失により、戦闘継続能力が著しく低下したとこにより敵軍の攻勢を耐えれるかどうか不安が残る。)
(やはり、攻勢をかけるしかあるまい…)
深淵より意識を覚醒させると諸将に伝令を走らせ、本日の戦いの目標を伝えた。
『総員、普段以上を期待する。』
それは新しく加入した特殊士官には分からなかったが、長きに渡りともに北部で戦闘を続けてきたものたちに、ラストランの意気込みを伝えるためには、これ以上の言葉はなかった。
(今回の戦では急ぎすぎなところもあったが、大丈夫そうだな。)
(フッ、久しぶりに暴れますか。)
諸将の思いはそれぞれであるが総じて安心感と高揚感が含まれていた。
連合軍本陣にて~
「皆の衆安心せよ!今までのように、新しい戦いをすれば老いぼれどもは対応できず、死に晒すだけだ。俺をッこの『軍神』を信じよッ!」
「「「「「「おおーーー!」」」」」」
日が昇る前に連合軍は動き始めた。
連合軍の兵士のなかには、「双璧」の敗北、昨日の強襲により大幅に士気を落としてしまった者が多数いたが、自分等の大将「軍神」の過去の戦績を思いだし、士気を取り戻した。
(「軍神」そう、自分達にはまだ彼がいる。自分達を昔から苦しめてきた古豪たちをことごとく打ち破ってきた英雄が。)
そして幸運なことに相手は「凡将軍」、旧き将の代名詞とさえいわれるかの者に軍神が勝てぬ道理なし。
だが連合軍で唯一暗い顔をしている者がいた。エルゲリン=ファーラントその人である。
彼は昨日の時点で敵の副官達がこの戦場に到着したことを掴んでいた。しかし、それに対する策が考えきれずにいた。指針は
「副官の軍に対応する軍を捻出し、残りでラストランの本軍を倒す」
「撤退する」
「副官の軍に猛攻を仕掛け、本軍と本格的に戦闘になる前に背後の憂いを消す」
の3つに絞っていたが2は語るに及ばず、1は戦力が微妙であり、消去法でまともなのが3しかないため副官を最優先にしているのだが、相手がそれをわかっている手合いなのだ。おそらく全面攻勢に出てくるだろうが、彼らには鉄騎兵に対応できるだけの戦力がおらず、戦力配分がとても厳しいのだ。
それが他の方針と比べるとまだましなのが、彼らの状況を指し示すようだ。
四帝国軍本陣にて~
多少の不安があれども、昨日の勝機が確実になっていく今、ラストランは少々安堵していた。
「ふ―、奴らは、いや、軍神は確かに軍事的な思考をもって戦場に最適な答えを導きだせる将軍じゃ。」
そう、だからこそ軍神は帝国の名将と渡り合い、今回、二十万という軍を率いていたのだ。しかし…
「だがそれが偏りすぎている。昨日のように、新しい戦いをしたら、それだけで、旧いワシらを倒せると考えておる。」
そう、彼は、エルゲリンの戦い方は確かに新しい時代を感じさせるものばかりであった。が、それだけであり、古くから使われる戦術で十分に対応できるだけのものでしかなかった。
「確かに長年戦場にいるものは、戦場に少しずつ変化が生まれ、それに対応しきれぬことで新たな隙となる。」
だからこそ、古豪たちは堕ちた。しかし、その変化に対応したものがいないわけではない。むしろ、「剣聖」などのように対応しきり、さらにはその変化を全ておのが糧にしたものも多数いるのだ。
そして男は、ラストランは、残念ながら後者であった。まぁ、少々異質ではあるが。
エルゲリンの戦術は確かに軍事学術上は完成されており、最適解はラストラン…いや、時代の覇者である聖皇国が誇る「守護騎士」の頭脳をもってしても、困難であろう。だがそれはあくまでも机上の空論にすぎない。戦場にて起こりうる様々な可能性、即ち、摩擦を加味しておらず、実際、ラストランは自軍の騎兵の練度の高さ、連合軍の歩兵の装備の貧弱さを理解し、ただの一手を打つだけでエルゲリンの戦術は異常をきたし、期待した効果を得ることができなかった。
これがもし「守護騎士」であったなら、何もせずとも配下の者達がなんなく跳ね返し、昨日の時点で逆に壊滅していたであろう。
はっきり言って勝負は昨日攻めきれていない時点でついていたのだ。
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