壱話 幼馴染のお願い
新たなる年になった数日後に俺、カイザー・ライヒはこの国で最も権力ある場所、王宮の中にいた。常日頃は郊外の果ての田舎に続く深森のから広がる屋敷に住んでおり、この帝都と呼ばれる大都市にくるのは生活必需品か依頼がある時のみで貴族が多く暮らしている高級屋敷地帯の奥、王城にはまずまず行かないのだ。
とまれ、指で数えられるくらいには来訪した事があるので歴然たる心情で今日も王宮内へ入る。一般庶民から見れば入るだけでも躊躇い畏怖し歓喜するものだが内情を知っていれば好印象は悪印象へと反転する。
数年ぶりの訪れとは言え権力者の空気に俺は交わる事は不可能だなと思ってしまう。
「何故、こんな所へ来てしまったのだ。今日の吉凶でも占っておいて来訪者の対策を練っておくべきだった」
占星学に精通している俺ならば良い策略を思いついただろう。今でも十から十五の策を想起出来る。そうだ、俺は此処に自ら希望して来たのでは無い。この忌々しい王宮から使者が派遣され我が屋敷へ来訪し、一切の情報開示を行わず連れてこられたのだ。
「そんな事を言わないで下さいよ。私も家族が大事なんです。連れて来なかったら何をされるか」
そう目の前にいる女性の使者も同じ被害者と言えば被害者だ。俺から見れば俺を連行する様に催促した犯人と同罪の加害者だ。故に、同情の余地は無いにしろ無視する事も出来なかった。何故なら彼女の依頼主は言う事を聞かねば制裁を加え出す思慮深い、いや違う、狡賢い知性を持っているのが尚、質が悪いのだ。
さて、女性使者に連れられ依頼主が居る部屋の前に着いた。一応、田舎者であれ、今の俺の怨敵悪魔であれど礼儀は通さなければならない。
ノックを数回して「どうぞ」と部屋主が答えて俺はこの国の一流装飾者が作ったであろう黄金のドアノブを回して部屋の中に入室する。
部屋の中は秀逸な芸術品が漆と彫刻が施された硝子張りの棚などに飾られ唯一この部屋にある巨大窓から日光が差し込みこの壮大な部屋を隙間なく照らしている。その中心には紅い机掛けで被せた机に両手を組みながら此方を見ている女性。
ライヒは知っていた。人々は彼女のことを御前上等と、ある者は熱烈峻厳と呼ばれており、そこに付け足されて傾国美人などと呼ぶ、何処ぞの目が無い阿保共がいる。美人であれば全てを許すのもありだろう。だがその様な思想を掲げる彼らには一つ忠告がしたい。私の人生の付き合いで理解し、やはり大事のは性格なのだ。
緋色の瞳は多くの紳士の心臓を撃ち抜く眼光を持ち濡羽色の絹糸の如くその長髪は見た淑女を虜にし、服装は女性で人気なドレスではなく男性制服を元に設計された為か男装に近いものだが裏返しに曲線美をよく表すものとなっている。
女性から見れば長髪の整った顔立ちの崇高な紳士に見えるかもしれない、男性から見れば職務を颯爽と片付ける敏腕女性に見えるものだが彼女本来の肩書きを考えると相反する格好。
そう俺の目の前にいるこの女性プロイセン・ベルリンは、今現在この帝国で最も権力を保持している存在。現皇帝を継承した女帝陛下から全政務を受け持つ王女である彼女は俺と同年代だと思わせない芳しい佇まいからは血筋からは尊厳さを醸し出している。
そして此方を凝視している目の下の唇から多くの紳士淑女の脳を蕩かす美声で挨拶を交わす。
「あら、こんにちは」
「あら、こんにちは。ではないだろう。何故、俺を呼んだんだ」
剽軽な口調で挨拶をしてくる。そして俺は毅然な態度で反論する。いや、するしかない。でなければ彼女に飲まれてしまい川に流されるように彼女の会話を受け入れてしまうようになる。彼女の対人会話術は達者なもので人と関わり合いが少ない俺には相克の上で勝てるわけもなく、数分後にはどうせ流されてしまうのだろうがな。
これだけで理解出来るほどの性格の悪さだ。天は二物を与えないと述べられているが彼女には多彩な才能と膨大な知識、可憐な容姿が備わっているがその犠牲である性格が余りにも劣悪。
実際、俺と目が合った瞬間に魔眼と呼ばれる魔術〈魅了〉を掛けてきたのだからな。
「何故って、それは貴方に会いたかったから」
「嘘を吐くな。そんな小さい要望ではないだろうに。稚拙な嘘を吐くのが要件なら時間の無駄で俺は帰るからな。賢者は時間が最高の価値あるものだからな」
〈魅了〉を即座に弾け飛ばして反論する。俺以外には使わないのは素晴らしい事だがこうも挨拶と共に掛けられるのはたまったものではない。
そんな愛の告白にも取れるかもしれないような台詞をライヒは一蹴して彼女の目の前にある来客用のベットに腰掛け手を組み見つめ返す。部屋の空気は俺が来たことにより一気に冷気に晒され始めた。いや、彼女は本当に俺に会えて嬉しいのか彼女の周りは陽気に満ちているのは俺の勘違いだろう。
「嘘じゃ無いのに。どうして私の好意を受け取ろうとしないのかしら」
「なんだ、あの話の返事はこの前しただろう。こんな、いつでも出来る話は文を一筆書けば良いだけの要件だろ。少なくとも朝に弱い俺をアポ無しで朝っぱらから呼んだんだ。だが、お前の目を見るに少なくとも吉報ではなさそうだな」
彼女を敬意を持つ城の大臣や崇拝する女性騎士達が見れば獅子の歯噛の如き怒り狂うかもしれない態度かもしれないが彼女との馴染みで今はたった二人の空間で彼女はその事については捨て置いた態度。
べルリンの目は魔力を秘めていると共に何時にも増して眼力が強く感じ、常時の俺の態度に腹を立てている様ではなく別の問題に対して憤慨と見受けられる。
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