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道を間違えた。
分かれ道で右に行かなくてはならないのに、なぜか左に行ってしまったのだ。
その上に道を間違えたことに気づくまで、けっこうな時間がかかってしまった。
今までに数回この道を通ったことがあったというのに。
間違えるなんて考えられない。
――いまさら引き返すよりも、このまま進んだ方がましか。
正しい道なら真っすぐに目的の街に着く。
こっちの道は前に地図で見たことがあるが、大きく迂回して同じ街に着くのだ。
――それにしても……。
こっちの道は本来の道よりも細くて険しい。
車の幅ギリギリしかない場所もある。
対向なんて物理的に無理だ。
――対向車が来たらどうしよう。
そんなことを考えながら車を走らせた。
まさに山道という感じで、一軒の民家はおろか、人工的なものがなに一つない。
間違えた自分に恨み言を言いながら車を走らせていると、そこにあった。
自動販売機。
俺は思わずブレーキを踏んだ。
――えっ、こんなところに。
まさにこんなところだ。
どう考えても近くに民家は一軒もない。
まわりに人がいない場所に自動販売機があるのだ。
だいたいここに電気が通っているとも思えなかった。
俺は車から降りて自動販売機の前に立った。
見慣れた自動販売機だった。
俺がいつも買っている缶コーヒーもある。
試しに買ってみた。
お金を入れてボタンを押すと、缶コーヒーが普通に出てきた。
手に取ってみたが、どう見てもいつも飲んでいる缶コーヒーだ。