表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

第12話 異世界面接官のリスタート

『誰だっ? 誰が仕組んだんだ! 言え! 言えよっ!』


 耳元で、誰かが死に物狂いで叫んでいる。ジャラジャラと重たげな鉄の鎖の音が煩く、耳障りで仕方がない。


 わたしの視界に多数の人間の姿が映る。ある者はざまぁみろと笑い、ある者は泣きながら首を振り、またある者は黙って俯いている。


『わたしを裏切ったのは誰だ! ……許さない! 絶対に暴いてやる! ──いや。自ら罪を《《暴露》》させてやる! 待っていろ、必ずだ!』


 グイと背後から強引に引っ張られ、息苦しくなると同時に、鎖の軋む音が聞こえた。



 そこで、わたしはハッとした。

 これは、わたしの記憶──走馬灯ではないかと。


 走馬灯の中のわたし──生まれた世界で命を落とす間際のわたしは、かつて仲間と呼んでいた者たちに向かって獣のように吠え、噛みつく勢いで手を伸ばす。だが、彼らには何も届かない。


 今なら分かる。あの中の「誰かが」ではなく、あそこにいた「全員」がわたしを裏切っていたことくらい。


 でも、もう、それはいいんだ。裏切りを許すとか、そういう話じゃなくて……。


 わたしは、目を閉じたまま力を抜く。


 生まれた世界での憎悪に満ちた最期の回想なんて、一瞬のことだった。

 初めて見た日本の青空、感動したテレビゲーム、緊張しながら腕を通したリクルートスーツ、社長との出会い、張り詰めた面接室の匂い、古川と行った居酒屋、灰原や白峰、部下たちとのなんてことない会話……。


「第二の人生は、得難いものだった」


 気がつくと、声が出ていた。どうやら走馬灯が終わったらしく、ぼんやりと夜空のように果てしなく広がる濃紺の世界に、わたしは包まれていた。


 わたしがここに来るのは、二度目だった。ここは、転生の間だ。


「わたし、古川を庇って死んでしまったみたいですね。まさか、自分がトラックに轢かれるなんて思っていなかったですよ」


「そうね。安村さんもびっくりするわよ」


 わたしの言葉に応えたのは、グレーのパンツスーツに高いハイヒールを履いた若い女性──女神サヴリナだった。

 彼女とは、昔通勤バスで出会って以来。わたしも、まさか彼女と再会することになるとは思っていなかったため、思わず場違いな笑みを浮かべてしまった。


「前に死んだ時は、サヴリナさんじゃない女神様だったのに。またお会いできて嬉しいですよ。ブラック企業は退社されて、女神業に戻られたんですか?」


「転生の女神って、当番制なのよ。秘密の副業」


 なるほど、女神様も大変らしい。


 そして再会の余韻に浸る間も無く、女神サヴリナは淡々とわたしに手続き説明をし始める。


「第二の人生、お疲れ様。もう間も無く、あなたの日本ライフは幕を閉じるわ。でも、落ち込まないで。ハズレスキルである【暴露】を上手く使いこなしていたボーナスで、次の生ではアタリスキルを授けてあげるから。何か、希望はあるかしら?」


【暴露】は、わたしの死ぬ間際に抱いた強い願望を具現化したスキルだった。

 わたしは、人間の本性を暴きたかった。心根を吐露させたかった。何もかもを疑い、恨んでいたから。


「新しいスキルは要りません」


 わたしは、青い闇に消えてしまわないように、はっきりとした口調で言い放った。

 だが、サヴリナにとっては予想外の回答だったようで、彼女は聞こえているはずなのに「今なんて?」と聞き返してきた。


「うそでしょ? 継続希望? そんなに【暴露】が気に入ってたの? まぁ、便利といえば便利かしらね」


「いえ。【暴露】は、もう使えなくなったので、継続申請もしません」


「えっ、なんで? スキルが消滅するとか有り得ないわよ!」


 サヴリナは、マニュアル通りにいかないわたしという存在に戸惑っていた。臨機応変さがまだまだ足りない女神様だが、仕方がない。時には答えを教えてあげるのも、年長者の務めだろう。


 わたしは、すでに理解していた。


「きっと、【暴露】のスキルが必要なくなったから、消えて無くなったんです。全てを疑い、暴こうとしていたわたしは、もういませんから」


 わたしは、スタートイというゲーム会社が好きだ。わたし自身は、直接的にゲーム開発に関わることはないのだが、新しい社員を迎え入れ、育てることで、めぐりめぐって会社が発展していく様を見守ることが、何よりの喜びだった。


 楽しかった。スタートイのみんなとする仕事は、わたしの生きがいだった。


 上司に同僚、部下──、信じることができる仲間を得たわたしの心には、チートスキルも無双展開もいらない。積み重ね築いてきた信頼や自信があれば、それでいい。


 わたしは、そのことをこの日本という名の異世界で学んできたんだ。


「サヴリナさん。新しいスキルに充てるはずだったボーナスというやつを別のモノに変換していただくことは可能ですか?」


「なぁに? 赤ん坊まで若返る? それとも最強装備? あ、まさかこのサヴリナ様とか言わないでよね! そんな、どこかの素晴らしい世界の真似したらダメよ!」


「いえ、わたしが欲しいモノは──」


 わたしは、怪訝そうに綺麗な眉を歪めるサヴリナに笑いかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ