第8話 自己紹介について考えよう
度肝を抜く自己紹介にしようと、古織が悪巧みをします。
【自己紹介でいい案があるんだけど】
スマホに、古織からそんなメッセージが届いた。いい案、ね。
【どうせロクでもないこと思いついたんだろ?】
【ロクでもないとかお嫁さんにひどくない?ぶーぶー٩(๑`^´๑)۶】
ご丁寧に顔文字まで使って、不満を表明してくれる古織さん。
スタンプよりもこういう風に顔文字で表現するのを古織は好む。
【それはどうでもいいんだけど】
どうでもいいのか。
【せっかくだから、皆の度肝を抜くインパクトがあるのにしたいの】
【高校3年で結婚してますって、それだけでインパクト十分だろ】
それ以上、何が要るというのか。
【ちっちっち。わかってないなー、みーくんは】
古織の奴は、この「ちっちっち」という言葉が大好きで、やけに多用する。
【はいはい。古織さんとしてはどんな案がお有りで?】
先に進まないと判断して、促す。
【うちの自己紹介って、普通は一人ずつだよねー】
【そりゃそうだろ。漫才コンビじゃないんだからさ】
【どうせなら、今回は二人で一緒に自己紹介しちゃわない?】
【それは、春先生が可哀想だろ。たぶん、俺達の結婚の経緯も知らないぞ】
【だからだよー。私がお嫁さんでみーくんが旦那さんって事をアピールするの!】
これは割と本気だなと思った。
そして、こいつは本気になったらやるときはやる。
ま、面白そうだし、いいか。
【了解。じゃあ、古織が呼んだら、俺も壇上に上がるって感じでいいか?】
【もし、みーくんが先に呼ばれたら、私のこと呼んでね」
【わかった】
【それで、自己紹介についてなんだけど……】
古織の案はストレートで、アピールにはこの上無いほど効果的だと言える。
【春先生の胃が大丈夫か心配になってくるな。その案】
【大丈夫だって。堂々としてれば】
【今更人目がどうとか気にする段階は過ぎたしな。よし、やろうぜ】
古織はこういう変な企みごとが大好きだ。
でも、そんなワクワクするような事を考えるところにも俺は惹かれたのだ。
そして、クラスメートの自己紹介が始まる。
1人の持ち時間は約3分程。このクラスが30人程だから、約90分かかることになる。
この自己紹介は、クラス替えデビューをする奴などにとっては格好のチャンスだ。
周りを見ると、気合いを入れてアピールをするつもりの奴もちらほらだ。
とはいえ、高校生が出来る自己紹介なんてたかが知れたもの。
運動出来るアピールも勉強出来るアピールも、ヲタクアピールも、普通といえば普通だ。
そんな中でも群を脱いているのが、幸太郎の自己紹介だった。
「僕は西野幸太郎。見た限り、知り合いは割と多いみたいだけど。趣味は……身体を動かすことと、対戦ゲームをすること。あとは、読書ってとこかな。あんまり面白みはないけど、仲良くしてくれると嬉しいかな。少しだけ特技を披露して終わりにするよ」
最後に、たんと教壇を蹴って、華麗にバク宙を決めた。
「ちょっとした一芸でした。皆、これからよろしく!」
華麗な芸を見せられたクラスメイトは、拍手の嵐。
昔から、何故か宙返りが好きだった幸太郎は、その手の特技をいくつも持っている。
これ以上インパクトのある自己紹介もそうそうない。
その様子を見ていた春先生はといえば、冷や汗をかいていた。
「いい自己紹介でした。でも、バク宙とか危ないので、先生に事前に相談してくださいね?」
自己紹介で担当生徒が複雑骨折しましたとか、担任の先生にとっては恐怖だよな。
「ほんと、そうよ。幸太郎ったら、こういう変なことやりたがるんだから……」
と一つ前の席にいる雪華がため息をついている。
「諦めろ。そういうのだってわかって彼氏に選んだんだろ」
「腐れ縁の延長線上で、いいかなーって思ったんだけど、少し後悔してるわ」
「まあ、元気でやってくれ」
幸太郎は、悪い奴じゃない。
けど、自己紹介でいきなりバク宙かますような変な部分もある。
そんな部分も受け止めてやれる雪華はお似合いだと思うんだが、大変だろう。
そのうちに、俺たちの自己紹介の順番が周ってくる。
【次は、工藤さんー。って、工藤?倉敷の書き間違えかしら。倉敷古織さんー。自己紹介、お願いね」
古織の名字が変わっているのを不審に思ったのだろう。
ああ、これ、ほんとに春先生の胃が痛くなりそうな奴だ。
やると決めたのだから、やるか。
(じゃあ、よろしくー)
そんな意図を込めて、古織がウインクをしてきたのだった。
というわけで、次はいよいよ二人の自己紹介です。
どんな自己紹介なのか、お楽しみに!
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