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第71話 文化祭その3~執事とお嬢様

「「「お帰りなさいませ、お嬢様!!!」」」


 燕尾服を身にまとったクラスメイトたちが、一礼する。

 しかし……


「さっすが、長距離走やってる奴は様になってるな」


 やはり、執事というと、痩せ型の体型というイメージがある。

 バスケ部やサッカー部より、陸上やってる長距離の奴らの方が絵になる。


「だよねー。なんで、マラソンやってる人はスリムなんだろうね?」


 クラスメイト女子の一人が聞いてくる。


「マラソンに最適化すると、脂肪も落ちるし、余分な筋肉もつかないんだとか」


 どっかの本で読んだ受け売りだけど。


「ま、どうでもいい雑談はおいといて。ほら、働いた、働いた」


 矢沢がバックヤードで雑談していた俺たちを、しっしっと払いのける。


「仕方ない。真面目にやるか」


 すぅーと深呼吸を一つ。それで、意識を切り替える。

 それに、古織の方も俺がシフトの間に来るつもりだと言ってたし。

 気合い入れないと。


 と、教室の入り口付近で待機していると、早速、次の客だ。

 見ると、普段のセーラー服に着替えた古織が来ていた。

 早いな、おい。


「お帰りなさいませ、古織(こおり)お嬢様!」


 呼びかけつつ、一礼する。わざわざ名前を呼んだのは狙ってだ。

 古織も遊び心満載のもてなしをしてくれたのだ。

 なら、俺も応えないとな。


「う……これは、結構いい、かも」


 少し俯いて、ドギマギした様子の古織がなんともそそる。


「しっかりしなさいよ、古織。なんで揃いも揃って、この二人は……」


 古織が心配なのか、ついて来た雪華(せっか)が頭を抱えている。

 こほんと咳払いを一つした古織は。


「みーくん。私の帰りを、ずっと、待っていてくれていた、のですね……」

「ええ、お嬢様のためなら、と思って。何年も待っておりました」


 何やら芝居がかった仕草をしてきたので、こっちもお返しだ。

 しかし、待っていた、って。ずっと屋敷を空けていた設定だろうか。


「みーくん。あなたとは、幼い頃から、ずっと一緒に育ってきました、よね」


 目をうるうるとさせ、涙ぐみながら、感慨深げな声を漏らす古織。

 この特技、たまに使われると、妙に心に来るんだよなあ。


「ええ。今でも、脳裏に浮かぶようです」

「身分違いの恋というのはわかっているのです。しかし、私は……私は!」


 ノリノリで寸劇を繰り広げる俺たち。


「二人とも、いい加減にしなさいよ!皆、呆れてるじゃないの!?」


 しかし、ツッコミ役が居るせいか、ストップがかかってしまった。


「古織も、ノリノリで付き合ってるんじゃないの!」

「たまにはこんなのもいいかなって思ったんだけど……」

「イチャつきたいなら、後でね。とりあえず、案内をお願い」

「はい、お嬢様」


 一応、クラスメイトでも客は客だ。

 教室の一角にある、座席に案内する。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「はい。ひよこピヨピヨオムライスでお願いします」

「私は……普通に、ケチャップ文字付きオムライスで」


 古織の奴は、さっき使ったメニュー名で。

 雪華は、ノーマルなので来るかと思ったけど、意外なことに、ケチャップ文字を希望らしい。


「かしこまりました。しばらくお待ちください」


 作り置きしてあるオムライスがちょうど二つあったのでレンジでチン。

 家庭科室で調理、こちらでレンチンという分担はなかなか効率的だ。 


「お待たせしました。ひよこピヨピヨオムライスに、ケチャップ文字付きオムライスでございます。何かご希望のメッセージはございますか?」


 しかし、両方同じメニューなのに、別の名前で言うのは奇妙な気分だ。

 いや、ひよこピヨピヨ……は、メイド&執事喫茶にないメニューなのだけど。


「私は……「いい加減にしなさい、バカ夫婦」で」


 なるほど。雪華もなかなか粋な事を思いつく。

 ツッコミを入れつつ、なんだかんだでこいつも楽しそうだ。


「復唱致します。「いい加減にしないさい、バカ夫婦」でございますね?」

「では……少々お待ちください」


 しかし、漢字が入ると面倒くさいな。

 ケチャップ文字用特製チューブを使っていて助かった。

 

「出来ました。古織お嬢様の方はいかがなさいますか?」


 先程から、何やら考え込んでいた古織。

 きっと、「来年は結婚式しような」への返しを考えていたに違いない。

 しかし、やけに顔が赤いな。


「じゃあ。「子どもって、いつ頃がいいのかな?」への返事で、お願い、します」


 噴き出しそうになった。こいつは、俺よりよっぽど恥ずかしい事を……。

 というか、結婚式はともかく、子どもとか、早いにも程がある。

 しかし、そうか。そんな事を考えていたのか。

 後で覚えて……とは言っていたけど、なんとも可愛らしいことで。


「では、少々お待ちください……」


 正直、じゃれ合いだ。どんな答えでもいいと言えばいいだろう。

 ただ、一応、真面目に考えるなら。


『大学を卒業したら、早いうちに』


 後で振り返ったら、何やってるんだ、俺たち、ときっと思うだろう。

 

「あ、ありがとう。ううん。ありがとう。ござい、ます」

「大学生で出来ちゃった結婚にならないように注意しなさいよね」

「ご忠告、痛み入ります、お嬢様」


 どこか嬉しそうな古織と、冷静な忠告をくれる雪華。

 こうして、ちょっとした、俺達の寸劇は終わったのだった。


「君たち、ほんと、自重する気ないね」


 呆れたような声の幸太郎(こうたろう)


「悪い悪い。後は真面目にやるから」

「思い出が欲しいのはわかるから、いいけどね」

「そうか。助かる。幸太郎も雪華相手にやっていいんだぞ?」

「僕は二人ほどあけっぴろげにはなれないさ」


 泰然自若としているようで、意外と繊細な親友なことで。


 ま、高校生のお遊びだから許されるようなものだけど。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様!」


 二人を送り出しながら、


(これで、また一つ思い出が出来たな)


 そんな事を思ったのだった。

というわけで、相変わらず自重しない二人です。

文化祭の話も、次か次の次くらいで終わる予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ともかくも、周りがいい迷惑。 男性が文字書きうまくなっても、多分需要はないだろうなあ。本物の執事喫茶でも、文字書きサービスとかあるのかな。
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