第69話 文化祭その1
イチャイチャ&男同士の語らいです。
「もう文化祭当日とは、早いもんだなあ」
「うん。あっという間に過ぎてっちゃった気がする」
華やかな飾りつけがされた校門を通りながら、話し合う。
「にしても、古織とシフトずらされたのは痛い」
「仕方ないよ。私も、見てる側だったら、そうしてたと思う」
「そうだな……」
とはいえ、せっかくの高校生活最後の文化祭。
「お互いシフト空いてる時は、一緒に回ろうな」
「みーくんはどこ行きたい?」
と問われて少し考える。正直、あまり考えてなかった。
「そうだなー。お化け屋敷なんかどうだ?」
「私もみーくんも、別に怖がらない方だと思うけど」
正論だ。確かに、今更お化け屋敷で怖がる年齢でもない。
「こう、古織が、「怖い!」て抱き着いてくれるとか」
「それ、既に「ごっこ」になってると思う」
「もちろん、冗談だけどさ。遊園地のお化け屋敷とか、いつでも行けるだろ?でも、高校のとか、今しか機会ないと思うんだよ。どんな工夫してるのかも見て楽しめそうだし」
「その楽しみ方はどうかと思うけど……わかった」
「古織はどこか行きたいところないのか?」
と問うと、しばし、うーんと、悩む様子。こいつも考えてなかったらしい。
「私は、映画同好会の映画見てみたいな」
「映画好きの古織らしいチョイスだな」
「普段、映画館とか動画で見るのって、「完成品」だから、もうちょっと制作過程みたいなものも知りたいし」
「ああ、確かに。どうやって作ってるのとか、考えたことなかった」
というわけで、お化け屋敷と映画は決定。あとはまあ、適当でいいか。
としゃべり込んでいると、気が付けば自分たちの教室の目の前。
「まあ、後のことは後で考えるとして」
「メイド&執事喫茶、しっかりやろ?」
お互いにうなずきあって、教室に入る。祭りの始まりだ。
「みーくん、みーくん。どう、似合ってる?」
開店の準備作業中のこと。
メイド服に着替えた古織がくるんと一回転してみせる。
「似合ってる、似合ってる。月並みだけど」
「えへへ……。みーくんも、似合ってるよ?」
「ありがとな。……っと」
周りからの視線を感じて慌てて離れる。
「やっぱり、シフト離して正解だっただろ?」
ふふんと矢沢が勝ち誇ったように言う。くそう。
しかし、待てよ。
「なあ、別に俺が客として、こっち来る分にはいいんだよな?」
盲点だったが、これはアリじゃないだろうか。
「道久、お前なあ。そこまでして、嫁さんとイチャつきたいか」
「そうだ、そうだー。散々、家でも学校でもイチャついてる癖に」
「家ではもちろんイチャつけるけど。文化祭でイチャつけるのは今日だけだろ」
「なんて屁理屈だ……」
口々に、好き放題言ってくれる。しかし、今日の俺はもう開き直ったのだ。
「それに、家でケチャップ文字書いて欲しいと言っても、たぶん、恥ずかしいから、と言って断られるだろ?」
「私に聞かないで欲しいんだけど。でも、そうかも……」
先日のメイド喫茶の件でも、テンションが高かったから出来た芸当だ。
「バカ夫婦につける薬なし、ね」
「まあ、好きにすればいいんじゃない?道久の言う事も一理あるし」
相変わらず呆れた様子の雪華に幸太郎。
幸太郎が擁護してくれたのはありがたい。
ともあれ、我ながら名案だ。それに、なんだかんだ言っても。
皆、しょうがないと諦めた雰囲気だ。
◇◇◇◇
というわけで、最初のシフトから外れた俺は、一人学校を探検-
のつもりだったんだけど。
「別にいいんだけど。どういう風の吹き回しだ?」
「いや、こういう機会でもないと、夫婦の裏話とか聞けないだろ?」
一緒について来たのは、先日仲良くなった矢沢。
「裏話ねえ。もちろん、話せてないことは山ほどあるけどな」
ともあれ。
「で、何が聞きたいんだ?」
「お前たちって、幼稚園の頃からの付き合いなわけだろ。それってどんな気分なんだろうなって。俺は今のカノジョとは高校からの付き合いだし」
どんな気分、か。
「正直、どう言えばいいんだろうな。ただ、一つ言えるのはだ。なんかのイベントの思い出には、だいたい、あいつが一緒に居たな。お互いの誕生日パーティなんか典型だし、引き取られてからは、家族でもあったからな。食事は基本一緒だし、年末年始だって、初詣だって一緒だった」
思えば、本当にずっと一緒だったと思う。
「兄妹みたいなもんってことか?」
「ん?矢沢は兄妹いるんだっけか」
「三つ下の妹がな。絶賛反抗期で、全然可愛くもないけど」
反抗期、ね。あの時は、あるいは、反抗期でもあったんだろうか。
「妹さんなりに思うところがあるんだろ。口出す気はないけど、見守ってやれよ」
「やけに大人視点だよな。なんかあったのか?」
「まあ、俺も早すぎる反抗期って奴を経験したかもしれないから、な」
「そっか。で、妹が居る身としてはだ。まあ、気を遣わないでいい間柄なのは確かだけど、お前らみたいに、ずっと仲良しってのがちょっと想像湧かないんだよ」
ずっとか。ひょっとしたら、俺も最初から、古織の家で育っていたら。
あるいは、お互いを異性として意識することもなく。まさに、兄妹だったかも。
「俺の場合は、小学校の途中で引き取られたって経緯があるからな。当時、既に「こいびと」とか思ってたのはともかくとして、親友ではあったと思うんだよな。そこからの同居だからな。色々違うんだろうよ」
家族ではあっても、でも、兄妹ではない。そんなところか。
「ほんと、世にも珍しい間柄だな。大事にしてやれよ?」
「言われなくても大事にしてるよ」
「教室でバカップル……いや、バカ夫婦だったか。そんなだしな」
「ほっとけ。今更距離取るとか考えられないんだよ」
「距離取れとは言ってない。なんだかんだ、面白いしな。お前ら」
「俺のことはそのくらいにして、だ。そっちの事も聞かせろよ」
「妹については、特に言うことはないぞ?」
「そうじゃなくて、カノジョの事だよ。門限が惜しくなるくらいなんだろ?」
「あー、言うんじゃなかった。ま、こっちもさんざん聞いたしな」
しばし、男二人、お互いの家庭環境について話し合ったのだった。
文化祭の時に話す事じゃないかもしれない。
ただ、なんだかんだ、見守られてるんだな、とそんな事を感じた。
こうして、祭りは続く。
文化祭当日編、あと数話くらい続きます。
文化祭編が終われば、いよいよ終盤。もうしばらくお付き合いください。
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