第67話 メイド喫茶について考えよう
大盛りあがりの翌日。クラスでメイド喫茶の詳細を詰め始めます。
放課後のカラオケで大盛りあがりした翌日のこと。
「というわけで、メイド喫茶についてだ。昨日はお流れになってしまったけど」
「念のため、昨日のと同じ配布資料用意しといたから。無かったら言ってね」
おそらく気の所為じゃないだろう。
昨日より、クラス全体が前向きになっている。
「まず、メイド喫茶についてだけど、正直、認識が甘かった。メイド服を着たウェイトレスさんが、接客してくれるくらいに思ってた。ただ、配布資料を見てもらえばわかるように、正直、かなーりの異世界だ」
先週のあの日を思い出す。楽しいと言えば楽しかったけど。
「正直、あのメイド喫茶みたいに、メイドさんと客が、設定を演じるみたいなのはハードルが高いと思った。なので、古織と話し合って、他の案を作ってみた。古織、頼む」
「うん」
うなずいて、黒板に、案を書き出す古織。
1.普通の喫茶店だけど、店員がメイド服を着て接客
2.1.案+「お帰りなさいませ」「行ってらっしゃいませ」等の台詞付き
3.2.案+メイド喫茶風メニュー表
4.2.案+ケチャップによるお絵かきサービス付き
「だいたい、難易度が低い順に並べてみた。正直な感想としては、2.案まではなんとか出来るとしても、3.案は、メイド喫茶風の項目を考える手間がかかるし、4.案はケチャップ文字かけるスキルが要るしで、やや難易度が高めだ。他にも案はあると思うが、意見を聞きたい」
と言い切って、皆の反応を待つ。数秒して、真っ先に手を挙げたのは、昨日、仲良くなった矢沢克彦だった。
「昨日は言いそびれたんだけどよ。女子はメイド服でいいとして、男子はどうするんだ?」
ああ、そこ来るか。正直、詰めきれていなかったんだよなあ。
「男子も、ややフォーマルな制服を借りて、着てもらうってのを考えてるんだが、どうだ?」
この辺は正直、苦肉の策というところだ。
「いやー、雰囲気的に、せっかくメイドさんがいるのに、男子が普通だと、ビミョーじゃないか?」
「それはわかるんだがな……いい案あるか?」
確かに、矢沢の言うことはもっともだ。メイド喫茶はメイドオンリーだから、あの雰囲気が成立しているのであって、男子はバックヤードに回ってもらうとしても、あぶれる人員だって出るだろう。
「はい。ちょっと、いい案があるんだけど」
と手を挙げたのは、先日、質問攻めのきっかけを作った香川沙織。あんまり、メイド喫茶とかとは縁があると思えない、普通に家庭的な女子だ。
「昨日、執事喫茶の案も出たよね。それと合体させちゃうのはどうかな?男の子は執事服を着て、女の子はメイド服を着て接客。元々、女子だけが、メイド服っていうのも、なんだかなーって思ってたし」
なるほどな。
「私も賛成!執事服見てみたい!」
「矢沢君とか、執事服着たら、すっごい似合いそう」
「道久君も可愛い系の顔立ちだけど、結構似合うかも?」
「同じくー」
大体、女子からは賛同の声。男子はといえば、微妙な顔をしている奴が多いが、反対して女子の反感買うのも……ということで、静観の構えの奴がほとんど。よし。
「語呂は悪いけど、メイド&執事喫茶で行くか。反対意見はあるか?」
クラス中を見渡すも、大きな反対意見はないようだった。元々、バックヤードで地味にやるなら……と思っていた男子の一部は、少し微妙そうだけど。
「じゃあ、メイド&執事喫茶で決定な。あとは、さっきの案を詰めていこうか。正直、時間もないことだし、2.案で、台詞だけ、メイド喫茶風が一番無難だと思うんだけど、4.案は来てくれた人の満足度は高そうだと思うんだよな」
「特に、女の子のお客さんは喜んでくれそうだよね」
「だな。とはいっても、4.案は、そもそもケチャップ文字書けないとどうにもならないし。皆はどう思う?」
再び、クラスの反応を見守る。
「思ったんだけどさー。別に、そこまで難しく考えなくてもいいんじゃない?」
サバサバ系女子の一人が発言。
「というと?」
「ケチャップ文字は、別に出来る人だけでやればいいんじゃない?ってこと」
「まあ、それもそうか。ケチャップ文字書ける奴が居ない時は、お断り入れるって方針でいいかもな。なら、4.案ベースがいいかもしれないな。3.案はどう思う?」
これ、正直、準備の労力はかかるし、来たお客さんは戸惑いそうだし、正直微妙なんだよなあ。
「正直、メイド喫茶風のメニューって言っても、さっぱりわからないしなあ」
「うんうん。ネットで検索すれば、少しはわかるかもしれないけど」
「めんどくさいだけで、あんま意味ないんじゃね?」
予想はしていたが、メニューについては否定的な意見が多数派だ。
「よし、じゃあ、4.案ベースで、ケチャップ文字とかは、出来る奴がやる方針で。ただ、誰が出来るかは把握しときたいから、後で、その辺聞き取り調査するからな。あとは、肝心のメイド服だけど……」
「じゃーん。服をレンタル出来る店をリストアップして、カタログ作ってみたよ。執事服の方はまだだけど、参考にしてね」
と、二人で準備した、簡易カタログを取り出す古織。さすがに簡易とはいえ、こっちは手間がかかったので、五個しか作れなかった。
「ま、そんな感じで。あとは、メイド服のどれがいいかは投票で決めたい。ラインで今、投票するためのページのリンク送ったから。残り……20分くらいか、その間に投票してくれ。あ、言っとくけど、女子が着るもんだから、得票については女子優先な」
これは、話し合ってる時に古織から出たアイデアだ。メイド服といっても、男子と女子で好みが違うし、男子がいいなーと思うのでも、女子が微妙だと思うのが選ばれては意味がないとの意見で、理にかなっていると感じた。
しばらくは、投票の時間ということで、俺達は沈黙を守る。
「しっかし、お前ら大概準備いいよなー。あまりにぱぱっと決まってすげーよ」
「ね。優等生なだけじゃなくて、要領も良かったんだなー」
なんだか妙に評価されてしまってる。
「高一の頃から……いや、中学の頃からかもな。こういうのよくやってたしな」
「そうそう。慣れ、かな?」
大きく反対が出そうな点などは、事前に考慮に入れておく、というのがその経験から得られた知見だ。
「でも、候補のメイド服、どれも甲乙つけがたいよな」
「うんうん。女子の目から見ても、恥ずかしくない感じだし」
昨夜、夜更しして、二人で色々議論したかいがあったというものだ。
そして、結果として選ばれたのは、裾が長い、白と黒のクラシックなメイド服という感じの代物。いや、何がクラシックなのかは不明だけど、ネットでクラシックなメイド服だとあったのだ。
「じゃあ、メイド服のレンタルは急いでやっとくな。春ちゃん、とりあえず、領収書切って、立て替え払いでいいですよね」
「え、ええ。うちの高校の名前でお願いね」
というわけで、スムーズにメイド服の選定まで進んだのだった。
少し久しぶりに四人での帰り道。
「二人とも、ああいう事するなら、私達に相談してくれてもいいと思うんだけど?」
「そうだよ。僕らだって、アイデア出しには協力出来ると思うんだけど」
雪華が少し不機嫌そうだ。
珍しく、幸太郎も少し寂しそうな声色だ。
「悪い。昨日の今日だし、夜遅くまで、話に付き合わせるわけにもいかないし」
「夫婦ならでは、ってことね。納得よ」
確かに、時間帯とか気にせずに、二人で思う存分案を出し合えたのは、俺たちが結婚して、同居しているからかもしれない。
「まだまだ詳細詰めないといけないから。その辺りは、お前らの知恵も借りたいから、よろしく頼む」
「うん。さすがに、昨夜は結構遅くまで作業してて、疲れたもん」
な、と二人で目を見合わせてうなずき合う。
「少しだけど……結婚っていうのも憧れるわね」
「ん?ということは、幸太郎といずれは結婚とか考えてるのか?」
ちょっとからかってみる。
「相手は……未定よ、未定!なんとなく、結婚もいいなって思っただけ!」
「雪華ちゃん。幸太郎君が寂しそうな顔をしてるんだけど……」
見ると、少し肩を落とした幸太郎の姿。雪華の照れ隠しなんだろうけど。
「あ、幸太郎。別に、あなたと結婚するのが嫌ってわけじゃないからね!」
慌てて取り繕う雪華に、幸太郎は安心したように、
「良かったよ。高校の間だけなのかなあ、ってちょっと落ち込みそうだったよ」
普段、飄々としているけど、こういう所は意外に繊細だ。
こうして、四人で、分かれ道まで一緒に帰ったのだった。
メイド喫茶は色々難しいけど、色々盛り上がりそうだ。
こっから、お祭りの雰囲気って感じを出していければと思います。
応援してくださる方は、ブクマ登録、感想、評価などいただけると嬉しいです!




