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第65話 取材の結果

メイド喫茶取材の結果を皆の前で話すことになった二人。しかし……?

「じゃあ、先週の取材の結果を踏まえて、今後の方針を決めたいと思う」

「取材したメイド喫茶がどんな感じだったかは、配布資料を見てね」


 普段なら教師が居るポジションに二人で登壇して、説明会を始める。

 文化祭まで残り一ヶ月を切っているので、素早く決定するのが肝心だ。

 とはいえ、だ。《《あの写真》》を皆に見られるかと思うと、憂鬱だ。

 

「で、メイド喫茶の様子だけど。今、ライングループに送った」


 覚悟を決めるしかないのだ。とはいえ、ギリギリまで遅らせたかった。

 だから、この場で、即送信という手段を取ることにした。


「そ、それで、どんな感じか、わかる、と思う、から」


 俺は少しダウナーなテンションで。古織は恥ずかしそうに。


「二人とも、何やってるのよ。バカ夫婦もいいところじゃない……」

「それとも、冷やかされるのを狙って撮ったのかな?」


 案の定、雪華(せっか)幸太郎(こうたろう)からツッコミが入った。

 で、これで済めば、いつものことなんだけど、そうは行かないだろう。

 次第に、教室がざわつき始めた。


「おいおい。「あいしてる、こおりちゃん」ってなんだよ、こりゃあ」

倉敷(くらしき)の事、「こおりちゃん」なんて呼んでるんだな」

「お前ら、取材に行ったんじゃなかったのかよ。楽しんできやがって」

「でも、一緒に写ってるメイドさん、レベルたけえよな」

「俺もメイド喫茶行ってみたくなってきた」

「実際に見せつけられると堪えるな。もげろ」


 などなど、男子どもの好奇と怨嗟の声。

 さすがに、夫婦である事には慣れたのか、予想よりも大人しい。


(杞憂だったか?)


 と一瞬思うものの、


「きゃー、古織(こおり)さん、照れ照れして可愛いー」

道久(みちひさ)君も、すっごい恥ずかしそうだし、かわいー」

「でも、「だいすき、みーくん」って、いいよねー」

「ねー。すっごい、ピュアな感じがするー。熱愛だー」

「それに、「あいしてる、こおりちゃん」も。いいなー」

「この夜、きっと、色々しちゃったんだろうなー」

「きっと、そうだって。もう私達には言えないことを色々と……」

「やっぱり、この夜は凄い燃えたのかな?」

「きっとそうだって。きっと、情熱的な道久君に、照れながらも受け入れる古織さん。そんなカンジで……」

「これは、後で是非とも、色々聞かせてもらわないと」


 もう女子の方は大盛りあがりである。

 そりゃ、色々、この夜は盛り上がってしまったけど、言えるはずもない。


「ねーねー、道久君。「こおりちゃん」って、二人きりの時はそう呼んでるの?」


 最前列の女子が興味津々と言った様子で質問してくる。

 あー、もう、勘弁してくれ。


「昔のあだ名だよ、昔の」


 素早く切り上げようとするも。


「じゃあ、今は、今は?昔のままだったり?」


 逃してくれなかった。


「今は普通に呼び捨てだって。わざわざ、皆の前で使い分けないっつの」

「そっかー。でも、古織さんは「みーくん」なんだよねー。なんでなんで?」


 今度は、矛先が古織に向いた。


「だ、だって。別に呼び名を変えようとか、思わなかったし。それだけ!」


 古織も羞恥でいっぱいいっぱいといったところだ。顔を赤くしてらっしゃる。


「でも、道久君は、違うよねー。やっぱり、恥ずかしいから?」

「いや、特に理由はないって。なんとなくだよ、なんとなく」


 そして、再び俺の方に矛先が向いてくる。

 ほんとは、「あの約束」を機会に、てのがあるんだが、そこまで言う義理はない。

 しかし、女子連中の攻勢に、あの日の思い出が蘇ってきて、色々いたたまれない。


「えー。それ、絶対なんかあるよねー。理由がなく変わったりしないよー」

「あー、わかったよ。中学に上がっても「ちゃん」とか恥ずかしいだろ。だから!」


 それらしい理由をでっち上げて、追求から逃れようとするも。


「だ、そうだけど。どうなの?「こおりちゃん」?」


 また、古織に矛先が向く。


(ねえ、さっきのって……)

(ほんとの事言うの、恥ずかしいだろ)

(でも、隠し事してるみたいでやなんだけど)

(ええ!?なんで今更)

(……ほんとのこと、言ってもいい?)


 目をうるませて、上目遣いのお願い。

 いや、涙の方は演技だ、演技。最近使ってないけど、出来るのを忘れたか。

 でも、古織の機嫌を損ねてまで、隠す事でもないし。


(あー、わかった。わかった。言っていいって)

(うん。わがまま言って、ごめんね?)


 なんで、ほんとのことを皆に言いたいのか。

 きっと、皆に祝福して欲しいという、古織なりの思いなんだろう。

 にしても、このタイミングで、と思うけど。


「実はね。その、「こおりちゃん」から変わったのは、おっきな理由が、ある、の」


 それは、二人だけの思い出にしておきたかった気もするけど。


「やっぱりー。道久君の態度、あやしかったもんねー」

「私達はね。小学校の頃、大きな約束をしたの」


 やっぱり、顔を赤くして恥ずかしそうにしながらも、ぽつりと語り始める古織。

 

「それって、やっぱり、結婚の約束ってやつ?」

 

 そういえば、そもそもの始まりが、幼稚園の時のアレだったか。

 そのネタは暴露したから、連想するのも無理はない。


「ううん。もっと重要なこと。《《何があっても、一生側にいる》》って」

「俺が古織の所に引き取られてから、俺も一時期グレたことがあってな」

「別に無理もないと思う。それで、色々あって、約束することにしたの」

「そういうこと。結婚は結果ってか、一生側にいるための、儀式みたいなもん」


 衆人環視で何言ってるんだ、と我ながら思う。

 でも、恥ずかしそうでも、古織は何故だか嬉しそうで。

 なら、いいか。とも思える。


「……」

「……」

「……」

「……」


 その言葉を聞いた一同は、少しの間、あっけに取られていたけど。


「うわー。小学校で、そんな約束するとか」

「それで、この春結婚したんだねー」

「ドラマチックー。軽いとか思っててゴメン」

「すっごく、いい話を聞いた気がする」


 話の裏にある真剣さに気づいたのか。からかうどころか、むしろ感動ムード。


「一生側にいるんだから、俺なりに呼び名を改めようって思ったんだ」

「私は、結局、子どもの頃のままで通しちゃったけどね」

「いいんだよ。俺なりの決意表明だったから」


 たった、それだけのこと。


「なんか、高三で結婚とか、軽いなーって思ってたけど」

「すっごい真面目だったんだな。これからは応援するぜ!」

「な。それだけ、覚悟完了してるとか。同い歳とは思えないぜ」

「今度、クラス皆で結婚記念パーティーでもやってやろうぜ」


 うちの高校は、特に、この学年は育ちがいいと言われている。

 だから、別に変な目で見られることはなかった。

 にしても、こう、祝福ムードだと、不覚にも涙が出てしまいそうだ。

 隣にいる古織も、今度は演技でなく、何やら鼻をぐすぐす言わせている。


「って、本題だ、本題。メイド喫茶の話やろーぜ」


 危うく、俺達が何をしようとしていたか完璧に忘れそうになっていた。


「別にいーじゃん。明日やれば。それより、もっと色々聞きたいなー」

「よし!都合つく奴だけで、放課後、皆でカラオケでも行こうぜ!」


 ほんと、人が良い奴らなことで。


「ほんと、バカ夫婦だけど。良かったわね。古織」


 雪華の奴まで何やら涙ぐんでやがる。


「ま、君たちも、少しは後ろめたい気持ちがあっただろうけど」

「だな。まあ、一部だけど、陰口叩いてる奴は居たしな」


 高校生で結婚、なんて非常識だから、陰口はスルーしてたけど。

 でも、こうやって祝福ムードとなると嬉しいもんだ。


「以前、小説のモデルにさせてもらった時は、そんな裏話があるとは露とも思わず……。もっと、色々聞かせてください!」

「はあ。まあ、話せる範囲でな」


 相変わらず、小説のネタにすることを考えているらしい(たちばな)


「先生も、ちょっと、涙でちゃった」


 と担任の春ちゃん。


(雪華たちは別として、このクラスでは深い付き合いしてこなかったけど)

(うん。こんなことなら、もうちょっと深い付き合いしてもいいかもね)


 祝福ムードの中で、俺達はそっとささやきあったのだった。


 しかし、こないだの質問攻めの時もだったけど。

 想像以上に、俺達はクラスの皆に興味を持たれていたらしい。

真面目な話を暴露したところから、ムードが変わってしまったの巻でした。


文化祭編、まだまだ続きます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 羞恥プレイから、昔話になって、みんなに受け入れてもらえましたか。 まあね。普通はそんなに長い間恋人でいないからねえ。憧れられることはあっても、やはりまず、まねはできない。
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