第63話 メイド喫茶取材デート(前編)
メイド喫茶でデートの二人ですが……
我がクラスの出し物がメイド喫茶に決まったその週末。
俺たちは、秋葉原にある有名らしいメイド喫茶に来ていた。
Google検索したところ、秋葉原で一番有名らしいというのが理由。
なのだけど-
「これ、三階から七階まで、全部メイド喫茶なのか。すげえな」
「うん。私も予想外。本当に大人気なんだね」
メイド喫茶が入っているビルを見上げて二人して感嘆してしまう。
「ま、とにかく入るか」
と、ビルの一階入り口から入ると、何やら券売機と思しきものが。
そして、横にはメイドさん。
「あの、すいません。お聞きしたいことが-」
「すいません。券売機の方でお願いします」
何やらつっけんどんな対応をされてしまう。
「いや、実は来店が初めてなんですが」
「失礼しました。当店では、まず、整理券で順番にご案内させていただくことになっています。そちらの券売機でよろしくお願いします」
とそれだけ言って、メイドさんは引っ込んでしまった。
「券売機ね。とりあえず、これで「二名」ってやればいいのか?」
何やら電話番号の入力まで求められたけど、はて、何に使うのか。
「みーくん、どうだった?」
「いや、なんか整理券ぽいものは買えたんだけど……」
薄っぺらい、手のひらに収まる紙を見せる。
「これだけだと、よくわからないね」
「だな。もう一度聞いてみるか」
もう一度、入り口のメイドさんに聞いてみる。
「整理券のようなものは受け取れたんですが、どうすれば?」
「入力された電話番号に、後ほど連絡が行きますので」
「ひょっとして、かなり混んでます?」
「そうですね……大体、一時間待ちくらいでしょうか」
「あ、そ、そんなにですか」
メイド喫茶で一時間待ち。予想外過ぎる事態だった。
「なんか、時間になったら折返し電話が来るんだと」
「ということは、すごい混んでるの?」
「ああ。どうも一時間待ちらしい」
「メイド喫茶って、そんな大人気なんだね」
「ちょっと予想外だったな。午後一時くらいまでぶらつくか」
「うん、そうしよっか」
ということで、ヲタク向け書店を冷やかしたり。
あるいは、模型専門店を見て回ったり。
そんな風にして時間を潰していたところ、着信が。
自動音声っぽい。
とにかく、ようやく時間が来たらしい。
「そろそろ、時間十分前らしい。行こうぜ」
「ようやく、だね。楽しみー」
揃って、まだ見ぬメイド喫茶に心躍らせながら、向かったのだった。
整理券を見せて、四階にエレベーターで移動。
「「お帰りなさいませ!ご主人様、お嬢様!」」
メイド服を着た綺麗なお姉さん二人の揃っての挨拶。
「え、えーと。実は俺たち。あ、二人です。初めてなんですけど」
どうも、常連客と勘違いしてそうな節がある。
「あ、失礼しました。こちらをご覧ください」
と、それだけを言って、何やら説明書きを渡された。
それによると、席が混雑しているので一時間制であること。
料理以外の写真、たとえば自撮りも含めて、禁止とのこと。
料金を払えば、自撮りも、メイドさんとのツーショットもOKとのこと。
そういう注意事項が「ご主人様へのお願い」となっている。
「なんかさ、別世界に来た気分なんだけど」
「私も。でも、せっかくだから、楽しもう?」
「そうだな」
早速、案内された席は、楕円状のテーブルの隣同士の席。
再度、店のシステムを色々説明されるけど、派手なメイドさんの格好が目につく。
とりあえず、給仕役ぽいメイドさんが去った後。
「メニュー表も、何がなにやら」
「「ぴぴよぴよぴよ♪ ひよこさんライス」っていうの、可愛くない?」
「メイドさんにケチャップでお絵かきしてもらえるのか」
メイド服のお姉さんを眺めながら、のんびりと昼食の気分だった。
しかし、そもそも前提が間違っていたらしい。
「うん。クラスの皆に共有するのにもちょうど良くない?」
「そうだな。じゃ、古織はそっちで。俺は別の頼むよ」
言いつつ、メニュー表を眺めてて目についたのが、
『えびちゃんとサーモンくんのマリン丼』
だ。一応、普通ぽいメニューなので、安心して頼めそうだ。
「じゃ、俺は、この、『えびちゃんとサーモンくんのマリン丼』で。長いな」
「こっちの、『わんわんカレーライチュ』が可愛いと思うんだけど」
「そっちは、古織に任せた」
「ふふ。みーくん、なんだか緊張してるね」
なんだか、楽しそうに笑われてしまう。
「いや、色々予想外だったしな。でも、頭切り替えてこう」
「私は、どんなのが出てくるか、すっごい楽しみだよ」
こういうところ、古織は強いな、と思う。
新しい体験を楽しむ心が備わっているっていうか。
ま、せっかくのデートなんだし、ほんと、切り替えてこう。
しばらく待っていると、メイドさんが俺たちの前にやってきた。
「みっちー様とくらちゃん様は、ここに帰宅されるのはお久しぶりですよね」
「え?」
久しぶりも何も、今日が初来店なんだけど。
ちなみに、みっちーは俺で、くらちゃんは古織だ。
呼んで欲しい名前を事前に記入したのだ。
(みーくん、みーくん。これは、そういう「ごっこ」みたい)
(そういうことか。ほんと、下調べしとけば良かった)
「そうですね、もう十年ぶりでしょうか」
「私も、十年ぶりくらいです!」
「ですよね。ご存知ないかと思いますが、新米メイドのミューと言います」
と、礼儀正しくお辞儀をされる。
名札に「ミュー」と確かについているけど、どっから来たんだ、この名前。
「みっちー様とくらちゃん様は、どこから帰宅されました?」
にっこり笑顔で質問されるけど、帰宅=来店、だよな。
つまり、どの地域から来店したか、という質問か。
「ええと、千葉の市川辺りなんですが」
「ですから、どこから帰宅されました?」
は?これは一体何を言われているんだろう。
初メイド喫茶は随分難易度が高い。
(後編に続く)
異世界に来たみたいになっている二人です。
後編に続きます。




