第62話 文化祭の出し物は
九月も残すところあとわずかとなったとある金曜日。
「皆さんも知っての通り、来月末には文化祭があります。三年生は、受験の関係もあるから、クラスとして参加は強制ではないですけど、先生としては、高校生活の思い出として、参加して欲しいです」
と、担任の先生のお言葉。
「クラスで出し物をする場合、責任者が必要ですが、立候補者は居ますか?」
続いて、クラス代表の立候補を求める先生。
「はいはいはい!私、やります!みーくんもいいよね?」
「俺が返事する前に決めるなよ。ま、いいけど」
毎年、文化祭への参加には古織は結構積極的だ。
俺は俺で、古織と一緒に色々出来るなら、ということでこうなる。
「古織さんと道久君ね。他に立候補者は……?」
「異議なーし」
「なんか、面白いのを提案してくれよー」
「そうそう。夫婦喫茶とか、いいんじゃない?」
「いいな、それ」
悪ノリしてやがる、クラスの奴ら。
夫婦喫茶ってなんだよ。
「とにかく。それじゃあ、古織さんと道久君に決定ね。サポートは先生がするから、よろしくお願い」
「はい」
「ま、古織も俺も慣れてるんで、大丈夫ですよ」
三年間も似た役割をやってれば、要領もわかるというもの。
「早速、この時限中に、何やるか決めてしまおうぜ」
「そうそう。早い方がいいしね」
こういうのは、勢いが肝心。
「とりあえず、飲食系でいくつか案書いてくね」
「頼む。俺は遊戯系で書いてくから」
「何かやりたいことありますかー?」と聞いても、大体物事は進まない。
たたき台でもいいので、とりあえず素案をこっちで書くのが早いのだ。
というわけで、
飲食系:
・喫茶店
・メイド喫茶
・執事喫茶
・その他色モノも
・屋台
・お好み焼き
・たこ焼き
・カレー
・じゃがバター
・焼き鳥
遊戯系:
・占い系
・お化け屋敷
・迷路
・カードゲーム
・ボードゲーム
・テレビゲーム(複数プレイ可の奴)
思いついたものを適当に書き出していく。
素案があれば、見てる内に、新しい案を思いつく奴もいるもんだし。
「適当に案出してみた。それ以外でも思いついたのあったら言ってくれ」
と言いつつ、古織がやけに喫茶店推しなのが気にかかっていた。
(なあ、喫茶系やりたかったりするのか?)
(うん。特に、執事喫茶かメイド喫茶か)
(なんで、その二択なんだよ)
(執事喫茶だと、みーくんの執事服見られるし)
(ということは、メイド喫茶は、メイド服見て欲しい、と)
(メイド服って可愛いし。それに、みーくんも見てみたくない?)
流し目を送ってくる古織。つまり、メイド喫茶推しらしい。
(でも、男子どもはいいけど、女子連中で嫌なやついるんじゃないか?)
(男の子主導だったら、変な服着せられるかもって言う子がいるだろうけど)
(なるほど。古織が言うなら、安心感はあるか)
しかし、古織のメイド服か。途端に見てみたい気がして来た。
「じゃ、他に無いみたいだから、投票行くな」
サクサクと会議を進めていく。
結果、メイド喫茶と執事喫茶が拮抗していたけど、メイド喫茶の勝利。
なお、執事喫茶推しは女子が多く、メイド喫茶推しは男子が多かった。
「じゃあ、出し物はメイド喫茶で決定でいい?あ、もちろん、私が、みーくんが露出高いメイド服とか提案しないように、ちゃんと監視するから安心してね?」
「監視って何だよ。俺は、古織以外に何か変な服着せるつもりはないぞ」
「みーくん、それ、私には露出高いのを着せたいって言ってる?」
「いやいや、言葉の綾ってやつだ。とにかく、そういうわけだから、安心してくれ」
と、変な服を着せられないか心配な女子に向けてアピール。
俺たちのやり取りを見て、どっとクラス中に笑いが起こる。
「古織さんがいるなら、大丈夫よね」
「でも、メイド服着てみるの、結構楽しそう」
「うん。男子たちの目線が気になるけど」
などなど、多少抵抗がある女子もいるけど、概ね受け入れられたようだ。
「じゃあ、メイド喫茶で決定。取材のために、私達がメイド喫茶行ってくるから」
「おい。初耳だぞ」
「こういうのは早い方がいいでしょ?」
「そうだな。俺も、一度、行ってみたかったし」
何やら妙な振る舞いをさせられるとは聞いているけど。
それも含めて、古織と一緒に楽しめそうだし、デートとも言えそうだ。
あ、そういえば。
「先生。メイド喫茶への取材代金は、予算で落ちますか?」
大事な事を忘れるところだった。
メイド喫茶は、普通の喫茶店に比べても高いと聞いている。
俺たちの自腹を切るのは避けたい。
「道久君と古織さんだけなら、なんとかしてみます」
「助かります」
超高速で、我がクラスの出し物はメイド喫茶に決まったのだった。
俺も古織も、こういうのは慣れてるから、サクっと終わってしまう。
(でも、メイド喫茶の取材、楽しみだね)
(予習とかしないで大丈夫か?)
(大丈夫。店員さんがメイド服着てるだけだって。きっと)
(ま、そうか)
などと、呑気にかまえていた俺たち。
しかし、この見込みは甘かったことを後に思い知ることになる。
いよいよ、ここから文化祭に関する話です。
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