第61話 学生夫婦へのインタビュー
久しぶりに更新です。
それは、少しずつ秋も深まって来た九月のある月曜日の事だった。
いつものように古織と二人揃って教室に入った俺たち。
教室の中には、ずらっと揃ったクラスメイト。
今朝は、いつもより遅く家を出たからそれはいいんだけど。
クラス中から視線を感じる。
「なあ、俺たち、何かしたか?」
「皆の視線が気になるんだけど」
夫婦揃って、少し困惑してしまう。
「あ、ごめんねー。私のせいなんだ」
席を立って謝って来たのは、香川沙織。
身近な話題で盛り上がるタイプのグループで、よく従姉妹がどうした、
とか、家族がどうした、とかそういう話題で盛り上がっている。
ちなみに、古織ほどじゃないけど(俺主観)、容姿もいい方だ。
うちの高校は温厚な奴が多いけど、その例に漏れず、落ち着いた物腰。
「というと?」
話が見えない。
「実は、先週の土曜日、十歳くらい上の私の従姉妹が結婚したの」
「うん?沙織ちゃんの従姉妹さんが結婚したのはおめでたいけど……」
古織ははてな、という顔だ。
確かに、どう、今の話に繋がるんだろう。
「私は親戚だから、結婚式と披露宴に出たんだけど。披露宴とか出たのは初めてだったんだよ。それで、料理凄かったー、とか、ウェディングドレス綺麗だったー、とか、つい、はしゃいじゃったんだよね」
「なんか、話の流れが読めてきた気がする」
「そしたら、私達のクラスで夫婦と言えば、道久君たちだよねってことで、話題が飛び火してしまって。皆して、工藤家の夫婦生活の話で盛り上がっちゃったの」
香川が語った経緯は聞いて、概ね状況はわかった。
「経緯はわかった。つっても、結婚したのは春頃だぞ?今更、話題にする話か?」
「そうそう。皆、ある程度は知ってるよね?」
ねー、と夫婦二人して、まだ微妙にこの視線の意味がわかっていない。
「私から事情を説明した方が早そうね」
と立ち上がったのは雪華。
「今まで、なんとなく、夫婦生活の突っ込んだ事はあまり聞けなかった、というのが皆の本音らしくて。いい機会だから、普段の夫婦生活を色々聞きたいらしいわよ。で、いいのよね?」
と、簡潔にまとめてくれた。
異議なーし、異議なーし、と教室中から声が挙がる。
もうそろそろ慣れたと思っていたけど、そんな方面で興味津々だったのか。
「まあ、別に話してもいいんだけど。あまり変なことはナシにしてくれよ」
「うんうん。普通のことだから答えられるから」
さすがに、睦事とかそっち方面は止めて欲しい。
「じゃあ、私が代表して、取り仕切るわね。質問ある人は挙手ー!」
いつの間にか雪華が取り仕切る流れになってやがる。
ま、俺たちと親しいといえば、雪華と幸太郎だし、妥当か。
「古織ちゃんと道久君の馴れ初めを聞きたい!」
早速、女子の一人が挙手。
「馴れ初め、ねえ。春の自己紹介とかでも簡単に言ったと思うけど。俺と古織は幼稚園からの付き合いなんだよ。なんか、そういう頃のガキって、誰々がお嫁さんになるー、とか、無邪気に言ったりするもんだろ?」
と、いったん言葉を区切る。
「うんうん。私もよく覚えてないけど、そんな事言ってたかも」
と、香川。
「どうも、その頃の俺は、お嫁さんになる前に普通は恋人になるもんだって、妙なところだけ、聞きかじって知ってたっぽくてな。古織が無邪気に言ったのにマジレスしてしまったんだよ。お嫁さんの前に恋人にならないといけないよ、ってな」
「思うと、本当に、みーくんの返しは変わってたよね」
「なら、恋人になるーって言った古織も相当だと思うぞ」
夫婦で言い合っていると。
「すっごい憧れるようなぶっ飛んでるような。それで、今まで付き合いが……?」
まさかだよね、という様子だけど。
「そのまさかって奴。途中、色々あったけどな」
主に両親の蒸発という大イベントが。
「納得。物凄く年季入ってるもんね。二人とも」
何やら呆れた様子。
「小学校の頃とか、カッコつけるの覚える前だからなあ。あんま隠し事はないな」
「うんうん。でも、結婚してからは、やっぱり色々、みーくんの事知らないんだなーって思ったけどね」
この春からの色々な事を指しているんだろう。
「はいはい!夫婦の夜の営みは週何回くらいしてますか?」
と、また手を挙げたのは別の女子。
なんで、女子ばっかり、興味持つんだか。
「さすがに、それはノーコメント。な?」
「うん。ちょっと、それは……」
何が悲しくて、そんな事を暴露しなきゃいかんのだ。
「えー。せっかくだから。参考のために、ね!」
「はいはい。そういう質問は却下ということで。次」
雪華が幸い、これ以上の質問を遮ってくれた。
「じゃあ、いい機会だし、俺も」
今度は男子だ。二年からの知り合いの奴だ。
「確か、工藤は倉敷の家に世話になってた気がするんだけど。そこで同居か?」
「あー、その辺、ちゃんと言ってない奴もいたかもな。元々は、俺たちもそのつもりだったんだけど、お義父さん、あ、義理の父って意味な。で、お義父さんが、結婚したんだから、新居に二人で住みなさいって言い出してな。で、千葉県の市川に賃貸マンションを借りて、今はそこで生活」
もうすっかり慣れてしまったけど、そんな事もあったなあと思い出しつつ語る。
「納得。そこで、さんざんイチャイチャしてるってわけか」
「イチャイチャって……まあ、その通りだけど」
納得が行ったのだろう。そいつの質問はそこで終わり。
「あ、そうそう!それで気になってたんだけど。二人はなんで、いっつもやたら節約してるの?なんかあるのかなーって思ってたんだけど」
俺の答えを聞いて、さらに別の女子が挙手。
「お義父さんからの要求でな。二人暮らしして、費用も予算枠内で収めなさいって条件があったんだよ。ま、お義父さんからすれば、俺たちが自活した後に備えての教育のつもりなんだろな」
「あ、でも。無理を言われてるわけじゃなくて、予算が少ないようだったら、増額OKって言われてるからね!」
親に無理な条件を突きつけられてると誤解されそうと思ったのか、古織が補足。
「古織ちゃんたちのお父さんも、随分変わったこと考えるんだねー」
確かに、今まであえて考えなかったけど、普通は無い発想かもしれない。
「こいつの実家は、曲がりなりにも企業を経営してるわけだからなあ。金銭教育には思うところあったんだろうよ」
でも、いい機会だから、今度、お義父さんに確認して見るのもいいかもしれない。
「じゃあ、私からもしつもーん。子どもはいつくらいに作りたい?それと、男の子、女の子、どっちがいい?」
別の女子からの質問は、性生活程じゃないけど、答えに困るな。
「正直、結婚して半年経ってないし。いつとか、男がいいかとか、色々未定」
「えー。私は、女の子がいいんだけど」
「それ聞いたの初耳だぞ」
「なんとなく、だから、別に言う機会がなかったの!」
「その辺、今夜辺り、話し合うか」
まだまだ先なのは変わらないけど、女の子がいいとまで願望があるとは。
と、言い合っていると、クラス中から生暖かい視線が飛んでくる。
「なんか、やっぱり二人見てると、夫婦なんだねー」
「そうそう。普通に、子どもの話を話題に出来る辺りとか」
「ねー」
「私も彼氏と付き合ってるけど、そんな話題、出ないしねー」
普通に話題を振ったつもりなのだけど、クラス連中としては違ったらしい。
その後も、ホームルームの時間まで、色々質問が飛んできて、少し疲れた。
席に戻った俺たちは、ラインで
【こういう事があると、高校生で結婚って、普通じゃないんだって実感するな】
【うん。すっかり慣れちゃってたけど】
【興味深々な奴が多すぎて、意外過ぎた】
【それは仕方ないよ。でも、ちょっと嬉しかったかも】
嬉しかったとは少し意外な言葉。でも、そうか。
【夫婦なことを祝福してもらえた感じってとこか?】
【そうそう。さすが、みーくんはよくわかってる!】
【まあ、まだ、式も披露宴も出来てないしな。その辺はわかるつもり】
【ふふ。そういうところも、大好き❤】
などと、裏でメッセージのやり取りをしていたのだけど。
「大好き❤」の所を誰かが見ていたらしくて、後でまたからかわれたのだった。
ま、奇異の目で見られたりするよりはずっといいか。
完結までの道のりがようやく作者の方で見えたので、
以後、こっち中心にガンガン更新していきます。
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