第57話 夏祭り
町内会の夏祭りに参加することにした二人……。
「町内会夏祭りねえ……」
家に帰る時に、ポストに入っていたチラシを眺める。
そこに書いてあったのは、町内会主催の夏祭り。
定番の屋台やビンゴ大会、ささやかな打ち上げ花火もあるらしい。
「みーくん、何見てるの?」
ひょいと横から古織が顔を出す。
「町内会の案内。1週間後に夏祭りあるんだってさ」
「お祭り、いいじゃない?行こうよー!」
「でもさ。この辺のご近所さんって、子ども連れ多いだろ」
「それがどうかしたの?」
「高校生二人で浮くんじゃないかって思っちまったんだよ」
チラシを見る限り、祭りの規模はそんなに大きく無さそうだ。
それこそ、比較的近所の住人が集まるお祭りなんだろう。
「それは気にしすぎだって!」
「そうかねえ」
「仮に高校生が私達二人だけでも、堂々としてればいいって」
「うーん」
「行こうよー。浴衣もこんな機会じゃないと着ないしー」
「あー。去年着た奴な」
「そうそう。みーくんは見たくない?私の浴衣姿」
言われて、桃色の浴衣を着た姿を思い浮かべる。
「わかった。じゃあ、行くか」
「あ、想像しちゃった?しちゃった?」
「はいはい、想像しましたよ」
「また、照れちゃってー」
ということで、町内会の夏祭りに参加することにした俺たち。
それから一週間後。
「わぁー。綿あめ、焼きそば、たこ焼き、……定番だけど、いい匂い」
「忘れてないだろうけど、使い過ぎないようにしてくれよ」
「私の分はお小遣いから出すから、大丈夫!」
「それならいいんだけどな」
屋台で売っている食べ物の値段はとにかく高い。
焼きそばで500円。綿あめなんぞ、一つ1000円だ。
キャラで釣るにしても、ぼったくりにも程がある。
「とにかく、何か食べよ?」
「だな。まあ、焼きそばが無難か」
屋台の食べ物でも比較的当たり外れが少ないほうだ。
それに、量を考えても、値段はまだ真っ当な方だろう。
祭りでまで、コスパを考えているのが少し悲しいけど。
「焼きそば、二つお願いします」
「はいよ!」
手早く鉄板の上で調理される焼きそば。
さすがに手慣れていて、危なげなく、焼きそばがパックに詰められる。
「うんうん。お祭りで食べる焼きそばって美味しいよねー」
空いているベンチに二人で腰掛けて、焼きそばを頬張る。
はふはふと焼きそばを食べる様子は、とても微笑ましい。
それに、桃色に花柄の浴衣がとても可愛らしい。
「みーくんは食べないの?」
「いや。浴衣、似合ってるなって、ちょっと見とれてた」
「急にどうしたの?家出るときは何も言わなかったのに」
「タイミング的に言いづらかったんだよ」
せっかくのお祭りなのだ。デートとも言える。
もうちょっとさらっと言えたらいいのに。
「みーくんが照れるポイント、未だによくわからないんだよね」
「それはこっちの台詞だっての。浴衣見たくない?とか言ってたくせに」
「家出る時に、何も言ってくれなかったのに、急だから照れるの!」
「それこそ、どっちで言っても同じだろ」
「全然違うよー」
こんなくだらない事を言い合うのも楽しい。
考えてみると、去年も二人でお祭り来たんだよな。
「去年は実家の近くのお祭り行ったよな」
「うん。ここのところ毎年だと思うけど?」
「だったな。でも、お祭りの雰囲気っていいもんだな」
「一人だったらつまらないけどね」
「俺も、一人だったら、つまらなかったよ」
ふと、俺たちと同じ歳くらいの、男女が目の前を通り過ぎたのが見えた。
男子の方は、少しきょろきょろと落ち着かない様子で。
女子の方も、手を繋ごうとそろーっと手を伸ばしているのが見える。
(あ、私たちと同い歳くらいだね)
(なんか、凄い初々しいよな。女子の方、手をつなごうとしてるぜ)
(男の子の方、気づいてないよね。それに、カチコチになってるし)
見てて、ちょっと楽しくなってくる。ふと、手の甲に暖かい感触。
気がつくと、手をぎゅっと握られていた。
「ちょっと真似してみました。どう?」
「どうって……まあ、いいんじゃないか?」
「反応が薄いよー」
「どうしろっていうんだよ、ほんと」
なんて言いつつ、頬が緩むのを抑えられない。
「あ、綿あめ二つくださいー」
「はいよ」
再び歩き出した途中で、綿あめを二つ購入。
(ほい、これ、古織の分)
(いいの?ぼったくりだって言ってたくせに)
店のおっちゃんに聞こえないよう、小声で話し合う。
(たまにはいいだろ。年に1回の夏祭りなんだから)
(でも、お正月も初詣で屋台あると思うよ?)
(じゃあ、お正月は節約する方針で)
(ちょっと世知辛いよね)
神社の境内を歩いていると、やはり子ども連れが多い。
特に、小学校低学年くらいの子が多いだろうか。
「やっぱり、このくらいの子どもって可愛いよね」
「そうかあ?俺は生意気なガキだったと思うけどな」
「この時から、もう「こいびと」だったよね」
「確か、もう手は繋いでたよな」
幼稚園の頃に「こいびと」になった俺達は、よく手を繋いでいた。
とりわけ、こんな夏祭りの時は。
「あ、もうすぐビンゴ大会始まるみたい!」
「まさか混じる気じゃないだろうな?」
「さすがに、しないよー。子どもたちばっかりだし」
「ほっとしたよ。俺たちだけ浮いたらどうしようかと思った」
ほんと、古織ならやりかねない。
「あ、思い出した!これこれ」
思い出したように、取り出したのは、見覚えのあるキーホルダー。
「確か、ビンゴ大会の景品だった奴だっけ」
「そうそう。みーくんがプレゼントしてくれたんだよ」
「古織もほんと物持ちがいいな」
「彼氏がプレゼントしてくれたんだもん。大事にするよー」
彼氏を強調する古織に、少し可笑しくなってしまう。
そんな小さい頃から付き合っていたのだから。
しばらくの間、無言でぼーっとしていると、花火が打ち上がり始めた。
「どんなもんかと思ったけど。しょぼいな」
「そんな事言わない!町内会のお祭りなんだから」
「冗談だよ。こういうのも風情があっていいよな」
地元の夏祭り違って、地味な打ち上げ花火。
二人で隣り合いながら、のんびりと眺めたのだった。
短い時間の夏祭りが終わって、俺たちは帰宅途中。
「楽しかった。来年も来られるといいよね」
「大学がどこか次第だな。都内だったら、こっからでも通えるけど」
「関西の方だと、また引っ越ししないとだよね」
「お互い、浪人しないように頑張ろうな」
「うん!」
場所が変わっても、また来年こういう風にしていられますように。
去年までを思い出しながら、祭りの雰囲気を楽しむ二人でした。
夏休み編は、あと1~2話で終了予定です。
引き続き、応援いただけると嬉しいです!




