第52話 夏休み初日と水着選び
水着選びをしながら、やっぱりイチャイチャする二人の図、です。
昨日の何かが尾を引いているのか、古織はやけにご機嫌な模様で。
「うーん、これだけ水着が並んでると壮観だなあ……」
プールに皆で行こうと約束した翌日のお昼過ぎ。
俺たちは、最寄りで水着を多種多様に取り扱っている店に来ていた。
「古織はどんな水着にする予定なんだ?」
「みーくんは、どんな水着がいい?」
好みの水着を聞いたのに聞き返されてしまった。
「それは、お前が着たい水着買えばいいんじゃないのか?」
「みーくん……それは、ダウトだよ」
じとーっとした視線で睨まれる。
「な、なんでだよ。古織が着る水着だろ」
「もちろん、そうだけど。みーくんに見てほしいからでもあるんだよ?」
ぷくーとふくれっ面で、でも、恥ずかしそうに言われてしまう。
「悪かった。ちゃんと探そう、うん」
古織の想いを汲み取れなかった事を恥じて謝れば、
「そうそう。わかってくれればいいの♪」
あっという間に機嫌が回復して、鼻歌混じりで俺を引っ張っていく。
しかし、古織の言うことをそのまま受け取るなら。
「もし、着るのも恥ずかしい水着を俺が指定したらどうするつもりだ?」
「するつもりなの?」
「いや、さすがにあんまり変なのは……」
「じゃあ、言わないでよ。私も、もちろん好みがあるから、何着か見繕ってみて、みーくんが一番好きなのにしたいの」
「それは嬉しいんだけど、しかし、プールなんだよなあ」
「プールだったらどうなの?」
「いや、大勢の奴に見られるわけだろ。なんか、もやもや感が……」
なんか、言葉にしたくないような気持ちだ。そうつぶやいていると、
「それって、ひょっとして、独占欲?嫁の肌を見ていいのは、俺だけだ!みたいな」
そう、とっても嬉しそうに、頬をつついてくる古織。
「独占欲とはいいたくないけど……そうかもしれない」
「じゃあ、露出は控えめのにしよ?にしても……」
「やけに嬉しそうだな?」
「だって、「お前は俺だけのものだ!」って言ってくれてるんでしょ?嬉しいよー」
「そう言い換えられると、いたたまれなくなるんだが」
「みーくん、最近、私達が夫婦なこと忘れてない?」
「つーと?」
「言ってくれてもいいんだよ?私はみーくんのものだから♪」
「変な独占欲で縛るのは俺のポリシーに反するんだよ」
なんていうか、こいつには自由で居てほしいと思ってしまうのだ。
「私は独占されたいのに。ひょっとして、浮気されたいの?寝取られ趣味?」
「なんで、そこで寝取られなんだよ。でも、水着一つで言うのも狭量だろ」
「変なところで生真面目なんだから。でも、そういうところも大好き」
「ああ。俺も大好きだぞ」
昨日に続いて、古織が甘えてくるものだから、雰囲気についつい流されてしまう。
「って、水着選ぼうぜ、水着」
「わかりやすい照れ隠しなんだからー」
「あーもう、なんとでも言ってくれ」
そんな風にイチャイチャしながら、水着売り場を練り歩く。
「あ、このワンピースタイプの、どう?」
目についた、フリルがついたワンピースタイプの水着を手にとって見せてくる。
水色の清涼感に、白のフリルが相まって、色々……。
「ま、まあ。割といいんじゃないか?」
「じゃあ、これは候補にっと♪」
そんな風にして、計5着の水着をサクサクっと選んで、試着室に持ち込む古織。
しかし、なんで、妙に後ろめたい気持ちになるんだろう。
候補の中から好みにあったのを、というのは普通の服でも同じだろうに。
あ、そうか。露出が多いから……。と気づいて、色々気恥ずかしい。
たぶん、嫁の下着選びに夫が付き合う、みたいな感じなんだろう。
(あー、もう。煩悩退散!)
いや、退散しなくていいんだけど、もっと昼間は健全に行こう。うん。
「みーくーん、これはどう?」
まず最初に試着したのは、最初の青に白のフリルがついた奴。
古織の胸の小ささがかえって似合っていて、妙な色気を醸し出している。
「かなり、いい。うん」
「かなりいいだと曖昧だよ。採点するなら100点満点で何点?」
「また難しいこと聞いてくるな」
少しの間考えを巡らせる。うーん……。
「90点、かな」
「ということは、かなり好み?」
「そういうこと」
「じゃあ、次、着替えるね」
といそいそと試着室に戻って行く古織。
周りはというと、もっぱら女性客が主だ。
一部、カップルらしき客もいるけど、色々落ち着かない。
「これはどう?さっき言ってた、ビキニタイプのやつ」
次に試着して来たのは、やや布地面積が大きめの、オレンジ色のビキニタイプ。
ただ、似合ってるには、似合ってるんだけど……。
「うーん、80点、かな」
「さっきのよりも10点低い理由は?」
「特に理由はないって。フィーリング、フィーリング」
本当の理由を言うと、怒られるのが確定だったので、誤魔化そうとする。
しかし、そこは長年の付き合い。
「本当の理由を言って?怒らないから」
「古織の胸だと、ちょっとミスマッチ感が」
これ、怒るだろうなあと思いつつ、正直に告げてみる。
しかし、
「やっぱり、そうだよね。はぁ……」
かえってきたのは、怒りではなく、意気消沈した古織の姿。
「意外な反応だな。怒ると思ってたんだけど」
「似合うかどうかはわかってるつもり。もっと、胸が大きければ良かったのに……」
「俺はその、今のサイズでも好きだぞ?」
「スケベ」
「フォローしたつもりなのに、なんで罵倒?」
「自分で言うのはいいけど、男の子に言われるのは恥ずかしいの!」
「また我儘なことを言うなあ」
「このくらいの我儘は受け止めて欲しいな?旦那様」
「へいへい」
こうやって、掛け合いをしていると、甘ったるい空気が薄れる気がして落ち着く。
それからも、試着は続く。
結果として、最初のフリルがついたワンピースを購入することになった。
「いいお買い物が出来て良かった♪お値段も安く済んだし」
「これが1500円なんだから、夏の出費としては安いよな」
「みーくんは、新しい水着要らないの?」
「俺は男だし、下だけだろ。去年の使いまわしでいいって」
「私も、みーくんの水着選んであげたいんだけど?」
「勘弁してくれって。それに、節約。そう、節約だよ!」
ちょっと無理やりな気がするけど、我が家の大義名分を盾にする。
「ぷっ。っくっくっく。みーくん、それ、無理やりな言い訳だよー」
腹を抱えて、ケタケタと笑っていやがる。くそう。
こうして、夏休み初日の水着選びデートは暢気に過ぎて行ったのだった。
というわけで、ただイチャイチャするだけの暢気なお話でした。
引き続き、リアルとは季節外れですが、夏のお話が続きます。
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