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第51話 1学期終了と彼女の甘え攻勢

 ピピピ。ピピピ。ピピピ。


 目覚ましの音に、意識がぼんやりと覚醒する。

 ポンと目覚ましを止めて、伸びをする。


「なんか、懐かしい夢を見たな……」


 思えば、あの約束から本当の意味で古織(こおり)との関係が始まったのかもしれない。隣を見ると、すぅ、すぅ、と安らかな寝息が聞こえてくる。


 時間は朝の7:00。普段なら、彼女が起きて、朝ご飯とお弁当の準備を始めてくれている時間だけど、今日は少し彼女の寝顔を眺めていたくなった。


 髪をかきあげて、なんとなく額に触れてみると、「ん。みーくん……嬉しい……」と何やら寝言のような、夢うつつのような言葉が発せられた。どんな夢を見てるのやら。


「ご、ごめん。みーくん!すっかり寝坊しちゃって……」


 それから30分して、ようやく起きた古織はすっかり縮こまっていた。


「いや、いいって。俺が起こさなかっただけだし」

「でも……」

「とりあえず、朝ご飯食おうぜ?焼いたパンに、ゆで卵だけだけどさ」

「準備、してくれてたんだ」

「たまには、な」


 少し照れくさくなって、こめかみをポリポリとかきながら言う。


「みーくん、大好き……!」


 まだパジャマ姿の古織が飛びつくように抱きついて来た。

 今朝の夢の記憶があるせいか、ひときわ嬉しく感じられる。

 と思ってたら、頭を胸板にこすりつけられる。


「ど、どうしたんだよ。今朝はなんか甘えてくるな?」

「ううん。ちょっといい夢みたから。気にしないで」

「そっか」


 そんな、少し、しっとりした朝を迎えたのだけど。

 問題は、ゆっくりし過ぎたことで。


「急がないと!遅刻しちゃう!」

「今日はもう諦めていいんじゃないか?」


 焦ったように言う古織だけど、電車の時刻を考えるともう手遅れだ。


「でも……」

「別にいいだろ。いい朝だったんだし、たまには遅刻しても」

「うん。そうかも」


 満足げに頷いた古織は、普段にも増して可愛らしい。

 いや、愛しいのだろうか。夢の印象が残っているせいで。


 まだまだ通勤ラッシュの総武線に二人して乗り込み。

 お互いに、いつもよりくっついて。

 いつもと少しだけ違う登校になったのだった。


「あー、すいません。思いっきり寝坊しました」

「みーくん共々、すいません」


 すっかりお嫁さんが板についた古織が一緒に謝る。


「珍しいものだ。普段、優等生なお前たちが」

「ちょっと夜更ししてしまいまして」

「まあいい、着席しなさい」


 1限目の現国の教師は、さして気にしていないようだった。

 言う通り、普段の俺たちは、遅刻は滅多にしないから、かもしれない。


(でも、もう1学期も今日で終了か)


 今日は7月22日の水曜日。我が校も晴れて1学期の終業式だ。

 といっても、今年は受験生。

 夏休みは遊び通しとまでは行かないだろう。

 それでも、高校生活最後の夏だ。

 古織と一緒に思い出作れればいいんだけどな。


 授業を程々に聞きながら、そんなことを考えたのだった。


 昼休み。


「君たちが遅刻とは珍しいね」

「そうよ。道久はともかく、古織がしっかりしてるのに」

「おいおい。俺だけならみたいな言い様はなんだよ」

「いつも、ご飯とか家事とか任せっきりな癖に」

「それ言われると辛いとこだけど……」

「もう、雪華ちゃん。私が好きでやってることなんだから」


 雪華(せっか)幸太郎(こうたろう)(たちばな)を含めた五人でたべっている俺たち。

 古織が珍しく、家事を好きでやっているんだと強く言っている。


「あ、ああ。そうよね。愛する旦那のためだから、へっちゃらよね」

「うん。愛する旦那様のためだから」

「どうしたの、古織?なんか、今日はすっごいデレデレなんだけど」

「ちょっといいことがあったから。それだけ」

「ふーん。道久もなかなかやるわね?」

「ま、まあ。そうかもな」


 いや、なんでここまで上機嫌なのかわからないんだけど。


「とにかく、今日は俺たちもお弁当はなし。学食行こうぜ」

「お弁当有りが普通の君も大概贅沢だね」

「それは自覚してるよ」


 学食にて。


「今日で1学期終わりだけどさ。夏休み、どうすっかね」

「と言っても、受験勉強がありますよね?」


 自信なさげに言うのは(たちばな)。紆余曲折あって、

 最近は俺達のグループでつるむことも増えている。


「でも、息抜きも大事よ?勉強、勉強、だと疲れちゃうわ」

「定番だけど、プールとかもいいかもしれないね」


 雪華(せっか)幸太郎(こうたろう)が言う。


「あー、プール、ね」

「何かプールが嫌な理由でもあるの?」

「そうじゃないけど、プールとか割と贅沢な娯楽だよな」

「そうそう。水着も新調したら、結構お金かかっちゃう」


 それに、新婚旅行で、貯金した分をかなり使ってしまった。

 だから、この夏休みは再び節約を意識してしまう。


「節約生活も大変ですね……」

「いやいや、最近はそれなりに楽しいし。な?」

「うん。食費をどう削ればいいかとか。考えるの楽しいよ」


 揃って、そんな答えを返したのだけど。


「プール代くらい私達が出すわよ。一緒に行きましょ?」

「そうそう。水臭いよ。二人とも」

「わ、私も出します!」


 そんな事を申し出てくれるのは、本当にいい奴らだと思う。


 二人だけの帰り道。


「しっかし、プールか……古織の水着姿拝むのも久しぶりだな」

「水泳は別授業だもんね」

「それもだけど、スクール水着じゃないのが、な」

「水着、新調しよっかな……でも、水着代結構するし」

「そこら辺は値段見て考えようぜ」

「そうだね。無理そうだったら、去年の使えばいいし」


 ということで、話はまとまったのだけど。


「なんかさ。今日は朝から距離近くないか?」


 いつもよりずっと肩を寄せて来ている。

 俺も、こうしてくれるのは嬉しいんだけど、ちょい照れくさい。


「ちょっと懐かしい夢みたから。みーくんも朝ご飯準備してくれたし」

「そっか。なら、たまにはこうするのもいいもんだな」


 ただ、静かにこうして肩を寄せて甘えてくれるのは男冥利に尽きる。

 もうちょっと、家事を手伝ってもいいかも、なんて現金な事を思ったのだった。


 さらに、家に着いて、リビングで教科書を読んでても。

 「一緒に教科書読むって変じゃないか?」

 「たまにはいいでしょ?」

 なんて言いながら、後ろから手を回してくる始末。

 いつもと違う甘え方に、ドキドキするやら嬉しいやら。


 古織の甘え攻勢は夜まで続き、果ては就寝間際になっても続く。


「今日は私がしてあげるね」


 なんて言いながら、寝室で俺のズボンを下ろそうとまでしてくる。


「それは嬉しいんだけど。今日はやけに甘えて来てないか?」

「いつも通りのつもりだけど?」

「いつもの3倍増しで甘えてるって」

「昔の頃の夢を思い出して、ちょっと嬉しくなっただけ」


 昔の夢?今朝も言ってたな。


「昔の夢って、あれか?一緒に生きてくって約束した奴」

「ん?それとは別だけど」

「あ、ああ。そうか。悪かった」

「それも懐かしいけど、もっと別の頃の夢!」


 別の頃、ねえ。

 古織が嬉しがるようなことは……色々あるな。


「ま、いっか。でも、これからもこんな調子だと嬉しいんだが」

「みーくん、ひょっとして、こういうのが好みだった?」

「普段のもいいんだけど、今日のも新鮮だった」

「じゃあ、時々はそうするね。じゃ、続き、しよ?」


 こうして、いつもより甘えてくる古織との夜は更けて行ったのだった。


 しかし、水着姿の古織……色々、楽しみだな。

何の夢を見たのか、一際古織が甘えて来た一日のお話でした。

ちょっと糖分多めです。何の夢かについては、ご想像にお任せします。


しばらく、こっち優先で更新していくので、よろしくお願いします!

イチャイチャの先を見たい方、楽しんでくださる方は、応援お願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] さて、彼女の方はどんな夢をみていたのやら。
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