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第50話 お金がなくても、一生一緒にいると僕らは約束した

※第41話 断章(2)からの続きです


「みーくんの気持ちが知りたいの。どうして、家出したの?」


古織(こおり)ちゃんは何故だか泣きそうな顔をしてそう言ったのだった。


「どうしてって……」


 古織ちゃんの問いに、一瞬、言葉に詰まる。

 結局、この家出が続かないことはわかっていた。

 だから、ただのやけっぱち。じゃあ、その理由は?

 肩身が狭いから。本当の家族じゃないから。

 哀れまれるのが辛いから。色々な言葉が思い浮かぶ。


「答えるよ。結局、古織ちゃんの家に居るのが辛かった。それだけ」


 直接的な理由といえば、ただそれだけのこと。


「お父さんも、お母さんも、いつも、みーくんの心配をしてるよ?」


 そう言って、古織ちゃんは、しまいには、涙を流し始める。

 だから、僕も胸が痛む。


「わかってる。弘彦(ひろひこ)さんたちがよくしてくれてることは」

「だったら……」

「でも、僕がこんな境遇だから。可哀相に、って哀れんでるだけでしょ?」


 と言いながら、捻くれたガキだと内心で思う。


「それは……」

「ほら、否定できないでしょ?」

「……」

「可哀相にって、哀れまれるくらいなら。僕は野垂れ死んだ方がマシだよ」


 本当に野垂れ死ぬ覚悟もないくせに。口だけは一丁前だ。


「私も、お父さんたちの心はわからないよ。みーくんの言う通りかもしれない」

「でしょ?だから、僕なんか野垂れ死んだ方がいいんだって」

「でも……私は、哀れんでなんかない!それだけは信じて欲しいの!」


 涙をぽろぽろと流しながら、悲壮な表情で訴えかける古織ちゃん。


「だって、古織ちゃんだって、僕が引き取られてから、ずっと……」

「私は、みーくんと一緒に居たかった。ただ、それだけよ」

「でも、だって……」

「ねえ、みーくん。私たちは、「こいびと」じゃなかったの?」


 その言葉に、僕は衝撃を受けていた。ああ、そうか。

 古織ちゃんは、哀れんでいたわけじゃなくて。

 ただ単に、「こいびと」の僕を心配してくれただけなんだって。

 そんな古織ちゃんに、僕はひどいことを言ってしまった。


「ごめん。僕は「こいびと」失格だね」


 とんだ考え違いだった。本当に、本当に、申し訳ない。


「ねえ、みーくん。「こいびと」って何だろう?って聞いたの覚えてる?」

「ああ。苦しい時にお互いが助け合うのが「こいびと」そんなだったよね」


 数年前の記憶を思い返す。確か、そんな風だった、はず。


「私は、みーくんの「こいびと」。だから、辛そうなみーくんを助けたかったの」

「そっか。古織ちゃんは、そんなに、僕の事を……」


 その言葉を聞いた時、僕の目から涙がぽろぽろと溢れているのに気がついた。

 単に「こいびと」として助けてくれた古織ちゃんの気持ちが嬉しかった。

 お互いに対等な関係で助けたいのだと。そう言ってくれたことが嬉しかった。


 それから、僕は、古織ちゃんと隣り合って、ブランコを漕いでいた。


「ねえ、みーくん。私と、「約束」して欲しいの」

「約束?何の?」

「みーくんがどうなっても。お金がなくても。私だけは一生みーくんと一緒にいる」


 その言葉にぎょっとして、横を見ると、恐ろしいほど真剣な目をした彼女が居た。

 一切の冗談はないとわかるような、そんな目つき。


「きっと、「こいびと」だけだと足りない。お金がなくなっても、みーくんがどうなっても、私だけは、一生側にいる。そんな約束をしたいの」

「ちょ、ちょっと待ってよ。古織ちゃん。それは、僕に一方的に有利な約束だよ!」


 そんな約束をしても、彼女には何のメリットもない。

 だいいち、彼女がそこまで言う必要なんて……。


「だって。今回みたいな事があった時に、みーくんが頼ってくれないのは嫌だもん!何があっても、私だけは頼って欲しいの!それが、私の覚悟なの!」

「こ、古織ちゃんはどうして、そこまで……」

「だって、私はみーくんが好きだから。ただ、それだけなの」

「好き、だから……」


 僕にとって、これまでの「こいびと」はどこか浮ついたものだった。

 でも、古織ちゃんはそうじゃなかったんだ。

 その事を考えると、なぜだか、急に胸の中が暖かいような、落ち着かないような。


「わ、わかった。古織ちゃんの約束を受け入れる。でも、それだと不公平だよ!」

「私が、そうしたいから言っているだけ。だからみーくんは気にしないでもいいの」

「僕が気にする。だから、僕も約束する」

「みーくんが、約束?何を?」

「古織ちゃんと同じ。僕も、もし、古織ちゃんに何があっても、一生側にいる。もし、古織ちゃんの家にお金が無くなったとしても」


 僕のなけなしのプライドだった。

 でも、女の子に一方的に約束させてしまうのは嫌だったんだ。

 だから、それは、僕のガキとしての意地でもあった。

 古織ちゃんに負けたくないという、ただ、それだけの。


「それじゃあ、お互いに約束をしよ?」

「うん。約束」


 こうして、僕たちは、大きな約束を交わしたのだった。


 それからの僕は、次第に心の落ち着きを取り戻していった。

 何があっても、古織ちゃんが、一生側に居てくれる。だから、怖くない。

 そして、「僕も、一生側に居られるようになろう」と思えるようになった。


 だから、これは、僕たち二人だけの、未来に続く、とても大切な約束になった。


※断章はこれにて終了です。

これにて二人の過去話は終了です。

以降の過去話も、以降差し挟むかもですが。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今だけじゃなくて、ある意味未来を、共にいる未来を考えるようになった。 その時から思い続けていれば、まあ年若くて結婚しても、むべなるかな、ですね。
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