第44話 嫁がネット小説に詳しいワケ
「道久君と古織ちゃんを登場人物のモデルにさせて欲しいんです!」
「「ええーーーー?!」」
俺と古織の声が綺麗にハモった。
思っても見ない申し出に俺たちはびっくり仰天。
って、そろそろ授業が始まるな。
「橘、もう授業だから。詳しい話はまた次の休み時間に」
「は、はい。急にすいません」
ということで、1時間目の授業が終わった休み時間のこと。
「モデルってあれだよな。橘が書くネット小説に、俺たちが出てくる、と」
念のため、確認をする。
「は、はい。女性向けラブコメを書いてるんですが、新連載は「新婚さん」を題材にしようと思っていまして。でも、周りに結婚した友達なんて居ないですし、お父さんやお母さんだと何か色々違いますし……」
「念のため聞いておくけど、出てくる新婚さんは、高校生?」
「はい。社会人になってからだと、普通過ぎる気がしますし」
「……」
「……」
ネット小説はたまに読むことがあるし、ラブコメを読むこともある。
確かに、「結婚」を題材にしたのがランキング上位に居るのを見たこともある。
題材としてはわからなくもない。
「なあ、俺たちをモデルにするって、どういう感じのお話なんだ?」
話を引き受けるかはともかく、少し興味が湧いた。
「結婚を題材にした作品って結構ありふれてるんですよね。だから、結構悩んだんですが……」
「確かに、時々見るよな」
お金を節約しつつの娯楽としては、ネット小説は悪くない。
だから、そういうジャンルがあるのもわかっている。
「みーくん、ラブコメ好きだよね」
古織の奴もちょくちょくネット小説を読んでいるのを見る。
でも、ジャンルはどっちかというと硬派なファンタジーやSFが多い。
「ああ。やっぱ、経験したことの無い恋模様とか楽しいし」
「まさかと思うけど、幼馴染がざまぁされる系とか読んでない、よね?」
「流石にそんな趣味悪いの、読むわけないだろ。てか、なんでそんなところ詳しいんだよ」
「だって、私がいつかざまぁされちゃうかと心配で……」
言いつつ、古織の目から涙がこぼれ落ちる。
演技とわかっていてもやっぱりきつい。
「だから、そんなの読まねえって。心臓に悪いからやめろ」
「そうだと思ってた♪」
「なら、やるなよ……」
この一連の流れまでわかっててやってるのだから真に性質が悪い。
正直、ああいうのはあまり好みじゃない。
「また、漫才が始まったわね。私も、ああいうの、拗らせてるなあって思うけど」
「好みは人それぞれじゃないかな?」
そんないつものようなやり取りをしていたところ。
「いいですね!漫才要素!新婚夫婦の漫才もの!楽しそうです!」
何やら思いついたらしく、興奮気味に言い出す橘。
「お、おう……」
「す、すいません。つい、アイデアが閃いてしまって」
しゅんとなって反省する橘。テンションの上下が実に激しい人だ。
「で、どうする?古織。俺は、名前とか関係とかがマンマじゃければいいけど」
それに、俺たちをモデルにした作品がどうなるのかという興味もある。
「私は、その、あんまり、生々しい話は避けてもらえれば、いいよ」
何故だかぎこちない返事の古織。
「生々しいこと……」
そして、何を想像したのやら、橘は赤くなっている。
まあ、たぶん当たってるんだけど。
「とにかく、その辺だけ避けてくれれば、OKってことで」
「はい!ありがとうございます!では、公開したらお知らせしますね」
創作意欲に燃える橘はこうして、俺たちをモデルにした小説を書くことになったのだった。
◇◇◇◇
放課後、二人での帰り道。
古織は、予想外に楽しそうな表情をしている。
「古織は平気そうだな。俺は、結構恥ずかしいんだが……」
だって、他人の小説に、自分がモデルとなって出るんだぞ?
橘にどういう風に見られているのかとかも反映されるわけで。
色々恥ずかしいったらありゃしない。
「べ、別に、気にしなければ、いいんじゃない、かな」
返した声は何故か上ずっていた。
「なんか怪しい。大体、なんで、幼馴染ざまぁとかまで知ってるんだよ?」
それが疑問だった。
普段、ラブコメはあんまり興味がないと言っているこいつが、なんで知ってるのかと。
俺だって、趣味悪いなあとぱっとランキング見て流した程度だぞ?
「カキヨムのランキング、見てたら、出てきただけ、だって」
怪しい。
「隠してることあるだろ。怒らないから、何してるか言ってみ?」
古織は、間違いなく何かを隠している。それもネット小説絡みで。
「……えっとね。カキヨムリワードっていうの、聞いたことある?」
「初耳だけど……へえ。閲覧数に応じて、お金がもらえるんだな」
素早く検索して出てきた結果を読み上げる。
しかし……お金、か。
「まさかと思うけど、お前……」
しかし、流れ的にそれ以外考えられない。
「うん。少しでもお金入るなら、と思って……つい最近、始めてみたの」
そう言った古織の声は大層恥ずかしそうで、今にも消え入りそうだった。
嗚呼、お義父さん、お義母さん。
なんと、古織がお金のために、小説を書き始めたらしいです。
というわけで、節約と小説の話がつながったのでした。
読書少女が描く作品は、古織がお金のために始めた小説執筆の実体は如何に?
という感じの話が、数話続きます。
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