第39話 錦市場と友人へのお土産
錦市場を訪問して、色々お土産を買う二人です。
金閣寺から自転車をさらに漕ぐこと約50分。
俺たちは、無事、目的地である錦市場に到着。
しかし、ここに来て重大な問題がある事に気づいてしまった。それは-
「さすがに、結構疲れたな……」
「結構たくさん自転車漕いだからね。仕方ないよ」
応じる古織も少し元気がなさげだ。
考えてみれば、ホテルを出てから自転車移動で2時間以上使っている。
それに、初夏の日差しと来れば多少バテても仕方ないだろう。
「喫茶店で休憩しようぜ」
「うん。甘いもの食べたい!」
既にさんざん食べたじゃないか、とは今更言うまい。
というわけで、市場入り口にある、何の変哲もない喫茶店に入って休憩タイム。
「生き返るなー」
「うん。おいひい」
「食べてから話せよ」
普段、食事の作法がきちんとしている古織も、限界だったらしい。
パフェをぱくぱくと食べて糖分を補給している。
そして、しばらくして体力が回復した頃。
「よし、行くか」
「うん!」
本命の錦市場を巡るべく、さっさと喫茶店を後にする俺たち。
風情のかけらもないけど、こればかりは仕方ない。
「なんつーか、カラフルっていうか、賑やかっていうか」
「錦市場は京の台所っていうんだって」
「確かに、野菜とか漬物とか鮮魚とか色々あるよな」
俺たちの地元にはこんなに活気のある商店街はない。
だから、人でごった返している錦市場の活気は少し新鮮だ。
「で、お土産だけど、どうする?雪華と幸太郎の分は確定だろ」
「お父さんやお母さんの分も欲しいよね」
「あとは、俺たちの分も欲しいな」
そして、京都らしいお土産だ。どうしたものか。
「あ、京野菜のお漬物!お父さんたちにはこれでどう?」
「確かに、食卓で使いやすいそうだよな。日持ちもするだろうし」
というわけで、お義父さんたちにはお漬物で決定。
少し渋い気がするけど、お義父さんはこういうのも好きだし丁度いいだろう。
「この、花錦っていう詰め合わせ、いただきたいんですが……」
初老の元気そうなお爺さんに聞いてみる。
「はい、毎度あり。修学旅行で来られたんですか?」
「「え?」」
言われた事がわからず、一瞬ハもってしまう。
「まだお若いようですし、この錦市場は修学旅行で来られる方も多いですから」
「あ、そういうことですか。実は、新婚旅行でして……」
別にこれっきりの相手だ。別にあえて言う必要はないのだけど。
「ほう。お若いのに、結婚ですか。じゃあ、今が一番楽しい時期でしょう?」
やけにフランクに話しかけてくるお爺さん。
「え、ええ。まあ。だよな、古織」
「う、うん。幸せだよ、みーくん」
一番楽しい時期でしょう?と問われると少し困る。
もちろん、楽しいんだけど、初見の人に言われると、どう答えたものだか。
「じゃあ、新婚さんの門出を祝って、少々値引きしますよ」
「い、いいんですか?」
もちろん、願ったりかなったりなのだけど。
「孫も同じくらいの歳なんですよ。あいつと来たら、未だに女っ気のかけらもなくて……」
なんだか、身の上話を語りだしたぞ。
仕方なく、そのまま耳を傾ける事10分。
「では、また京都にお越しの際はご贔屓にー」
と笑顔で見送られて、お漬物の店を後にしたのだった。
「まさか、旅行先で身の上話を聞くとは……」
「でも、気のいいお爺さんだったよ。それに、「美人の奥さん」って」
途中、「美人の奥さん」と漏らしたお爺さん。
その言葉に古織はすっかり機嫌をよくしたらしい。
「でも、長話はちょっと勘弁だったな」
とぼやいていると、えい、と肩に少し重い感触。
見ると、古織が肩を寄せて来ていた。
「ど、どうしたんだよ、突然」
「美人の奥さんにこうされて、どう?みーくん」
とても幸せそうな顔をしてからに。
「そりゃ、嬉しいぞ。もちろん」
「私、美人?」
「そりゃ……美人だし、可愛いよ」
あのお爺さんに感謝していいやら恨んでいいやら。
すっかり古織は上機嫌だ。
「次は、雪華と幸太郎の分だな。定番だと京都ぽいお菓子か?」
「この、「麩まんじゅう」良くない?」
古織が指す先には、"当店人気 NO.1 麩まんじゅう" という文字が踊っていた。
なんでも、青のりを練り込んだ生麩というものの中に、こしあんが入っているらしい。
軽くぐぐってみると、錦市場の定番でもあるらしい。
「じゃあ、これにするか。二人分だから、6個入り2つでいいよな」
「あ、私も食べたいから、3つにしよう?」
「おっけー」
というわけで、店頭で軽く試食してから、麩まんじゅう3箱を購入。
「ちょっと面白い味がするね」
「だな。海苔の香りがあんこに合うのが不思議だ」
ちょっとした物珍しさもあるし、あいつらへのお土産にはちょうどいいだろう。
「あとは、俺たち用のだな。っつっても、結構買ってるけど」
金閣寺に来る途中で、お豆腐。さらに、先程は麩まんじゅう。
「せっかくだから、形に残るものがいいなー」
「気持ちはわかるけど、ここら辺食べ物ばっかりだぞ」
「じゃあ、別の所探そっか」
「そうするか……って、あ!」
相談しながら歩いていると、目を惹く代物が。
「本物の京飴が入ってるキーホルダーだってさ。面白くないか?」
「可愛いよね!これにしよう?」
というわけで、京飴が入ったキーホルダーを2つ購入。
その後も、お惣菜や色々なお菓子を見て回って、錦市場を後にすることに。
「あ、もう16:00!」
「時間が経つの早いなあ。そろそろ、京都駅行かないと間に合わないか」
楽しい時間はまたたく間に過ぎる。
本当にそれを実感する。
「うん。いっぱい楽しんじゃったよね」
そう言う古織は嬉しそうで、でも、少し寂しそうだった。
きっと、時間が過ぎるのを名残惜しく思っているんだろう。
表情一つでこんな事がわかってしまうのは、幼い頃からの付き合い故か。
「ま、京都駅まで思いっきりイチャつこうぜ?」
「もう、みーくんったら。普段、イチャつこうなんて言わないのに」
「たまにはいいだろ?」
「うん……」
少し頬を染めて頷く古織。
ほんとに、たった二日間だったけど、俺たちも色々変わったものだと思う。
少し、照れくさい気持ちになりながら、夕方の京都を自転車で走り抜けたのだった。
次で、いよいよ京都旅行編も終了です。
その次からは、日常に戻って新章開始の予定です。




