第26話 新幹線の中で
これから数話にわたって、新婚旅行編です。
「ご案内いたします。この電車は、のぞみ号、博多行きです。途中の停車駅は……」
まだ早朝といっていい、朝の6:00。新幹線の車内アナウンスが流れる。
「ふわぁ……」
アナウンスを聞きながら、あくびを一つ。
「まだなんか頭がぼーっとしてる。古織は平気そうだな」
隣の席に座った古織を見ると、わくわくといった感じで、眠気のかけらも感じられない。
「お弁当の仕込みのために、いっつも早起きしてるもん」
「あー、そういえば、そうだったか。苦労かけてたんだな」
「好きでやってるからいいよー。みーくんは眠いなら、少し寝たら?」
「つっても、せっかくの新婚旅行だろ?じきにモンエナが効いてくるって」
朝の6:00発の新幹線に乗るために、俺達は5:00起き。眠くて仕方ないので、ごくたまに使う、モンスターエナジーというエナジードリンクを飲んだ。じきに頭も回転してくるだろう。
「もう。ああいうの、身体によくないんだよ?」
口をとがらせて、心配そうに言われる。
「わかってるって。今日だからだよ。眠くて、新幹線を楽しめないとかもったいないだろ?せっかくの新婚旅行なのにさ」
「もうちょっと早く寝れば良かったのに……」
「つってもなあ。昨夜はなかなか寝られなかったし。古織は寝付きいいよなあ」
「みーくんは、普段夜更しし過ぎだよー。布団の中でもいっつもスマホいじってるんだもん。ああいうの続けてると、睡眠に良くないんだよ?」
「わかった、わかった。これからはもう少し気を遣うから。とりあえず、旅行の話しようぜ」
「京都駅着が8:08だよね。たぶん、お店はまだ開いてないところ多いよね」
「喫茶店とか、朝開いてるのがたぶんあるだろ」
「うーん……京都駅の南側に、朝6:00からやってる喫茶店があるみたい」
「じゃあ、着いたらとりあえずそこ行こうぜ」
二人で着いた後のことを話している内に、だんだん頭が覚醒してくるのを感じる。
「あ。ようやくモンエナが効いて来たっぽいな。眠気がすーっと引いてくる感じ」
「なんだか、それ聞くと変な薬飲んでるみたいだよ」
「カフェインって薬としても処方されるみたいだから、似たようなもんじゃないか?」
「前にニュースで、エナジードリンク飲み過ぎで死んだ人とか聞いたことあるよ。みーくんはそんなことにならないでね?」
「ならないって。だいたい、普段、そんな飲んでないだろ?お値段だってそれなりにするし」
「この缶で200円もするから、お高いよねー」
気がついたら、会話が貧乏くさいことになっている。いかん、いかん。
「で、まず喫茶店で話し合うのはいいとして、その後はどうする?」
一泊二日の新婚旅行だ。回れる場所は限られているのだ。とはいえ、計画をぎゅうぎゅうに詰め込んでも窮屈だということで、宿泊先といくつか回るところを決めただけで、他は当日に決めようとなった。
「うーん……清水寺とか、定番みたいだけど。前に修学旅行で行ったよね」
「ああ、あった、あった。結構退屈だったし、改めて行かなくていいんじゃないか?あ、そうだ。伏見稲荷は行ったことなかったよな。どうだ?」
「アニメとか映画とかドラマでよく出てくるよね!鳥居がずーっと続いてるの!行こう、行こう!」
「えーと、伏見稲荷は……京都駅から、JR奈良線っていうので、5分くらいらしいな。あ、でも、かなり混むっぽい」
「じゃあ、喫茶店には行かずに、伏見稲荷に直行しない?」
「よし、じゃあ、そうするか。朝早くなら結構空いてるらしいぞ。それと……」
「?」
「ここって、家内安全のご利益もあるんだってさ」
「私達にぴったりだね」
というわけで、最初の目的地は伏見稲荷に決定。
「あ!」
「?」
「せっかく京都に来たんだし、抹茶パフェとか食べたいなー」
「あー、なんかよく聞くよな。抹茶パフェ……と。宇治ってところが有名なんだと」
「宇治茶とか聞くよね」
「宇治はまた、ちょい離れてるな。伏見稲荷から20分くらいっぽい」
「どうしよっか……。あ、これこれ、こことかどう?」
何やらスマホの画面を見せてくる。
「へー。京都駅近くにもあるんだな。なら、そっちの方が良いかもな」
「じゃあ、ここ行こ?あ、でも、お昼どうしよ?祇園で食べようって言ってたよね」
「あー、それもそうだよな。じゃあ、伏見稲荷に行った後、祇園でお昼。その後、ここで抹茶パフェってのはどうだ?祇園も結構色々あるみたいだしさ」
「舞妓さんとか芸者さんとか聞くよね。あ、人力車もあるんだって!」
人力車、というところにどうやら目を惹かれたらしい。人力車か……二人でゆったりと座りながら……いいかもしれない。
「よし。じゃあ、人力車乗ろうぜ!面白そうだしな」
「うんうん。なんか、新婚旅行って感じがするよー」
というわけで、新幹線の中で話し合いながら、当日回る場所を決めていく。
「しかし、なんか行き当たりばったりだよな、俺たち」
「最初から計画きっちり詰めてとか面白くないって言ったのはみーくんでしょ?」
「悪い意味じゃないって。何があるかわからない方がわくわくしていいよなって思っただけ」
「ふふ。そうかも。でも、今回は新婚旅行っていうの忘れないでね?」
ときっちり釘をさしてくる。
「あ、ああ。忘れてないって」
言いつつ、内心冷や汗をかいていた。なんか、完全に普通のデートといったノリだったけど、考えてみれば新婚旅行なんだよな。
(新婚旅行らしいスポットを探しとこう)
そうひっそりと心に誓ったのだった。
というわけで、新幹線の中での一幕でした。
これからどういうスポットを回るかはお楽しみに。




