表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/74

第20話 お金で壊れた僕の家

主人公の過去話です。

 僕が生まれた家庭は決して大金持ちではなかった。それでも、不幸ではなかった。

 フリーランスでデザイナーをしていた父さんと、側で支える母さん。

 お小遣いは月に500円はもらえたから好きな漫画を買うことだって出来た。

 

 古織ちゃんと二人きりで()()()をするのも楽しかった。

 友達が群れて遊んでいる中で、二人っきりで遊ぶのは、どこか誇らしかった。

 当時の僕はデートが何を意味するのかもよくわかっていなかったけど。


「ねえ。今日は何して遊ぶ?」


 僕は古織ちゃんに聞く。


「今日はキャッチボールしよ?」


 古織ちゃんは女の子なのに、結構運動が好きな方だ。


「うん!じゃあ、グローブとボール取りに行こ!」


 二人で秘密のデートをする日々。

 もちろん、時には、皆で集まってゲームをしたりと、()()()()()もした。

 僕らにとっては、二人きりが本来の普通だったけど。


 ただ楽しい毎日はある日、唐突に失われた。


「ねえ、あなた!これ、どういうことなの。お仕事は順調だって。そう言ってたじゃないの……!」


 ある日家に帰った僕は、母さんが凄い勢いで父さんに詰め寄る様子を目撃してしまった。

 よくわからない紙切れをバンと父さんに突きつけている。


「……えーと、それは」


 困ったような表情になる父さん。


「700万円の借金って、昨日、今日こさえた額じゃないわよね!一体、いつからだったの……?」


 怒ったような、泣きそうな表情でいう母さん。

 借金。その意味は、まだ小学校5年生だった僕にもよくわかった。

 でも、父さんはそんな様子、おくびにも出さなかったのに。


「すまない。数年以上前から、仕事が自転車操業だったんだ。借金を返すためにさらに借金をしていたら、いつの間にかそんなことになってた。本当にすまない」


 自転車操業、という言葉の意味はわからなかった。

 でも、苦しそうな顔からは、仕事が順調じゃないことはすぐわかった。


「せめて、借金をする前に相談してくれたって良かったじゃない!?」


 母さんが父さんの襟首を掴んで詰め寄っている。


「ちょっと母さん、父さんに乱暴するのは止めて!」


 父さんを見ていられなくて、僕は止めに入った。でも。


「道久は黙ってなさい!今は夫婦の話をしているの!」


 そう言って、跳ね除けられてしまった。


「生活が苦しいって知ってれば、私だってもっと節制したのに。お金のこと聞いても、いつも「大丈夫、大丈夫。僕のクライアントは金払いがいいから」なんて偉そうに言ってたじゃない!」


 ひたすら父さんを責める母さん。


「本当に悪かった。僕の見栄だったんだよ。君や道久に我慢させたくなかったから」


 ひたすら謝る父さん。そんな父さんに怒る気をなくしたのだろうか。


「……もういいわよ。過ぎたことを責めても仕方ないし。とりあえず、これから借金を返していく方法を一緒に考えましょう?」


 矛を収める母さん。


「ああ。ありがとう。ほんとにごめん」


 また謝る父さん。

 借金のことは心配だったけど、これで、元通りになる。

 そう思ったのだけど-


 翌朝、


「隠していてすまない」

 

 それだけのメッセージを残して、父さんは家から居なくなっていた。


 こうして、僕は、唐突に父さんを失った。


 残された母さんは、慣れない仕事をして必死だった。

 毎日、朝から晩まで仕事をして、夜になったら疲れた顔をして帰ってくるのが常。

 お小遣いなんてあるわけもない。

 食事も、渡されたお金でカップ麺やパンを焼いて食べるだけの毎日。

 

 でも、そんな生活は半年も続かなかった。

 ある日の夜、疲れて帰ってきた母さんは、翌朝、唐突に居なくなっていた。


「ごめんなさい」


 ただそれだけの手紙を残して。


 半年の間、母さんは毎日のようにお酒を飲んでは、何やらよくわからない事を口走っていた。

 お局さんが私を馬鹿にする、だの。仕事が出来ないって苛められる、だの。

 だから、仕事が辛いのだろうなということは子ども心によくわかった。

 僕が酔いつぶれた母さんを心配する度に、こう言われたのだった。

 「駄目な母親でごめんなさいね、道久。もっとお金があれば……」

 僕は、よくわからない謝罪に困惑するばかりだった。


 こうして、父さんも母さんもお金が原因で蒸発して、僕は天涯孤独の身になった。

 後で知ったのだけど、父さんも母さんも、親戚筋にお金をせびっていたらしい。

 親戚で僕を引き取ろうとする人は誰も居なかった。


 ただ、よくわからない経緯で、古織ちゃんの家が僕を引き取ってくれることになった。

 古織ちゃんの家に引き取られた事で僕の境遇は一変した。


 美味しいご飯に、十分なお小遣い。厳しいけど優しい、古織ちゃんの両親。

 でも、古織ちゃんのお父さんもお母さんも、いつもどこか気遣わしげだった。

 「こいびと」の古織ちゃんも、僕にいつも何か言いたげだったのが嫌だった。

 まるで、可哀想な子だと、そう憐れまれているようで。

 

 そんな一連の出来事は、僕の心に深い傷を残した。

 お金がないだけで、どんな幸せも無くなってしまうのだと。

 逆に、お金さえあれば幸せは買えるんだと。


 こうして、僕は、グレてしまったのだった。


 古織ちゃんが心を痛めていたとも知らずに。

金銭問題で家庭はぶっ壊れるよね、というただそれだけのお話です。

過去話の続きは、また別の挿話として入れる予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最初っからバカップルだったのね [気になる点] これはグレる よく更正したな 愛の力だね [一言] 時系列でココからだったらラブコメにならんな
[一言] この話で「面白かったら」はちょっと… 借金自体が必ずしも無条件に悪いとは言い切れないわけで、そこらへんはバランス、なんでしょうねえ。フリーランスだとその額は色々と辛いかな。 ただ、資金ショ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ