第19話 久しぶりの実家
久しぶりの実家と母娘の話とかです。
かちゃん、かちゃん。フォークとナイフが鳴り響く音だけが聞こえる。
倉敷家の食事はだいたいこんな感じで静かに進むことが多い。
お義父さんである浩彦さんは元来寡黙。
お義母さんである花恵さんは賑やかなのだけど、夫を立ててか食卓では静かだ。
「それで、古織、道久君。新婚生活はどうだい?うまくやってるかい?」
向かいのお義父さんの口が開いたかと思うと、そんな質問が飛んできた。
「最初の月は結構ギリギリでしたけどね。今はうまくやってますよ。な?」
「うんうん。節約もやってみると意外と楽しいし」
隣の席の古織と頷き合う。
「それならよかったわぁ。あれだけの仕送りで大丈夫か心配だったもの」
ほっとしたように言うお義母さん。
「俺もそこは反省していてね。仕送りを増やそうかと考えてたんだけど、どうする?」
問うような視線で見つめてくるお義父さん。
「だって。どうする、みーくん?」
小声で聞いてくる古織。
「うーん。増やしてくれるなら、それに越したことはないんだけどな……」
「でも、お父さんたちに甘えちゃったみたいな気がするよねー」
「今のままでもやりくりの目処は立っているわけだしな。それに……」
結婚を承諾してもらった時のお義父さんの言葉が蘇る。
「「大人にいつでも頼れると思ってちゃ駄目だ」みたいなのあっただろ」
「私たちも、もう、ちゃんと家庭を持ってるんだもんね」
「まあ、もうちょっとやってみて、駄目そうだったら頼ってみよう」
「うん」
結論は決まった。やっぱり、安易に頼るのはやめよう。
「お義父さんの申し出はありがたいんですが……やりくりが無理そうならということで」
「そうかい?それならいいんだけど。無理はしていない?」
「ええ。大丈夫です」
そうきっぱりと答える。
「あ、古織。後で、ちょっとお話があるの。部屋に来てくれる?」
「う、うん」
そして、何やら話があるらしい花恵さん。なんだろう?
◇◇◇◇
食後、別室にて。工藤古織は、母親である花恵に呼び出されていた。
「それで、話って何?お母さん」
母がこうして古織だけを呼び出して話をするのは珍しい。
だから、少し訝しげにそう尋ねる。
「仕送りのことだけどね。いざとなったらお米でも何でも送ってあげるから。必要なら現金でも……」
思わぬ母からの申し出。
古織はそれに目を見開いたかと思うと、
「う、うん。ありがと。でも、なんで、私にだけ?みーくんに話してあげても……」
古織にとってはそれが疑問だった。
今や家庭を持つ身。家計に関わることなら、道久にも伝えられてもいいはず。
「道久君は、お金の事で頼りすぎるの嫌がるでしょ?特に、ご両親のことがあるから……」
母の言葉に、そういうことかと納得する。
借金というお金の問題で両親を失った彼は、そういう所に敏感なところはある。
「うん。確かに、みーくんは無理しちゃいそうなところがあるよ」
彼が引き取られてからのお小遣いをあまり使わず貯金しているのを古織は知っている。
本当にどうにもならなかったら、貯金した分でも使うだろう。
「そういうこと。直接言うとあの子は首を縦に振らないでしょう?古織、あなたが気をつけてあげてね」
優しい声で娘に言い聞かせる花恵。
道久の境遇を知る故の気遣いだった。
「うん。ちゃんと、みーくんの事支えてみせるよ。お嫁さんとしても、それ以外でも」
それは、彼女の誓い。
結婚の約束のずっと前に、彼と約束した大切なこと。
「ほんと、古織も道久君も良い子に育ったわね」
どこか暖かい眼差しで古織を見る花恵。
「そういうこと言われるの照れくさいんだけど……」
少し照れくさそうにそっぽを向く古織。
「古織も親になったらわかるわよ。それとも、高校生の内に作っちゃう?」
ニヤリと娘をからかうような一言。
「こ、こどもって……。まだ、そんなの考えられないよ!」
赤くなる古織。
そんな暖かい家庭の一幕。
◇◇◇◇
食後の、古織の部屋。結婚する前はいっつも一緒に過ごした部屋。
そんな部屋で、俺たちは寛いでいた。
「お義母さんと話って何だったんだ?」
花恵さんが娘だけを呼び出して話をすることなんて、あんまりない。
「みーくんをよろしくって頼まれたの。それだけ」
なぜだか俺をじーっと笑顔で見ながら言われる。
なんか、やけに嬉しそう……いや、優しい感じ?
「な、なんかそう言われると色々むずむずとするな」
俺を引き取って育ててくれた倉敷家には本当に感謝している。
本当の息子のように思っているのだろうか……。
「わかるわかる。お母さんには、親になったらわかるなんて言われちゃったけど」
「親か……。今は想像もつかないけど、いずれ俺たちが親になる日も来るんだよな」
そう。結婚するということは、当然、子どもも念頭においてのこと。
「今は流石に無理だけど、大学を卒業してから……?」
「まあ、かなり先だな。でも、子育てにはお金かかるっていうよな」
結婚してからふと調べたことがある。
乳幼児の時は、赤ん坊用の衣服やミルク、保育園に通わせるための費用。
それに、各種医療費など。お金はあってもありすぎることはないらしい。
「うん。そのためにも、今からしっかり節約しておかなきゃね?」
「ああ、そうだな。って、なんか眠くなってきたな……」
久しぶりの実家なせいだろうか。まだ10時なのに眠気が襲って来た。
「ふふっ。じゃあ、膝枕してあげるよ。こっち来て?」
何故か嬉しそうな古織。
「いや、膝枕とかそんな歳でもないだろ。はずいって」
「えー?恋人同士の膝枕だって。定番でしょ?」
「俺にとっては、親にしてもらうイメージが強いんだよ」
幼少期に、ふと、膝枕で、生みの母に耳かきをしてもらったのを思い出す。
「とにかく!私が膝枕してあげたいの!」
「わ、わかった。わかった」
眠気がどんどん強くなってくる。もう膝枕でも何でもいいや。
「すまんが、しばらく寝るな」
「うん。おやすみ、みーくん」
そうして、随分久しぶりに誰かの膝枕で寝たのだった。
ちなみに、なぜか、この日は何故か夢見がやけに良かった。
膝枕いいですよね、膝枕。
というわけで、第3章はこれで終わりです。第4章は、改めて、
「普通の(?)高校3年生としての彼ら」に焦点を当てて話を展開する予定です。
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