第13話 家計簿をつけよう
5月1日。仕送りが送られて来る日を機会に家計簿をつけ始める二人です。
「ああ。仕送りが来てる……!」
「ほんとだ。こんな時間に銀行開いてるのか?」
歓声をあげる古織と冷静な俺。
5月1日金曜日の登校前の朝。
インターネットバンキングを開くと、お義父さんからの仕送り8万円が入金されていた。
時刻は6:00。まだ早朝といっていい時間だ。
「調べてみたけど、最近は24時間振り込みOKの所があるみたい」
聞かずとも、サクッと調べる素早さは古織の凄いところだ。
「へー、そういうもんなんだな」
どうでもいい豆知識を得た俺たち。
「5000円ずつ、振り込んで……と」
インターネットバンキングで素早く振り込み操作を行う。
夫婦共用の口座に加えて、俺と古織それぞれの銀行口座を作ってある。
生活必需品は、共用口座からまとまった額を引き出して運用している。
「まず、家計簿を作らないとな」
「家計簿、どうするの?家計簿アプリとかExcelで管理するとか色々あるみたいだけど」
「家計簿アプリは無料版だと最低限の機能で、共有するのに課金が要るの多いみたいだし、Excelとかの表計算ソフトを使うのが安くあげるのに良さそうだ」
「みーくん、そういうところ強いよね」
何気ない様子で古織がそんなことを言う。
「そういうところ?」
「んー。情報収集能力っていえばいいのかな」
「今どき、これくらい普通にできると思うけどな。パソコンでググるだけだろ」
現代人にとっての必須サービス、Google。
転じて、検索することをググると言ったりもする。
「全然当然じゃないよぉ。みーくんはパソコンネイティブだからなのかな」
「パソコンネイティブ?デジタルネイティブのことじゃなくて?」
聞いたことがない言葉だ。ググっても出てこない。
「皆、何でもほとんどスマホでやるよね。だから、スマホネイティブ。でも、みーくんは昔からパソコンで作業するのに慣れてるでしょ?だから、パソコンネイティブ。今作った言葉だけどね」
なるほど。言いたいことはわかるけど。
「それで、何か違いが出るか?スマホでもググるのは簡単だろ」
「みーくんみたいにChromeでタブ開いて検索とか、スマホだと無理でしょ?」
Chromeは、Google社が開発しているWebブラウザで、スマホやパソコンなどで皆使っている。
IPhoneはSafariというブラウザが入っているがそれはさておき。
「周りが調べ物妙に遅いなって思うことがあったな……」
「たぶん、その差だよ。みーくんはタッチタイピングも早いし」
「親父……こう言うのも癪だけど、あいつのパソコン触ってたら無意識にって感じだしな」
未だに、俺の生みの父と母への感情は愛憎半ばするものがある。
決して家庭環境が荒れていたわけではない。
それどころか、親父はパソコンに興味を示した俺に一から手ほどきをしてくれたくらいだ。
それはお袋も同じ。
親父やお袋が借金を精算して戻ってきた時には許せるくらいには、優しくしてもらった思い出がある。
「みーくん。お義父さんのこと、あいつなんて言っちゃ駄目だよぅ」
「悪い。親父の事はまだ整理しきれてないんだ……。戻ってくれば、一発殴ってやるのに」
「みーくん……」
気がついたら、古織がぎゅっと両手で俺の右手を握っていた。
この手の温もりに何度も助けられたことを思い出して、冷静になる。
「心配かけて悪い。家計簿の話に戻ろうぜ」
「う、うん。それじゃあ、Excelで家計簿つける?」
「Excelは共有するのに不便だろ?Googleスプレッドシートで作っといた」
ポチポチとGooleアカウントを操作して、作っておいた家計簿を開く。
「みーくん。いつの間に……」
側で驚きの声をあげる古織。タイトルには、『工藤家の家計簿』とある。
「こんなこともあろうかとってやつだ。ネットで配ってたテンプレを元に作ったんだけどな」
「食費、外食費、日用品、交通費、……、その日の分を夜に入力していけばいい?」
「ああ。翌朝でもいいぞ。あ、ちなみに、俺がつけてもいいぞ」
「ううん。今度は私がきっちりやるから」
古織の意思は固い。それに、やると決めた事は途中で投げ出さないのが古織だ。
「あ、でも、服飾費、交際費って、私達の場合どうなるのかな」
「そこはテンプレのまんまだった。どうしたもんかな……」
少し考えて言う。
「そこら辺はお小遣いから出すって話だったし、空欄で」
「右の方にある水道、ガス、スマホ辺りは振り込み用紙で支払った日に追記すればいい?」
「そうだな。でも、この辺は口座自動引き落としにした方が楽かもしれない」
そうだ。言い忘れてた。
「続けるコツだけど、無理に1円単位で入力しようとしないこと」
「え?それだと、辻褄が合わなくなっちゃわない?」
「俺達の場合、無駄な支出を確認するのが目的なわけだから、それでいいんだよ」
「どういうこと?」
「ダイエットのために記録するとして、1kcal単位で記入しても無駄だと思わないか?」
「そうだね。確かに、こだわり過ぎない方がいいのかも……」
ふんふんと頷く古織。
「じゃあ、今日から我が家の節約生活の始まりだね……!」
「打ち切りで、「俺達の節約生活はこれからだ……!(完)」にならないようにな」
「わかってるよぅ。みーくんは相変わらず言い方が意地悪なんだから」
そう言いながらも、こてんと俺に肩を寄せてくる。
「ど、どうしたんだよ。急に」
「みーくん成分を補給したくなっただけ」
「そうか。なら……」
俺も、同じように古織の方に肩を寄せる。
「こういう風に、節約について話し合うのもいいもんだな」
「うん。節約生活って憂鬱かと思ってたけど、楽しいかも……」
しばし、俺達はゆっくりとした時間を過ごしたのだった。
「あ!そういえば、朝ごはんの食材が無いよ……!」
「まあ、昨日までだったら買えないしな。残ってるご飯でしのごうぜ」
「やっぱり、節約生活も楽じゃないね」
あはは、と、古織の乾いた笑いが居間にこだましたのだった。
こんな感じで、節約に関する話と二人でいちゃいちゃする話を織り交ぜてお届けします。
二人の節約&新婚生活を見届けたい方は、ページ下部の【★★★★★】をタップして評価お願いします。
感想やブックマークいただけると、作者がむせび泣いて喜びます。




