江山静江 2話
部屋に戻ると響子は言った。
「しず、私達で火を消そう。」
「えっ。」
「しずが水を出せるなら、上の火事を消せるよ!」
「うーん、でも。階段で上に上がって水を出すにしても、煙とか有毒ガスとか出てて、マスクとか服とか必要じゃない?」
「あっ、そうか。」
うーん。
響子が考え込む。
静江も考え込む。
(そうだ、朝の響子だ。)
「ねぇ、響子。水の中で寝ていた時、壁の穴から空気のトンネル作っていたじゃない。
あれ使ったら、煙の中でも大丈夫かな。」
「あ、そうだね。うんうん、大丈夫。あれのイメージがあるからできるよ。」
そして二人は作戦を立て、最悪焦げても大丈夫な動きやすい服に着替えて非常階段を上ったのだ。
「では、失礼します。ふふ。」
響子は静江の後ろから抱きつき密着すると、自分と静江を包み込む様に周囲に空気の層をまとった。
外へと続くトンネルを伸ばし、新鮮な空気を取り入れ、二人の身体の周囲に風が吹く。
「ちょっと、こげ臭い。」
「それは仕方ないよ。でもこれで大丈夫。」
「では行きますか。」
「うん。」
二人はゆっくりと8階の廊下に進み出る。
黒煙が充満し、熱風が押し寄せる。
ブワァ
響子が空気のトンネルから大量の風を前方に送る。
熱と煙を寄せ付けない対策だ。
「よーし、いっくぞー。」
静江は気合を入れて、両手を前方に突き出す。
「いっけー!」
響子もノリノリで応援する。
静江の両手の平から溢れ出る水流は、響子の風に乗って8階の廊下や天井を消火していく。
手前のドアは805号室だ。
ドアに十分な水を掛けて冷やす。
静江は水流を止め、ドアのノブを掴む。
ドアを開けた時が危険だ。
映画とかドラマで有名なバックドラフト現象に注意しなければいけない。
部屋の中の空気が酸欠になっているところに、開けたドアから新鮮な空気が流れ込み一気に炎が燃え広がる。
「開けるよ、響子。」
「はい。」
右手でノブを廻し、少しドアを開ける。そして、一気に開けた。
響子はこれまでにない強風で室内に火を封じ込める。
間髪入れずに静江の水流を流し込む。
こうして8階の部屋は、首尾よく消火できた。
二人は7階に降り廊下に進む。
705号室は鍵がかかっていたが、ドアは冷たく大丈夫そうだ。
703号室は室内に入ると702号室側の壁が煙を噴いていたので、水流を当てる。
702号室は8階同様燃えていた。
これまでと同じように玄関から強風と水流を流し込む。
ズズズ
響子の耳に天井から嫌な音が届く。
「しず、逃げて!」
響子は玄関から部屋に入ろうとした静江を抱え、後ずさる。
「えっ」
前に行こうとした体のバランスが崩れ、静江は倒れこみそうになる。
フワッ
静江の身体が浮き上がり、そのまま部屋の外、廊下の外、完全に空中に浮かんでいる状態になった。
その時、轟音と共に702号室の天井が崩れ落ちる。
「よかったぁ。」
「ありがとう響子。助かったよ。」
「このまま、できる?」
「あっ、そうだね。近付くのは危険か。」
静江は両手を突き出し、水流を放出する。
響子が静江を抱え、マンション上空を飛び回り消火に当たる。
「最初から、この手があったかぁ。」
「そうだねぇ。」
「重くない?」
「うん、大丈夫。」
701号室も反対のベランダ側から消火を行い鎮火できたようだ。
しばらく上空にとどまり、鎮火を確かめると、響子は屋上に降り立った。
「お疲れ。響子。」
「しずもお疲れ様です。」
「ところで、なんで屋上?」
「うーん。飛んでるところ、下の人たちに見られたから、ちょっと騒がれているんだよね。」
「あちゃ、そっかー。」
「それにさ、まだまだ火事が残ってるよ。」
響子が指差す。
確かに街中に黒煙が立ち昇っている。
「行きますか。響子さん。」
「うん、行きましょう。しずちゃん。」
響子は静江を抱え、次の火災現場へと飛び立った。
――――――――――
一件目と二件目はどちらも2階建ての民家だった。
消火はできたが、水流によって屋根を破壊したり、家具などを道路に流してしまった。
3件目への移動の途中。
♪~♪~♪~
響子のスマホにメールが入る。
「あ、お母さんからだ。ちょっと良い?」
あるマンションの屋上に立ち寄る。
パパッとメールの返事を入力する響子。
「お母さんから大丈夫か聞かれたんだけど、しずもお母さんに連絡しとく?きっと心配してるよ?」
(そっか、私のスマホは水没したんだっけ。)
「うーん、いつもならパートの時間だけど・・・」
「ほら、呼び出し中。」
響子がスマホを手渡す。
「・・・あ、静江です。えーと、私のスマホが壊れたので、何かあれば響子ちゃんのスマホに電話ください。」
留守電だった。と言って響子にスマホを返そうとして、その手を止める。
「響子、ちょっとネットで調べても良い?」
「えっ、良いよ。」
「被害が少ない消火方法があるかなぁ。
少し力をセーブしないと全部壊してしまうかも。」
「でも、全部燃えちゃうよりは、良くない?」
「そうだねぇ。でもねぇ。私の水でいろいろ流れて行っちゃうのを見るとねぇ。」
検索結果を読み進める。
「これだ!」
スマホを響子に渡し、画面を見せる。
「えっ、何?噴霧放水?」
そう、今までは静江の手のひらからダバーと水を出し、響子の風に乗せて放水していた。
静江は響子に背を向け両手を前方に突き出す。
(イメージ、イメージ。シャワーの様に細かい水流がたくさん流れ出すイメージ。)
すると、響子の前方に直径1mほどの水壁が現れるとそこから数百本もの細い水流がほとばしる。
「うわぁ。すごい、すごい。」
「ふっふっふっ。スキル取得でレベルアップって感じ?
よし、次いってみよっか。」
「はーい。」
こうして、消火活動をがんばる二人であった。




