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精霊の時代  作者: ブルーベリージャム
始まりの時
7/16

江山静江 1話

ゆったりとした心地よさに包まれていた。

海の中を泳いでいる様だ。

10歳までは海辺の町で育った。

夏は毎日、海で泳いでいた。


――――――――――



「しず、しず、聞こえる?起きてよ。」

肩を揺すられて、意識が戻る。

「うーん、まだ寝る。」

「いやいや、ちょっと目を開けてみてよ。すごいよ。」

「なにがぁ?」

まだまだ寝たりない。

無理やりっといった体で、ゆっくりと(マブタ)を持ち上げる。

目の前に響子の顔があった。

「おはよ。」

「おはよ。ほらぁ、しっかり起きて、周りを見てよ。」

「もう、なんだよう。」

大きく伸びをしながら上体を起こす。

大きなあくびをしつつ、目を開いた。

「へっ?」

「ねっ。すごいでしょ。」


彼女の名前は江山静江(エヤマ シズエ)

隣にいるのは緒方響子(オガタ キョウコ)

二人とも19歳、大学進学時に同居を始め、今は2年生だ。


その二人の寝室。

そこは水に満たされていた。

「ここは海か?部屋か?」

「うーん、しずの部屋なんだけど、水に沈んじゃってるねぇ。」

(響子。普段からのんびりしていると思っていたが、なんでそんなに落ちついている。)

静江は響子を見る。

響子は静江の横に寝ているが、その体の様子が変だ。

いや、それが正常なのか。

そう、響子の周りには空気があった。

「響子!空気!」

あわてて自分の周りを見るが、こちらには空気がない。

「ない。なんで?

あれ?私、息してる。しゃべってる。なんで?」

「うーん。なんでだろう?

あっ、私はね。あそこから空気が流れてきてるみたいよ。」

そういって、壁を指差す。

そこにある外気取り入れ口から響子の身体に向けて空気のトンネルが出来ていた。

「なるほど、響子はそれで良いとして、私はなんだ?」

「うーん。お魚さんと一緒?ほら、しずは泳ぐの得意じゃない。」

「・・・寝る。」

布団をかぶり再度寝ようとするが、掛け布団は水を含んで動かなかった。

(うっ、全部水浸しか。)

「あーだめだめ。なんかね、火事みたいなのよ、ここ。」

「へっ?」

「あの穴から外の声が聞こえてくるんだけどね。

さっきから、消防車のサイレンはたくさん聞こえてくるし、

”消防はまだこないのか!”って、おじさんがどなっているみたい。」

「響子、起きて!逃げるよ。」

静江はベッドから立ち上がり、部屋のドアへと向かう。

「あっ、いきなり開けると、」

静江はドアを開ける。

どうやら居間には水は溜まっていなかったようだ。

開けられたドアの隙間から水が流れ出し、その流れに乗って静江の身体も居間に流される。

「・・・失敗。」

「やっぱり。」

居間やキッチンの床も水浸しになってしまった。

居間の床にひっくりかえっている静江。

部屋の中からもいろいろな物が流出している。

部屋から響子が出てきた。

「あれ?響子は流されなかったの?」

「うん。なんかね、私、飛べるみたいよ。」

「へっ?」

響子が足元を指差す。

見ると5cm程、浮いている。

「しずがお魚さんで、私は鳥さん。かな?」

「え~~。」

静江は不満気な声を漏らす。

が、直ぐに思い出す。

「そうだ、逃げなきゃ。

響子、貴重品もって。私は、」

(あっ、水浸しだ。)

昨夜の寝室は静江の部屋だった。

部屋に戻ってみる。

やはり水浸しになっている。

スマホも、これではダメだろう。

財布が入っているバッグを手に持ってみると、大量の水が中身と共に流れ落ちた。

「しず、私の服、着る?」

そうだ、避難するにしてもこんな恰好では外に出られない。


結局、外に出るのに20分も掛かってしまった。

響子が外の様子を確認して上階の火事だと判って、少し余裕を感じたのだ。


スーツケース2個にそれぞれの荷物を詰め込み、外へ出る。

マンション裏の駐車場に住人らしき人達が集まっていた。

「あのー、どういった状況ですか?」

静江は、端に腰掛けていた女性に声を掛ける。

「どうも、こうも。火事だっていうのに消防車がこなくって、もうどうしていいんだか。」

女性は静江を見ることもなく、視線を落としたまま、つぶやく。

「はぁ、どうも」

静江もそれ以上は聞けなそうな雰囲気を感じ取る。


つんつん。

背中を響子に突つかれた。

「しずちゃん、燃えてるのは上だよ。」

響子が上を指差す。

静江も上を見上げる。

マンションの8階から盛大に火と黒煙が立ち昇っているのが見えた。

静江達の部屋は3階だが、消防が来ないとなると、いずれ全焼するだろう。


「これは、どうしようかな?」

放っておけば全焼。

頼りになる消防車はなぜかこない。

かといって、自分たちでの消火活動は無理。

(うん、お手上げだわ。)

このまま眺めているか。

学校は、今日は午後からだ。

響子も午前休のはず。

その響子は、と横の響子を見ると同じく上を見上げているが、その瞳は閉じられている。

なにか、集中しているようだ。

(おっと、これは。)


響子とは小学4年生からの付き合いだ。

彼女のいた小学校に静江が転入した。

海育ちで真っ黒に日焼けした男の子のような静江。

お嬢様育ちで色白の響子。

響子は静江に惹かれ、

静江は響子に憧れ、

二人の付き合いは今日まで続いている。

響子は幼少の頃からピアノを習っていた。

中学の吹奏楽部でフルートを始め、今でもフルートを吹く。

今、響子が見せている表情は音楽に集中している時の顔だ。

この時は邪魔をすると怒られるので、静江は話しかけずに待っている。


「うん。わかった。」

「おっ、なになに。」

響子が得心した顔で静江に向くと、駐車場の端へと移動する。

「えっとね、この辺りの音や声が聞こえたので、それを聞いていたんだけど、

どうやら、この辺りでたくさん火事になっていて、

さらにテレビのニュースによると日本中で火事になっていて、

たくさんの人が空を飛んでいるんだって。」

「・・・」

返す言葉が出ない。

「これは、たいへんだねぇ。」

うんうん、うなずく響子。

静江は混乱している。

(私は魚で、部屋は水浸しで、響子は鳥で、家は火事で、日本中が火事で、みんな空を飛んでる!?)

「ねぇ、しずちゃん。もしかして、水を出せたりしない?」

「へっ?」

「うーんとね。部屋が水槽になっていたでしょ。あの水はどこから来たんだろう?って考えると、しずちゃんかなぁって。」

「水を出す?」

「うん、私が浮かんだり、遠くの音が聞こえるなら、しずちゃんは水を出したりできないかなぁって。」

「水。」

「そう。」


視線を響子の顔から自分の両手に移す。

(水・・・)

目を閉じて水をイメージする。

静江にとっての水は海だ。

圧倒的な水量。

静かな海。

穏やかな海。

荒れた海。

すると、胸の奥に湧き上がってくるものがあった。

潮騒。

ドバー!!

静江の手のひらから水流がほとばしる。

「うわぁ、ちょっ、ストップ、ストップ!」

慌てて制止すると、水の奔流が収まった。

「出た・・・。」

「やったね、しずちゃん。」

視線を手の平から響子に戻す。

静江の正面に立っていた響子はずぶ濡れだった。

「うわぁ、ちょっと、響子ごめん!大丈夫?」

「うん、まぁ濡れただけだし。」


スーツケースからバスタオルを出して響子を拭いてあげる。

駐車場にいた人達がこちらを見たようだが、声を掛けてくる人はいなかった。

「ねぇねぇ、ちょっと部屋に戻ろう。良い考えがあるんだ。」

「えっ部屋に?大丈夫かなぁ。」

上を見上げると変わらず燃え盛っている。

「ほらほら、早く早く。」

戻り始めた響子の後を追って静江も部屋に戻った。



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