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精霊の時代  作者: ブルーベリージャム
始まりの時
3/16

安西煌 2話

会社へは遅刻せずに着いた。

席に付いてキャリーバックを横に置く。

首から下げていたスニーカーはキャリーバックの持ち手に括り付けられている。

満員電車がいつもより空いていたおかげで助かった。


「安西さん、それ何です?」

後輩の椎名が聞いてくる。


「俺の全財産。課長は?」


課長席に課長の姿は無かった。


「課長は、まだみたいですよ。それより全財産って、夜逃げですか?」

「火事だよ、火事。うちのマンションがさ。」

「えっ!ニュースでやっていた火事ですか?」

隣席の中川が話に入ってきた。

「ああ、うちのマンションもその中の一つだよ。」

「あれ、凄いですよね。」

「それより見た?人が空飛んでるの!」

「見た見た。」

安西を置いて周囲の話題が今朝のニュースに移る。


結局、課長が出社してこなかったので、安西は直接総務へ行き、自宅火災の状況説明と休暇申請をした。

金曜の午後半休はもらえたが、週明け月曜以降の休暇申請は直属長判断として保留された。

課長の携帯にメールを入れ、週明けの休みに備えた引き継ぎと、仕掛りの書類も仕上げると、

会社を出れたのは14時過ぎだった。


管理会社への連絡もしたが、午前中につながった際に自分の情報と火事の件を伝えた後は、管理会社からの折り返し連絡待ちになってしまっている。

その連絡が遅いので再度電話を掛けるが、呼び出し音が続き、つながらない。


(まぁ、あれだけ火事になっていたら、無理か。)


帰りの電車は、徐行運転からの運転見合わせとなり、安西は2つ前の駅で降りて、自宅マンションに向かった。

キャリーバックはその駅のロッカーに入れてきた。

自宅マンション付近は停電になっているらしく信号機が消灯していた。

マンションに辿り着く。

どうやら8階と7階の一部を焼いたところで鎮火された様だ。

駐車場の車はほとんどなくなっている。

皆、避難したのだろうか?

6階まで非常階段を上がる。

街の様子が見える。

黒煙が数本見えるが、白煙や真っ黒に焦げた建物も見える。

どうやら沈静化しつつあるようだ。


605号室は無事だった。

かなり焦げ臭いので、窓を開ける。

しかし、停電の上、水もでない。


(とりあえず、今夜はここで寝て、明日もう一度、管理会社に連絡するか。

引っ越し、しないとならんだろうな。)


ざっくりと方針を決めて、夕飯を買いにコンビニへ向かう。

今夜の夕食分と朝食用のパンとコーヒーを買うとコンビニを出た。


その帰り道、犬と出会った。



――――――――――



前方から犬が歩いてきた。

安西との距離は10mぐらいか。

周囲をうかがうように、首をゆっくりと左右に振りつつ、ゆったりと歩いてくる。

前方の安西を認めたのだろう。

犬は歩みを止め、安西を見る。

ハッハッハッハッ

舌を出し、激しい息遣いが漏れる。


(でかいが、柴犬か?)


頭の高さは安西の腰に届かないぐらいか。

セントバーナードよりは小さいだろうが、ドーベルマンはあれぐらいだろうか?

顔つきは柴犬の雑種の様に見える。

そして、前足が太い。


安西が一歩を踏み出す。

グルルルル

犬が警戒したようだ、頭を下げて飛び掛からんと力を溜める。


(やばい?)


安西も歩みを止める。迂回した方が良いかもしれない。

突然、犬の体躯が炎に包まれた。

そして、突進してくる。


(やばい!!)


安西は振り返り、走り出す。

犬の足音と息遣いが背後より迫る。


(やばい!やばい!、何だあれ!なんなんだよ!?)


全力疾走で、一目散に走る。

ここ数年、全力疾走なんてしたことがなかった安西だが、必死であった。

背後に感じる犬の気配は、すぐ後ろにあった。


先ほどのコンビニが見えてきた。

自動ドアにぶつかる様に辿り着く。

ドアの開くのがもどかしく、開いた隙間に体をねじ込み、店の床に倒れこんだ。


「何あれ?」

「あの、どうされました?」


コンビニの客とレジを打っていた店員が不審げに聞いてきた。

安西は、それには答えず外を振り返る。


(・・・居た!)


歩道とコンビニの駐車スペースの境に炎の塊が居た。

背後に迫っていた犬であったが、今はこちらの様子を伺っている様だ。

だが、すぐに飛び込んでくるだろう。


「あの、お客様。どうかされましたか?」

店員が寄ってきた。


「犬だ、でかい犬が襲ってくる。早く逃げるんだ。」


安西は叫んで、レジ奥のスペースに侵入しようとする。


(たしか、この先に裏口があるはず。)


「あっ、そこはダメです。」

「何だ、いったい?」

安西を止めようとする店員。

レジ奥から様子を見に出てきた店員。


ガッシャーン!!

犬が自動ドアを突き破り侵入してきた。


「きゃー!!」


悲鳴を上げる女性客。

ガウ

犬は一声吠えると、その女性客にかぶりついた。

犬の体表の炎が激しく燃え上がり、店の棚、天井に火を点ける。


一瞬の出来事に、安西と店員は動けなかった。


「裏口は?」

安西が大きな声を出す。

レジ裏から出てきた店員が視線を動かし、裏口を示す。

外へと飛び出す安西。

一目散に走る。


やや走ったところで、足を止め、道路に座り込む。


「はぁはぁはぁ」


息が激しい、胸が痛む。

買い込んだ食料はどこかに落としてきた。


どうやら犬は追ってこないようだ。

あの女性客は食われたのだろうか。

あの店員達は逃げられたのだろうか。

あの犬は一体、なんなんだ?

判らない、判らない、判らない・・・


立ち上がり、マンションへと歩き出す。

早くも息は戻った様だ。

だが、安西にそんな事に気づく余裕はなかった。

それでも、息が整ったおかげだろう、頭はしっかりとモノを考えられるようになった。


歩きながら自分の右手を見つめる。


(そうだ、俺は人間着火マンになったんだ。)


「着火」

指先に火が灯る。

「消火」

指先の火が消える。


(もしかして。)


周囲を見渡す。

先の交差点に町内会の掲示板があった。

行事の案内や火の用心ポスターが貼られている。

そのポスターをはがし、筒状に丸める。

筒の先端に指を近づけ、火を点けた。


「消火」


指先の火は消えたが、筒先の火は燃えている。

安西はその火を見つめ、集中する。

すると、その火を捉えた感覚がした。


「消えろ!」


強く念じつつ、声にする。

筒先の火が消えた。


(やった。)


自分の指先だけではなく、普通の火も操れるようだ。


(よし、これで・・・これで・・・いや、無理だろ・・・)


先ほどの犬との対峙。

たとえ、あの火を消せたとしても、あの体格と凶暴さである。

安西に立ち向かえる相手ではない。


(これは、無理だ。)


安西は、自室へと戻り、そしてベッドに横たわる。


「どうしようも無かったんだ。」

安西は自分自身を納得させるために、そうつぶやくと、目を閉じた。

焦げた匂いが充満する中、空腹を忘れて眠りについた。



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