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精霊の時代  作者: ブルーベリージャム
始まりの時
2/16

安西煌 1話

赤い球体はふわりふわりと空中を漂っていた。

その動きを見るに、目的もなく風に流されるままの様に漂っていく。


住宅街。

8階建てのマンションがあり、赤い球体はその壁面に行く手を遮られる。

しかし、風に乗って、ゆっくりと左右に揺れながら壁面に添って上昇を始めた。

やがて、ある部屋の窓ガラスに辿り着くと、するりと部屋の中へと侵入した。


----------


男は夢を見た。

暗い部屋。

静かな空間に一人立っている。

目の前には"炎"があった。

ライターの火、いや、ろうそくの火の様な赤い炎だ。

静かに燃えている。


男はじっと炎を見つめていた。


----------


ピピピピ...


スマホのアラームが7時を知らせる。

男は手を伸ばし、アラームを止めた。


男の名前は安西煌(アンザイ アキラ)

28歳の独身サラリーマンだ。


「うぅ、、、起きるか。」


安西はベッドから起き出し、テレビをつける。

パジャマを脱ぐとシャワーを浴びに浴室へと向かった。

毎朝、熱めのシャワーを浴びて眠気の残る頭と身体を目覚めさせている。

だが、今朝はいつもと違うようだ。

シャワーの湯を浴びても体の怠さは抜けない。


(疲れてるかな?・・・変な夢もみたし・・・)


シャワーを止めて、タオルで体を拭く。

水気を取ると体の怠さは多少ましになった様だ。

だが体温の高さを感じる。


(こりゃ、風邪でも引いたか?)


髪を拭きつつリビングへと戻り、下着を身に着けていると、テレビのニュース音声が耳に入る。

どうやら火事のニュースのようだ。

いつもだとスポーツニュースコーナーで昨夜のプロ野球の結果を伝えている時間だ。

画面に視線を向ける。

上空、おそらくヘリコプターからの映像だろう。

街の複数の場所から黒煙が立ち上っている。

「地震でもあったか?」

と思うが、ニュースのアナウンサーは火事の事しか伝えない。

画面の災害時表示も出ていないので、火事だけのようだ。


画面に見入りつつ服を身に着けていく。

ネクタイに手を伸ばしたところで、画面が切り替わる。

地上班の映像だろう。

燃え盛る民家から盛大に炎と黒煙が立ち上がっていた。


「すげぇな」


安西が画面に目を留め、炎を強く意識した時、それは起こった。

安西の体内に感じていた熱が、その存在感を高め、身体の内部で熱さを増したのだ。


「なんだ、これ!?」


安西は反射的に視線を胸元へ下げ、続けて伸ばしていた右腕から右手、指先へと視線を動かす。

すると、体内の熱が視線を追う様に右腕を移動した。

いや、熱が移動したから視線が動いたのだろうか?

そして、右手の中指の先に"炎"が現れた。


「!!!」


パニックである。

炎は指先に5cmぐらいの大きさだろうか。はげしく燃え上がっている。

慌てて足元にあった濡れタオルを右手にかぶせる。

(消えろ!消えろ!)

と念じつつ、キッチンへと走りこむ。

水道水を右手にかけ、タオルをはずして右手の状態を確認する。

どうやら火傷にはなっていないようだ。

火は消えていた。


「何だったんだ・・・」


居間を覗いて延焼していないことを確認する。

安西は先ほどの感覚を思い出す。

体内に感じる熱は先ほどのように熱く感じているままだ。


(さっきは、テレビの火事で、大きな炎を見て、そして・・・)


先ほどと同じく、視線を指先に持っていく。

先ほどと同じように体内の熱が右腕を通って右手へと伝わっていく。


(ライターの火!)


次の瞬間、今度は人差し指の指先から炎が現れた。

だが、今回の炎は先ほどの炎より小さく、1cm程度の大きさ。

そう、安西がイメージしたライターの火のようであった。


「・・・なるほど。」


水道水は流しっぱなしである。

安西は今回は落ち着いて、指先に現れた炎を見ることができた。


「熱くはないな。」


ゆっくりと右手を動かすと、炎も指先に付いてくる。

左手を近づけてみると、熱を感じた。

どうやら熱く感じないのは右手だけのようだ。


(消えるかな?)


指先と炎を水道水の流れに入れる。

だが、炎はやや小さくなるも消えることなくそこにあった。


「何だ!なんで消えないんだ!?」


すると、炎は消えた。


(えっ?)


火の消えた指先を見つめ、やや考える。


(もしかして・・・)


指先を見つめ、


「着火!」

指先に炎が現れる。

「消火!」

指先の炎が消える。

「着火、消火、着火、消火」

どうやら、安西の意志で炎は出現し、消えるようだ。


「人間着火マンかよ。」


ふと、思う。

この炎はもっと大きくならないのだろうか?っと。


(!!!)


安西はテレビの前に急いで戻った。

上空からの街の火災の様子が映し出されている。


(・・・もしかして、この火災は。

人間着火マンが複数いて、皆、家の中で炎を噴き出したのでは?)


いつも閉めっぱなしにしている部屋のカーテンを開ける。

ここは8階建て賃貸マンションの6階。

日当たりが良すぎて朝日が眩しいので、いつも閉めている。

その窓から見える街からも複数の黒煙が確認できた。


「・・・マジかよ。」


その時、テレビの音声が大声をあげた。

「人が、人が飛んでいます!!」


振り返り、テレビの画面に視線を戻す。

ヘリコプターに乗っているアナウンサーが叫んでいる。

彼の指差す方向へ映像が動いていく。

街の上空、そこで空を飛びまわる人間が数人映し出される。


「・・・マジかよ。」


振り返り、窓の外を見る。

火災の煙は見えるが、空を飛ぶ人間は見えない。

テレビに目を戻す。


「・・・どうなっているんだ?」



すると、玄関前の廊下が騒がしくなった。

声、足音、ドアを叩く音が聞こえる。

この部屋のチャイムも鳴らされ、ドアがドンドンと叩かれる。


「火事です!火事です!逃げてください」


足音が離れて行く。


「えっ?」


とっさのことで安西はすぐには動けない。

火事、と言われてテレビで見ている火事と混同したのだ。


「えっ?ここが?」


数瞬の後、そう思い至った安西は、玄関ドアを開き、周囲を見渡す。

廊下の前には街の景色が広がり、やはり幾本もの黒煙が立ち上っている。

複数のサイレンの音も聞こえてきた。

安西の部屋は605号室。

右手には奥にエレベーターと非常階段があり、601号室から順に玄関ドアがある。

602号室のドアを叩く男の背中が見えた。

反対の左手には606号室から608号室のドアがあり、その奥に非常階段がある。


「8階です。8階が火事です。」


先ほどの男が廊下を戻ってきて安西に言う。


「早く逃げてください。」


そう言うと男は非常階段へと走っていった。

安西は廊下の手すりから身を乗り出し、8階を見上げた。

すると、右手上方から煙が立ち上っているのが見えた。


「やばい!」


部屋へと戻り通勤鞄に携帯、充電器、財布などを放り込む。

さらに出張用に用意していたキャリーバッグを開けて、貴重品の入っていた箱の中身をぶちまけると、その上に下着や服を手当たり次第に入れていく。

最後にノートパソコンを放り込むと、玄関へと向かう。


「靴は、」

一瞬考えると、スニーカーの左右の靴ひもを結び、首からぶら下げると、革靴を履き、外へでる。

(鍵は締めないんだっけ?)


廊下にでると、601号室の家族が同じように廊下に出てきていた。

非常階段へと向かう。

階段室の下方から複数の人の足音と話し声が聞こえる。

皆、避難を開始したようだ。

安西も階段を下りて、無事に外へ出る。

マンションの駐車場から見上げると、先ほどより黒さを増した煙が見えた。

801号室か802号室が燃えているようだ。

”火災警報器が鳴らなかった”

”スプリンクラーは作動しているのか?”

”消防に電話が通じない。消防に連絡した人は居るか?”

等、周りの人たちの話し声が聞こえる。


「どうするかなぁ」


安西は周囲を見渡し、もう一度マンションを見上げて、移動を開始した。

時刻は7時52分。

いつもより遅れているが、とりあえず出勤することにした。


(駅のロッカーにキャリーバックを入れて、会社ついて説明して。

そうだ、不動産屋か管理会社に連絡しないと、って連絡先はキャリーバックの中かぁ。

はぁ、これ持って満員電車はつらいぞ。)


しかも今日は金曜日。

会社を休むと週末と合わせて3連休となるので、当日休みは申請が通らないだろう。


課長への説明と休みの申請をしなくてはならないことを想い、安西の足取りは重かった。


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