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精霊の時代  作者: ブルーベリージャム
始まりの時
16/16

江山静江 7話

意気揚々と飛び立ちはしたが、今のままでは右も左も西も東も判らない二人。

なので、最初の目的は駅前の本屋さんでの地図購入であった。


駅前には何人かの姿があった。

目についたマンションの屋上にジュータンを止め、二人は地上まで降下する。


「やっぱり、閉まってるかぁ。」

「停電だから、お店も開けられないのね。」

駅前ビルに入っている大手の本屋は入口に臨時休業の貼り紙が貼られていた。

「商店街にも本屋があるから、そちらに行ってみましょう。」

「そうだね。」


駅前通りを歩いてゆく。

ほとんどのお店が閉じてシャッターが降ろされている。

「なんか、静かだね。」

「うん。」

本屋は開いていた。

お店の中に入る。

「いらっしゃいませ。こちらをどうぞ。」

お店の店員の女性が大きな懐中電灯を渡して来た。

それを受け取る響子。

「あっ、ありがとうございます。」

「停電でねえ、お店の中暗いですから、それで足元照らしてね。

あっ、そちらの方も、これを持って。」

静江にも懐中電灯を渡す。

「ありがとうございます。

あの、地図帳を買いにきたんですが。」

「あっ、地図帳ね?地図帳なら、あの端の所にありますよ。」

「ありがとうございます。」


「これが良いかも。大きくて見やすいし、大きい地図と街の地図が両方載ってる。

関東版と信州版の2冊必要だけど。」

「うん。」

二人は地図帳を選びレジに戻る。

「これをお願いします。それと懐中電灯お返ししますね。」

「はい、ありがとうございます。

えっと、2冊で2420円、2400円で良いわ。

あ、停電でカードが使えなくて現金なんだけど、大丈夫?」

「大丈夫です。はい、2500円。」

「はい、100円のお釣り。これから信州に行くのかい?気を付けてね。」

「はい、気を付けます。」


店を出て、マンション屋上まで戻る。

「気さくなおばちゃんだったね。」

「ねっ。」

「ところでさ。響子は現金いくら持ってる?」

「えっと、財布に2万円ちょっとと、スーツケースの中に生活費用の8万円。」

「それなら大丈夫かな。私も財布に2万円ぐらいと別に50万円あるから。」

「50万円!?」

「あっ、うん。ほら、こっちで暮らす時に母親がくれたんだよ。もしもの時用にって、さ。」

「そっか。でも、それは大切なお金ね。」

「うん、でも、さっきおばちゃんが停電でカード使えないって言っていたからさ。

これからの買い物は現金だろうし、銀行のATMも使えないだろうからお金も降ろせないだろうし。」

「そうね。」


「さて、地図見て、進路を決めますか。」

「うん。いつもだと電車で下渋谷に行って品川で乗り換えよね。」

「そう。でもそれじゃあ東に行くから、反対の方が良いかも。

ほら、集木(アツメギ)の方に行って南に行けば新幹線の線路だよ。

海まで行って海岸線沿いに西へ向かっても良いし。」

「なるほど。」

「よし、行こう。」

「うん。」


順調に飛行する絨毯。

高度は100mぐらいか。

建物を気にせず見通しが良い高さで進む。

前方を響子が、周囲を静江がキョロキョロと見渡し、大きな鳥を警戒している。

鳥よりも飛んでる人間を多く見た。

「飛んでる人、けっこういるね。」

「うん。もう少し高く飛ぶ?」

「まぁ、大丈夫かな。」

「あっ、あれ?。しず、あそこ見て。」

響子が前を指差す。

「えっ、なになに?」

「ほら、あそこ。線路が無くなっている。」

「あっ、本当だ。」

進行方向には大きな樹があった。

樹高は二人の高度とほぼ同じくらい。

進路の目印にしていた線路が、その木々に行く手を遮られている。


絨毯を止めて、地図を確認する二人。

「えーと、この辺だよね。」

「うん。大きな公園がある所ね。」

地図上では線路沿いに大小4つの公園がある。

その一番大きな公園と線路を挟んだ反対側にあった公園が一つになっている様だ。

線路の上に樹々が生い茂り、線路が途切れている。

「響子、高度を上げてもらえるかな。」

「はい。」

高度を上げると公園の向こうに線路の続きが見えた。

「線路は続いている。この高度で行こう。」

「はい。」

公園の上空を飛ぶ。

下の公園を見下ろすと一面の緑に覆われていた。

樹々の間を飛ぶ鳥の姿も見える。

「まるで、森ね。」

「うん。」

1分ほどで通過した。


右下に国鉄の線路が見えてきた。

私鉄の線路と並走し、やがて南北と東西で十字に交差する。

「あそこが集木(アツメギ)の駅ね。」

「うん。ここから右下の鮎川に沿って南に行こう。」

「えっと、ちょっと待ってね。

集木の駅がここで、1cmが1kmってことは15km弱ぐらい。

出発から30分経つから、時速は30kmぐらい、っか。」

「5時までだと、えーと、120km!けっこう行けるかも。」

「そうね。どこまで飛べるのかな。

120km先だと、えーと、誤差はあるだろうけど、富士の(フジノミヤコ)まで行けそうよ。」

「おーそれは、楽しみ。」

静江はそう言って西の空を見る。

遠く富士山が霞んでみえた。

上空には灰色の雲が懸っている。

「あらっ、響子さん。一雨振りそうな雰囲気ですよ。」

「えっ、やだ、傘持ってきてないよ。」

「わたしも。どっか雨宿りできそうな所を考えないとね。」

「あっ、駅はどうかな。電車止まってるし、ちょっとお邪魔しても良いよね。」

「そうだね。」


鮎川に沿って南に進んで行く。

やがて海が見えてきて、下方に東西に走る線路が見えた。

そこから進路を西にとり、さらに進む。


「海は綺麗だ~大きいな~♪」

「ふふふ、しずは海に来ると上機嫌ね。」

「うん、子供の頃、夏は毎日泳いでいたからね。

水泳部でプールで泳ぐのも良いけど、やっぱり海が好きだよ。」

「ふふ、ところで、気づいた?

今日はヘリとか飛行機が飛んでいないみたい。」

「うん。空港も停電で飛行機を飛ばせないのかな。

車は走っているけど、渋滞してるね。」

先程の線路同様に木々に塞がれた道路も見える。

街からは黒煙が上がっているが、聞こえるサイレンは少ない。

街の混乱は続いている。


線路は南に大きく曲がり、新足柄田原駅を過ぎたあたりを飛んでいた。


ビリビリビリ

空気が震える。

「きゃあ!」

「うわぁぁ。」

絨毯が大きく揺さぶられる。

響子は風を捉え、巧みに絨毯を制御する。

ゴゴゴゴゴ

重く低い音が遅れて遠くから響いてくる。

「しず。大丈夫?」

「うん、大丈夫。荷物も無事だよ。」

「よかったぁ。」

「今のは何だろ、いきなり強い風がきたね。」

「しず、あそこ、海の向こうに煙が見える。」

「うん、あれ、火山の噴煙かな。」

「たぶん、そうじゃないかな。」

「南には、九島列島があるよね。

大きいのは壱の大島と八の大島だね。

地図によると壱の大島に壱原山があるけど、それが噴火したのかな。」

「それっぽいね。」


数分飛んだ所で静江が気付く。

「響子、下に降りられるところはあるかな。」

「えっ、うん。

大きな建物が増えてきたから熱泉(ネッセン)の街に着いたと思う。」

「じゃあ、すぐに降りよう。鳥が飛んでくる。」

「えっ、はい。急ぐね。」

「うん。」

響子は建物の屋上に絨毯を降ろした。

「大きい鳥がいたの?」

「いや、群れだよ。

多分、壱の大島の鳥たちが、さっきの噴火でこっちに飛んできてるんだ。」

静江が海岸の方を見ながら言う。

響子も視線を向けると上空に大きな黒い塊がいくつもあり、こちらに向かってくる。

ギャアギャア

ギャアギャア

海鳥の鳴き声を響かせ街の上空を何百羽という鳥達が飛んで往く。


灰色の雲で覆われていた空が小雨を降り注ぐ。

時刻は15時になろうとしていた。


「今日はここまでだね。」

「そうね。泊まる所を探しましょうか。」

「この建物って、熱泉だからホテルかな?」

「あっ、多分。やってるかな?。でも高いかもよ。」


二人は下へ降り、入口へ廻る。

出口前には3台ほどのバスが並び、宿泊客らしき団体がバスへと乗り込んでいる所だった。

かなり騒然として、外国客らしき数人が大きな声を上げている。

二人が入口に近づいていくと係員らしき男性に呼び止められた。

「すいません、当ホテルは本日営業を休止しております。」

「あっ、そうなんですか。あちらの方々はお帰りになるところですか?」

「あぁ、いえ。宿泊されていたお客様方なんですが、街の避難所に移動していただくところです。

そちらなら発電機と食料が用意されていますので。」

「発電機!」

「ええ、携帯の充電もできるそうですよ。もっとも電源入れても圏外で通話はできないそうですけど。」

「そうですか。」

「あの、こちらの売店も閉まっていますか?傘か雨カッパがあれば買いたいのですが。」

「ああ、売っていたかな。ちょっと待っていて。」

そういうと男性は入口から中へ入って行った。

「携帯はダメかぁ。」

「雨カッパは、ナイスかも。」

ザァァァァ

雨は本降りへと変わっている。

屋上に置いてきた荷物は濡れているだろう。

先程の係員が出てきた。

手に荷物を持っている。

「お待たせしました。透明な物しかありませんが、こちらをどうぞ。」

「ありがとうございます。おいくらですか?」

「ああ、いえ。お代は結構ですので。」

「ご親切にありがとうございます。」


二人はその場で合羽(カッパ)を羽織ると駐車場へと歩いてゆき、入口が見えなくなると屋上へと飛んだ。

屋上へ差し掛かる前、静江は最上階の部屋のテラスへ響子を導く。

「よし、ここは雨が届かないね。」

テラスは広く部屋側の奥まった所に露店風呂が付いていて、かけ流しの湯が湧いている。

「えっと。静江さん。もしかして。」

「あったりー。」

「ええっ。見つかるかもよ。」

「部屋の中には入らないから大丈夫だよ。

お客さんが出た後に見回りはするだろうけど、夜は大丈夫さ。

それに部屋の掃除は午前中でしょ。」

「そうね。大丈夫。なのかな?」


屋上から荷物をテラスに運び込む。

濡れた絨毯については響子が熱風で乾かそうと言うと、静江が止めた。

「ちょっと、私がやってみて良い?」

そう言うと、絨毯に手を置く。

すると絨毯と手の間に水球が出来上がった。

「うん。水を集めることもできたよ。」

手を振り、出来上がった水球を雨の中に返す。


テラスにあった椅子に腰掛け、雨に煙る海を眺める。

「これから、どうなるのかしら。」

「いろいろ変わるんだろうね。

今まで出来ていた事が出来なくなって、

今まで通用していたルールが通用しなくなるんだ。

でも、きっと、新しい事が出来る様になって、

新しいルールが出来るんだよ。

私と響子のこの力は、その為のモノじゃないかな。」

「しず。」

「大丈夫、響子なら上手くやっていけるさ。」

「ふふ、ありがとう。

でも、私ひとりじゃ駄目よ。

しずが居てくれるから、しずが居るから、私は歩いていけるんだから。」

「響子。」

「しず。」



――――――――――



響子がフルートの練習曲を吹き、美しい音色が満ちる。

♪~♪♪~♪~

静江は目を閉じ手と身体を揺らし聞いている。

曲が終わり、フルートを置く響子。

「いつも聞いていると、くるくるっと踊り出したくなるよね、その曲。」

「ブレーは踊りの曲だからね。

たくさん種類があって、どれも楽しいのよ。」

「そうなんだ、じゃあ、踊ろう。」

響子に手を差し伸べる。

「えっ、私も?」

「そうだよ。ほらっ。

タララッタラッターター、ラ~ララ-ラララーラー♪」

腰に手を当て、リズミカルに足を前後に動かし、くるりと廻る静江。

「ふふふ、しず、上手。」

「次は響子の番だよ。

タララッタラッターター、ラ~ララ-ラララーラー♪」

「きゃあ、待って、テンポ速すぎる~。」


二人の笑い声がいつまでも響き、夜は更けてゆく。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

「精霊の時代」はここで一度中断させていただきます。

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