江山静江 6話
日曜日の朝。
「ご馳走様でした。」
「ご馳走様でした。」
朝食を食べ終わった静江と響子は、荷造りを始めた。
昨夜、懐中電灯の明かりの中、お風呂に浸かりながら二人で今後のことを話し合った。
ここに居ても食料確保が難しい。
このままでは大学にいってられない。
電気が回復しないと、家族と連絡がとれない。
そこで、
1.実家に戻り、家族と会う。
2.大学に連絡するか、大学に行ってみる。
3.冬に備えての食料確保を本気で頑張る。
となった。
今日は日曜日なので、2番は明日以降の話だし、3番は後で良い。
というわけで、実家となるが、けっこう遠い。
いつもなら、新幹線で2時間ちょっと。
諸々含めて4時間ぐらいで着く。
電車はおそらく動いていないだろう。
となると、響子の飛行に頼るしかない。
どれぐらいの速度がでるのか。
一体何日かかるのか。
ひょっとしたら、実家に帰るまでに電車が動くかも。
実家へ戻るか。
ここに残ってサバイバルするか。
結論は実家に戻りつつサバイバル生活。となった。
もちろん電気がある街を見つけたら、そこで実家への連絡を試みる。
そこで、荷造りである。
持ち物を最低限に抑えて、サバイバル生活に必要な物を選ぶ。
そして足りない物がないか確認する。
とは言え、2日前の避難の時に1度は詰めているので左程時間は掛からなかった。
スーツケース2個に収めた。
調理道具一式(鍋、フライパン、お皿、コップ、お箸にフォークとスプーン)は別のバッグに入れた。
さて、これをどうやって持つか。
「スーツケースを背負えたら楽よね。」
「リュックの様な肩紐が在れば良いかな。
紐かロープでぐるぐる巻きにしたらできるかな。
よし、ロープを探そう。」
「うん。地図とロープが必要なものね。ロープって、どこで売ってるのかしら。」
「どこだろう?ホームセンターかな?」
「うーん。」
静江は考え、ふと閃く。
「そうだ。空飛ぶジュータンだよ。
響子、あれできるかな?」
「あ、魔法の絨毯!
そうね、試してみましょう。」
居間に敷いてあるのは3畳用で二人が寝そべっても結構広い。
スーツケースを載せても広さ的には問題なさそうだ。
早速、絨毯と荷物を下の駐車場に持ち込み、飛ぶ態勢を作る。
「準備おっけー。響子。」
「はい。では、浮かびます。」
響子は風を呼び、下の絨毯ごと浮かび上がるイメージを作る。
「おお、浮かんだ。」
1m程浮かびあがり駐車場内をゆっくりと飛行する。
くるりと方向転換し元の位置に着地する。
「どう響子。いける感じ?」
「うん、大丈夫。
最初にイメージしたら、後は風まかせだから、重さは感じないし。
乗りごこちはいかがでしたか?お客様。」
「問題なしですよ。ファーストクラスだね。」
「ふふ、それでは出発ですね。」
「うん。」
その後、部屋に戻った二人は身支度を整え、さらに食料品などを追加でバッグに詰める。
さらに余った食料品と水を持って、605号室を訪ねた。
ドンドン
「いらっしゃいますかぁ。」
ドンドン
「はい。」
安西がドアを開く。
「おはようございます。303号室の江山です。」
「おはようございます。緒方です。」
「あっ、昨日の。あっ、缶詰ありがとうございました。」
「いえいえ。
あの、実は私達これから実家に戻ることになりまして。
それで、こちらが余った食料品なので、こちらもどうぞ。」
「ええっ、こんなに、いや、ありがとうございます。
ちょ、ちょっと待っていてください。今財布を、」
「あー、それは良いです、結構です。
その代り、ちょっとお風呂場を見せていただいても良いですか?」
「えっ、お風呂場ですか?なんで?」
「はい、ちょっとお邪魔します。」
戸惑う安西を下がらせて、安西宅に上がりこむ静江。
響子は玄関先でにこにこしている。
静江は風呂場に入り栓を閉めるとバスタブに水を入れ始める。
「えっ。」
驚く安西。
すぐに浴槽は水で満たされる。
「一応、問題なく飲めますが、日が経つと水も悪くなるので、飲料水は別に確保された方が良いです。」
静江は一言注意をした。
「あの、ありがとうございます。
えっと、あなたは水の能力なんですね。」
「はい、そうです。」
「あ、俺、いや僕は火なんです。ほらっ。」
そう言うと右手を見せて指先に火を灯す。
「あらっ。」
「あー、やっぱり他にも居るんだ。」
「はい。あっ、他にも空を飛べる人や、土を操作する人にも昨日会いました。
それに、火の犬とかでかい鳥、動く植物も見ました。」
「大きい鳥。」
「動く植物!?」
「はい、あっ、大きい鳥は本当に大きくて、人の何倍も翼が大きくて、空を飛んでいた男性を捕まえて飛んでいきました。
動く植物は、動いていたのは根っこなんですが、公園の樹が根っこで道路を耕して森を作ろうとしていたんです。」
安西は自分の中に溜まっていた物を吐き出すように一気に話した。
「信じられないですよね。」
最後に力なくつぶやく。
「いやぁ、信じられないけど、私たちも火の犬には会っているし。」
「ああ、あいつは、でかくて凶暴で、僕も逃げるのが精いっぱいでした。」
「あの、大きい鳥は何羽も飛んでましたか?」
「いえ、僕が見たのは、一羽だけです。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「あっ、いえ。あの、お気をつけてお帰りください。道を歩くだけで危険ですから。」
「はい、気を付けます。」
「それでは、失礼します。」
「大きい鳥かぁ。」
「うん。空を飛んでる時は注意しないとね。」
「そうだね。前後左右に上に下。気を付けないと。」
駐車場におりた二人は置いておいた絨毯を広げ、再度荷物と自分たちの身体を横たえる。
「それでは、響子さん、よろしくお願いします。」
「はい。出発します。」
絨毯はふわりと浮かび上がり高度を上げると、前方へ飛行を開始した。
――――――――――
「実家か。」
安西はもらった食料をテーブルに置き、ベッドに腰掛ける。
スマホの電源を入れ、画面を見るが不在着信も新規メールも入っていない。
課長からもマンション管理会社からも返信は無いということか。
いや、単に圏外なだけか。
これも文明がなければ、使えない物だ。
壁に投げつける。
「くそっ!」
昨夜から何度悪態をついているのだろう。
安西は外の世界が怖くなっていた。
犬、鳥、樹。
人間だけじゃない、自然も異常だ。
この世界が異常なんだ。
それなのに、あの子供たちはヒーローをやっている。
さっきの女の子たちは実家まで帰るという。
食料品の入った袋を見る。
止めるべきか、止めた方が良いんじゃないか。
だが、なんて言う?
俺に二人を止められるのか?
安西は立ち上がり、玄関を開け廊下から階下を見る。
すると、絨毯に乗り空を飛んでゆく二人の姿が見えた。
(あ~なるほど、ね。)
安西は納得する。
廊下に居た色白の娘は空を飛べるのか。
それで、でかい鳥について聞いてきたのか。
最初の娘は水の力だ。
「火の犬に会った。」と言っていた。
自分ならば恐怖を込めて口にするセリフを、あの娘は平然と言った。
まるで普通の犬に会ったかの様に。
そうだ。
彼女は水。
犬は火。
水と火がぶつかり合えば勝者はどちらだ。
水だ。
そうだ、彼女は火の犬に出会い、そして勝ったんだ。
俺は負けた。
俺は逃げ出した。
俺が逃げたと言った時、彼女はどんな表情をしたのか。
驚きか。
嘲笑か。
憐みか。
くそっ!
仕方無いじゃないか!
相性だ、あの犬は火、俺も火だ。
いや犬の方が強い。
炎と火、ろうそくの火だ。
勝負にならない。
だいたい火なんて、役に立たないじゃないか。
燃やすだけ。
燃やして、燃え尽きて、後には灰だけだ。
燃やすだけの存在。
それが俺だ。
― 安西の身体の奥で、熱い塊が脈動した。
そうだ、燃やすんだ。
燃やせば良い。
火球を放ち、火の壁を作り、自身が炎の塊となって相手をなぎ倒す。
犬はそうした。
だから強かった。
俺もそうなりたかった。
それを望んだ。
だからこそ公園に行ったんだ。
あの樹の所へ。
なぜ逃げたのか。
相手は樹だ。
俺は火だ。
火と樹。
ぶつかれば勝者はどっちだ。
火だ。
火が勝利する。
逃げる必要はなかった。
燃やせば良い。
燃やし尽くせば良い。
それが火だ。
それが俺だ。
後に残るのは灰だけだ。
安西は、階段を下り、昨日の道を歩き始めた。
その顔に笑みを浮かべて。




