安西煌 3話
土曜の朝。
ピピピピ
8時のアラームを止める安西。
昨夜はよく眠れず、何度も目を覚ました。
朝も7時に目が覚め、そのままベッドの中にいたのだ。
(くそっ、キャーリーバックを取りに行くか。)
停電は続いている。
水道もでない。
冷蔵庫の中にあった水を飲む。
冷蔵庫の中には水とお茶のペットボトルが3本。
それだけだ。
基本的にコンビニで3度の食事を調達している。
スナック菓子類を食べないので、買い置きは無い。
近所のコンビニは昨日焼けた。
(くそっ。)
嫌なことを思い出し苛立つ。
(バックを取りに行って、水と食料も確保しとくか。
管理会社と、不動産屋にも行かないと。)
安西は玄関を出た。
―――――――――――
不動産屋は10時からの営業だろうから、先にキャリーバックを取ってくることにする。
通りは、いつもより人や車の往来が少なかった。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
黙々と歩く安西。
駅までは30分ぐらいだろう。
すでに半分くらい歩いたか、なじみのない街の通りを歩いている。
「うわあああああああ!」
ドシャ
ドシャ
突然前方の道路に人が降ってきた。
地面に激突し血肉を巻き散らす。
二人だ。
(な、なんだ?)
上を見上げる安西。
空中に二人の少年らしき姿が見える。
彼らも続いて降りてきて、こちらはすとんと降り立つ。
「やっぱ、デブが先に落ちたろ。」
「いやいや、同時でしょ。」
呆然と見つめる安西。
何人かの通行人も足を止め騒いでる。
周りに視線を送っていた二人が安西に目を止める。
「何みてんだ。おっさん。」
安西に歩み寄ってくる。
どうやら高校生の不良のようだ。
「い、いや、何をって、別に・・・」
「ふーん。」
一人が正面に立つ。
もう一人は安西の後ろに回り込む。
「おっさん、俺達、実験してたんですよ。実験。
聞いたことあるだろ、重たいものと軽いものを同時に落とすってやつ。
知ってる?」
「あっ、はい。」
「じゃあ、協力してね。おっさん。」
後ろの男が安西の腰のベルトを掴むと上空に浮かびあがる。
「うわぁぁ。」
声を上げる安西。
「うっせーぞ、おっさん。だまんねーと落とすぞ。」
後ろの男が凄む。
正面にいた男も飛んできた。
「さーて、実験すっかぁ。」
「いやいや、デブい奴いないっしょ。」
「なんかギャラリー増えてて、めんどい。」
通りの通行人が見上げている。
パトカーのサイレンも聞こえてきた。
「って、ことで、ここはおっさんに良いとこみせてもらって、場所変えるか。」
「あっ、じゃあさ、富士山いこうぜ。富士山。」
「おっ、いいねぇ。」
「っし、富士山けってーい!」
「ってことで。おっさん、良いとこ見せてね。」
「えっ、あの・・・。」
「では、カウントダウーン!3!2!1!」
「いやいや、ちょっまっ、」
「ゼロ!」
後ろの男が手を放す。
落ちる安西。
「うわああああああああ!!」
迫る地面。
割れるアスファルト。
せり上がる土くれ。
ドスゥ
安西は上昇してきた土くれに激突してめり込む。
土くれは地上から5mほどで安西を受け止め、上昇を止めた。
「なんだぁ?」
上空の二人は不満気な声を漏らした。
「やった、できた。」
3人の小学生らしき男の子達が歩道を走ってくる。
中の一人が空中の不良たちをその手に持った木の枝で指す。
「おい、おまえら、悪党は俺たちが退治してやる。」
3人が並び、上空を見上げた。
「なんだ、餓鬼ども。」
「おこちゃまじゃん。ほっとこーぜ。」
「チッ。」
2人は振り返り、移動を始めた。
「あっ、逃げるな。」
少年が叫ぶ。
かまわず飛び去る二人の背に小石がぶつけられた。
「いってーーー!」
「どうだ、ストーンミサイル命中!」
3人目の少年が声を上げた。
「くそ餓鬼が!」
不良の一人が高速で少年たちに迫った。
「裕介ガード、順はミサイル用意!」
「おっけい。」
「準備完了!」
3人の正面のアスファルトが割れ。高さ1m、幅2m程の土塀が地中からせり上がった。
不良が少年たちの前に降り立つ。
「餓鬼が。」
威嚇の様に両手を組み合わせ指をポキポキと鳴らした。
1人と3人が土塀を挟んで対峙した。
安西は土くれの上から、その様子を見ていた。
途中で土に埋まったとはいえ、全身が痛む。
(もう一人は。)
視線を上げて自分を落とした男を探すと、男は上空からこちらを見下ろしていた。
加勢するか逡巡しているようだ。
その背後に鳥が見えた。
急速に男に迫ると、翼を広げる。
大きい。
翼長3m以上はあるだろう。
鳥は男をその脚で捕えると、翼を大きくはばたき去っていった。
羽ばたきが起こす風と力強い音。
男が最後に残した悲鳴。
それらを聞き、道路上の人々も空を見上げる。
だが、鳥はすでに飛び去って見えなくなっていた。
「あっ、おい、宏樹。宏樹!」
不良の男は飛び上がりきょろきょろと周囲を探す。
「なに?」
「鳥?」
「見た。でっかい鳥だよ。不良を捕まえて飛んで行った。」
ガードの裕介が2人に説明する。
不良の男は土くれの上に居る安西の所に来た。
「おい、おっさん、何があった。宏樹はどこ行ったんだよ。」
「鳥だ。でかい鳥が攫って行ったよ。」
「・・・うそだろ。」
「いや。」
「くそっ!」
不良は飛び上がり、いずこかへと飛び去っていった。
「おじさん、大丈夫ですかぁ?」
「降りてこられますかぁ?」
土くれの下から少年たちが安西に呼びかける。
安西は返事を返し、土くれの壁を伝い降りた。
5m、かなりの苦行だ。
「ありがとう。助かったよ。」
「いえいえ、当然ですよ。
困っている人を見たら助けるのがヒーローですから。
なっ?」
「そうそう。」
3人は自己紹介を始める。
リーダーの貴志が剣担当。
サブリーダーの順弥がミサイル担当。
守備リーダー裕介がガード担当。
魔法を使える3人でヒーロー戦隊を組んで街をパトロールしている。
戦隊名は考え中らしい。
「おじさんは何処にいくところだったんですか?」
貴志が聞いてくる。
「あぁ、駅まで。ロッカーの荷物を取りに行こうと思ってね。」
「そうですか、ではお気をつけて。」
3人は安西に敬礼ポーズをすると、パトロールを続けるのだろう、道を歩いていく。
「ヒーローねぇ。」
小学生の時はテレビで見てたなぁ。と思い返す。
どうやら道路に出現させた土くれは放置していくようだ。
その辺が"らしい"ところであった。




