学校と情報と
儂は今ほんのおとといまで通っていた通学路を歩いている。理由は簡単、学校に向かうためだ。
「ついこないだまで歩いていたはずなのに、もう懐かしく感じるな」
いつもなら親子連れの家族や登校している学生やサラリーマンがたくさんいたはずだが、今では誰もいない。
世界に儂一人になってしまったようで少し寂しいな。
せめて誰かに会うことができれば……
おっ、ゴブリンとオーク。
この2体よく一緒に行動してるよな。仲いいのか?
こっちに向かってきた。
ゴブリン単体なら儂を見たら逃げていくが、オークと一緒に居れば攻めてくる。
現代でもこの構図よく見たな。単体では媚びへつらってペコペコしてるくせに、強い奴と一緒なら急に態度がでかくなる奴。そういうタイプか。
よく勘違いして、人数で攻めれば勝てると思って数で攻めてくる奴らがいたのはいい思い出だ。
もれなく全員捻り潰してやったよ。
「昨日から続く不完全燃焼感を取り除くチャンスだな。ずっと戦いたくてウズウズしてたんだ」
少し助走をつけその場でジャンプし、ドロップキックを放つ。
一度やってみたかったんだよな、これ。
走ってきたオークは避けることが出来ず、顔面にドロップキックが直撃。5mほど飛んでいき、その場で動かなくなり光の粒子となって消えた。
ゴブリンはオークがやられたことでヤバイと思ったのか逃げようとする。
だが残念。そこは儂の射程範囲だ。
すかさずゴブリンの頭部を掴み、頭を左右に揺すってやる。ゴブリンは口から泡を吐いて絶命した。
すごい力で頭を揺らすことで脳を揺らす。するとどうだ、脳はその衝撃に耐えられなくなり崩壊するという戦法だ。
初めてやったが成功してよかった。こんな技人間相手には使えないからな。
「ふぅ…今回はドロップ無しか」
倒した場所にアイテムは見当たらなかった。だからこそ昨日のバンダナとスキルカードのダブルドロップは本当に運が良かったのだろう。
さて、こんな場所で道草くっている場合じゃない。
儂は学校に向けて足を進める。
しばらく歩いていると何か音が聞こえてくる。
何かの話し声のような……
儂はここでふと希望がよぎる。
音を聞き分けその方向に向けて足を進めると、大勢の人が学校に向けて歩いていた。
「久しぶりに人を見た……、人を見るのがこんなにも嬉しい日が来るとは……!」
まさか人に会うことがこんなにも嬉しいなんて思いもしなかった!早速合流しよう!実を言うと昨日から寂しくて仕方なかったんだ!
しかし大丈夫かの?人数は8人ほどだが、傷だらけの人もいれば疲弊しきっている人もいる。きっと道中でモンスターにでも襲われたのか?
儂は急いで手伝うべく人の集団に向けて走った。
すると小さな子供が儂に気づいた。
「お母さぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「またモンスターが攻めてきたぞーー!!」
何!?モンスターがいるのか!?ならばこの人達は守らなければ!
しかしモンスターは見当たらない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「どうか命だけは………!」
「家族に近づくな!!」
「ここは任せて逃げろ!!」
家族や女の人を守る姿勢は評価するよ、うん。
でも一つだけ言わせてくれ……
これ……………まさか儂に言ってる?
「………あの」
「喋ったぞ!気をつけろ!」
「こいつ……知能が高いぞ!」
「話せるなら見逃してもらえるんじゃないの!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「まるで人間そっくりだな……!」
これ100%儂に言ってるわ。
えっ、嘘だろ?よく怪物だの言われたけど、ついに本物のモンスターと間違えられたの?
儂一応一部ではモテてたんだぜ?
自分で言うのも何だけど顔は整ってると思う。ばあちゃんにもよく褒められたし。
やはり身長か!?身長がいけないのか!?
たしかにオークよりも儂の方が2〜30㎝ほど大きいけどモンスターと間違うことはないだろう!
泣いてもいいか!?これ泣いてもいいよな!?
「おい見ろ……!何かとても悲しそうな顔してるぞ」
「ほんとだわ!」
「えっ、まさか人間なのか!?」
「儂は人間だよこのやろう」
どうしよう。助けるのやめようかな?
どんな聖人でも、さすがにモンスターと間違えられたらキレると思う。
だから怒りを我慢している儂は偉い。褒めてくれ。
すると集団の代表のような男が前に出てきた。
「申し訳ございません!先程オークと思われるものに襲われたばかりで気が少々たっていました……」
「いえ、慣れてますので大丈夫です」
なんだろう…自分で言って悲しくなってきた。
誰か儂を人間扱いしてくれないかな?
「学校が避難場所になっていると聞き、このように命からがらモンスターから逃げてきまして……」
やはり儂らの学校が避難場所になっていたか。
ビンゴだったな。
「儂も今から学校に向かおうと思ってまして……怪我人がいらっしゃるなら儂がおぶって連れて行きましょうか?」
「いやいや!それでは迷惑がかかってしまいます!」
「大丈夫ですよ。それくらい迷惑にもなりません。」
「おお…!ありがとうございます……!」
そこで傷を負った男性2人をおんぶして学校に向かう。そのあと全員から感謝され、すごい勢いで謝られた。
「ありがとう!モンスターのお兄ちゃん!」
「そこは普通に『ありがとう!お兄ちゃん!』だけの方が儂の受けはいいぞ?」
子供は平気で心を抉ってくるから恐ろしいね。
◇
そのあとはたわいもない話をしたり、情報を交換したりしながら学校を目指した。
新しく得られた情報といえばショッピングモールにとんでもない化け物が現れた、と言うことぐらいか。
儂の家から1キロほど離れた場所にショッピングモールがある。
そこを通った時にオークよりも大きなブタのようなモンスターを見たらしい。
まさかこの段階で有力な情報を得られようとはな。
学校まで送り届けたら、次はショッピングモールを目指そうか。
「あっ、学校が見えてきましたよ!」
サラリーマン風のおっさんが声をかけてみたので見てみると、学校の門が見えてきた。
まぁここも通学路だから儂もわかってたんだけどな。
門には警察官のような格好をした人が2人で守っている。そしてその手には拳銃が。
そんな小さな拳銃でオークに勝てるのかとも思うが、
急な出来事なんだ。急に武器を持てと言われる方が大変だろう。
と思っていたら警察が急に慌てだした。
どうしたのだろうか?
「止まれ!今すぐその人達を解放しろ!」
警察官が儂に向けて拳銃を向けてきた。
……また儂はモンスターと間違えられたのか!?




