交わる世界
新連載です!
初めてローファンタジー を書きましたが、楽しんでいただけるよう頑張ります笑笑!!
その男を一言で表すならば『異端』であろう。
曰くその男が歩けばモーセが海を割ったように、人が端に避け一本の真っ直ぐな道が出来る。
曰くその男には腕自慢のヤンキー達ですら不用意に近づかない。
曰くその男が破壊した人や物の数は数知らず。
曰くその男が声をかけると女子供は泣き叫び、命乞いをし出すものまで現れる。
曰くその男の身体能力は人間を軽く超越しているらしい。
それもそうであろう。この男は身長が2m20㎝ある。
ボディビルのように体を大きく見せる分厚い無駄な筋肉ではなく、限界まで圧縮された実用性しかない筋肉で覆われている。腹筋は10個に割れ、手の大きさなんて25㎝はあるだろう。
硬く長く伸びた少しボサボサした癖毛の髪を後ろで1つに纏め上げており、顔つきは少し吊り目気味だが割とワイルドでカッコいい部類に入るであろう。現に彼の良さを知っている人の間では人気が高い。纏め上げた髪が後ろで広がり、その男の気迫と相まってライオンのようだと例える人もいる。
しかし最早人間なのか?と疑うような体のポテンシャルを兼ね備えているが、彼はちゃんとれっきとした人間である。
しかし初対面の人間であれば誰が気付くだろうか?
そしてその事実を誰が信じるであろうか?
バケモノや怪物と揶揄される彼だが、彼はまだ18歳の高校3年生であるという事実を。
だからこそ制服を纏って歩く彼に通行人達は驚愕の視線を向けている。彼はそれを知る由もない。
彼の名前は東雲 雲竜。
バケモノポテンシャルを全て兼ね揃えた、ごく普通の今年受験の受験生である。
◇
「疲れた……今日も儂は頑張った!」
とあるアパートの一室で巨人は高らかに叫んだ。
彼は自分を一人称で表す場合、『俺』ではなく『儂』と呼んでいるためクラスメイト達は不思議に思っている。ただ単に雲竜がお爺ちゃん子だっただけという理由だが、雲竜が怖すぎて話しかけれないために真実を知る由もない。
さらに彼は幼い頃に家族を亡くし、高校に入ってからは一人暮らしをしている。それに昔から慣れてしまったため今となってはこの生活が当たり前である。
「いやぁ、毎日練習しているが力加減が難しいな。気を抜くと全部壊れてしまう」
そう、力が強すぎて全て壊れてしまうのだ。壊したペンの本数は数知らず。居眠りしていて先生に呼ばれ、飛び起きた勢いで机が割れたときには我ながらビックリした。
まぁ、本格的に力を制御しようとし始めたのは小学校の時だが……
あの時はまさか腕相撲したら相手の腕が粉砕骨折するとは思わなかった。
そこから今までずっとあだ名が『破壊神』になったのはいい思い出だ。今でも呼ばれるけど……
「しかし最近は調子がいい。机どころかいろんな機材を壊していない!ペンはスペア必須じゃが……」
しかし昔からのことなのだ。今更考えたところで仕方がない。
……ぐーっ
するとここで大きな音がなった。出所は雲竜の腹だ。
「腹減ったな…帰りに買ってきたコンビニ弁当でも食べて明日の予習でもするか。」
誤解されやすいが、彼は至って真面目なのである。買ってきた弁当をささっと食べ終え、勉強を始めようとしたところ……
《この世界は異界と交わりました。新しい時代の幕開けです。この世界に適応し、新しい世界を創り出していきましょう》
よく分からない音声が頭に響いた。
「なんだ?頭の中に声が聞こえたような……異界と交わった?新しい世界?外で怪しい宗教の勧誘でもやっとるのか?」
だが今はカーテンをめくって確認する気力もない。
「気疲れし過ぎて変な幻聴でも聞こえ始めたのか……?今日はもう寝るか。早く寝て明日の朝に予習すればいいか」
そしてそのまま特に外の様子を気にすることもなくベットに横になり、すぐに夢の世界に落ちた。
だから気づかなかった。今世界が重篤な危機に陥っていることを。
疲れからくる幻聴だと思っていたことが、実際に脳内に聞こえていたということを。
永遠に平和だと思っていた時代が突如として終わりを迎え、弱い者から餌になっていく激動の時代が始まろうとしていることを。
◇
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
突如として聞こえてきた断末魔によって目を覚ました。まだ寝起きで覚醒しきっていない脳であってもその異常性がひしひしと伝わってくる。
「何事じゃ!?」
ベットから飛び起き、部屋の中を確認するが特に異常はない。だからこそ急いで部屋のカーテンを開けた。
それはまさに異常ならざる光景であった。
醜悪な姿をした小さい生き物が外に飛び出した人を刃物で襲っている。さらに上空には日本には存在しないような大きな鳥が飛んでいる。さらに少し遠くには大きな豚が二足歩行で歩いている。
「……これが二日酔いというやつか?」
最初に口から出たのはそんな感想である。
もちろんお酒は飲んでいない。しかしまるで酔って自分が幻覚でも見ているのではないかと疑ってしまうような光景に混乱している。
だから儂は自分の頬をつねってみた。
「いや…しかし夢ではないな。頬がすごく痛ぇ。じゃあこれは現実なのか!?」
そこで初めて今見てる光景が現実であると認識する。
「なんだこれは……!まるでファンタジーのような……!暇な時読んだりしていた小説に似たような展開は……!」
人から化け物だの言われているが、雲竜はネット小説が好きなのだ。いろんなファンタジー小説を読んでいたからこそこの現状を見ても多少の動揺だけで済んだと言っても過言ではない。
そこで昨日の現象を思い出した。
「昨日の頭の中に響いた言葉……確か異界と交わった?とか言っていたな。てっきり宗教の勧誘だと思っていたが現実だったのか……」
それなら辻褄が合う。日本で、いや世界でも見たことがない見た目をした生物。ここではもうモンスターと呼ばせてもらおう。モンスターがはびこっている。
それは異界と交わったからこの世界に出現したのだろう。
じゃあ今家の下でのそのそと刃物を持って歩いている緑色の醜悪な見た目をしたやつはゴブリンか?ファンタジーならお馴染みの。
「こんなのはフィクションだからいいんだよ……リアルで見たら気持ち悪いの」
儂はそっとカーテンを閉める。
「じゃが今の惨状は異常だ。そうなれば電波は繋がるのか?」
携帯の電源を入れてみた。充電されていたためつくにはついだが、圏外と表示されている。
「電波はイカれてしまったか……じゃあテレビはどうだ?」
儂はリモコンを手に取り、テレビの電源を付けた。するとテレビは無事についた。どうやらまだギリギリ繋がっているようだ。
そしてテレビに映った映像に今度こそ夢ではないということを思い知らされた。
『見えますでしょうか!?ドラゴンです!?東京の上空にドラゴンが現れました!夢ではありません!今まさにドラゴンが街を破壊して………キャァ!?……………………』
その映像を最後にテレビが再びつくことは無かった。
どうやら世界はとんでもないことになってしまっているようだ。
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