七:新たなる下僕
釣り上げた獲物をバトンタッチされ、アタシは目の前の人型を観察する。
真っ白な肌、肩下で切り揃えられた、トウモロコシのような綺麗な金髪、ローブを纏った洋服の下からは悪魔の尾が見えている。
溺れたのかな、と思いとりあえず、鳩尾に一発入れて水を吐き出させてみる。
「ゴェホッ!・・・ゲホッ・・・ゲホ・・・・・」
結構激流に呑まれたのだろう。水を大量に吐き出し、息が整った人型はこちらを見つめる。
赤い、綺麗な瞳。整った顔。
こいつ、悪魔か魔族だ。
目をそらさないようにしつつ、全身乾燥用の魔術を起動させ、悪魔を乾かしてやると。
「・・・すまない、助かった。」
どうやら、性別は男らしい。
お水を渡して落ち着かせ、さてどうするか。
会話もなく少し思案していると、悪魔の表情がアタシの背後をみて、驚きに変わっていく。
一体何だと振り返ってみれば。
10尾以上のマグロが、跳ねていた。
最強レディが、いい笑顔でサムズアップしている!
「ちょ、やば、アンタも血抜き手伝って!!」
「え!?なんで・・」
「いいから早く!!」
アタシは予備のナイフを悪魔に渡して、片っ端から処理していく。
悪魔も言われるがまま手伝い始め、最初は手間取っていたが数をこなす内に処理スピードが早くなっていった。
それに気を良くしたのか闘争心からか、彼女の釣り上げるスピードも上がっていく!!
最終的に、彼女が全てを釣り上げ、もう獲物がなくなるまで、この単純作業は続いたのだった。
「・・・・・。」
マグロの処理で体力を全て使いきったのか、悪魔は何も言わず呆然としていた。
アタシは美味しいクリスタルの水を、悪魔と最強レディにジョッキで渡してから、地下室の海水を転送術で全て送り返し、ついでに室内も海水召還前の状態に戻しておいた。
そして、全員をキレイキレイにするクリーンの魔術で綺麗にして、全てのお掃除を完璧にしてから、自分用の水を一気飲みする。
「・・・っふぁー!仕事の後の一杯は、うまいっ!」
しみじみと叫ぶと、悪魔がこちらを見上げ、口を開いた。
「あの、貴女たちは、どちら様ですか?
申し遅れましたが、私はセエレ。この地に永い事封印されていた・・・筈なのですが、何故か昨日封印が解けたので、とりあえず祝杯を上げていた悪魔です。」
「あ、アタシはフミエ。
色々あって、昨日この館周辺を時間の巻き戻しをして、綺麗な状態に直してから住むことにした、旅人です。
こちらの方は、アタシの召喚でお仕事してくれた、最強レディの・・・よっすぃ~(仮)、です。」
お互いに自己紹介しつつ、召還された女性があまりにも知人に似てたからその名前を付けたら頷いたので名前をそれにし、漢のロマンにより多少の絆の芽生えたセエレの話を聴くことにした。
「私は、元々は魔界と呼ばれる場所で生活していたのですが、とある人間に喚び出され、色々使役されていたのです。
ですが、その人間が寿命を迎える際、他の悪魔たち共々、見知らぬ土地にバラバラに封印されました。
多分、あの人間は輪廻により生き返った時に我々の封印を解き、また私たちを使役しようとしたのだと思います。しかし、幸か不幸かあの者はまだ、此方に産まれてはいない・・・産まれても呼び出せる程の魔力はまだないみたいですね。」
「セエレは、その人間が産まれたら、また側に戻る予定なの?」
「いえ、魂が同じだとしても、私とあの者の契約は、あの者が死ぬまでの契約でしたので、今は契約が切れているはずですし、今更戻ることはないと思います。
ただ、現状、私に魔界に戻るだけの力が全く戻っていない・・・のは建前で、もう少しゆっくり休んで鋭気を養いたい(バカンスしたい)ので、しばらく地上で生活しないといけない状態ではあります。」
「ふぅん・・・そっか。
因みに、人間の側にいたとき、セエレは執事さんみたいな役割だったの?」
「はい、其れなりに家事やサポート業はできますよ。
私自身、魔界の爵位でいうと王子に値するので、周囲の者を見て秘書のような動きも習得しております。」
そこまで聞いて、アタシは決めた。
「よしわかった!じゃあ、セエレはしばらく、この館で生活して魔力の取り戻ししてよ!
それで手が空いてる時で良いから、この館のお仕事を手伝ってくれないかな?」
それを聞いて、セエレは再び驚いた顔をする。
「良い、のですか?」
「うん、何気にこの館でやることが凄く多いから、仕事の人手が多くなるのは歓迎だよ!」
「・・・ならば、私も下僕を呼び出して、この館をフルサポートしても宜しいでしょうか?」
「OK!ありがとう!」
こうして、昨日悩んでいた人手不足は、思いもよらぬ形で解消される事になった。
そして、もう一人のよっすぃ~には、館の警護のお仕事を依頼し、無事に館の安全は護られる事になったのだった。
そして、やっとの事で遠方の山から、日が昇り始めるーーー
フミエが起きてから、ここまで約2時間半の出来事です。