五:新生活、開幕
夢。
いや、記憶?
今、アタシは、過去の記憶のようなものを、目の前で見ている。
アタシの体は思い通りに動かないけれど、すごい速度で、過去の自分が生きていた経験を見させられている。
隣には、いつもメシアがいて、笑っていて。
でも、これは私の知っているよりずっと前の時代のメシア達だ。
どの生でも天真爛漫なメシアは、私の知っている真汝慈愛祀緋とは違う、もう少し大人びた印象だった。
次々と映し出される記憶では、いつも二人で穏やかに生きて、たまに人間助けをし、戦い、様々な魔獣?ペット??と幸せに暮らして。
そして、みんな最後に、人間にーーーーー
「ーーーッ!?っはぁ!!」
嫌なものを見た。
思わず飛び起きたアタシは、心を落ち着かせるため、無限の腕輪から水筒を取り出し一気に呷った。
なお、この水筒も古代のマジックグッズらしく、クリスタルの容器で作られていて、いつでも美味しいお水が生成されるらしい。
そんなことより。
なんだ、今の夢は。あれが魂に残る記憶なのか?あんな最悪な事が、何度も何度も、本気であったのか?
ーーー今から、ニンゲン、滅ぼして来ようか。
今みた記憶に引きずられそうになりながら、立ち上がる。
しかし、ふと振り返れば。
メシアが泣きながら、こちらに手を伸ばしていた。
「っ!メシア!」
慌てて手を取り、抱き寄せる。
同じ夢を見たのだろうか。
夢から覚醒半ばか、少し震えながらも、しっかり抱き着いてきて、涙が止まらないようだ。
それは、そうだろう。
メシアの最期は、いつも、いつでも、アタシを庇って、人間から大量の槍や剣を・・・・ああ、胸糞悪い!!
「姉さま、あのっ、ね・・・」
「わかってる、嫌な記憶見たんだろう?」
メシアがコクンと頷いた。よし、メシアが落ち着いたら、一先ずこの館から見えるとこ、全ての町を滅ぼそう。
「大丈夫だ。もう、あんな事にはさせない。そんなのアタシが許さないから。安心して。」
「姉さま・・・」
「アタシが一番信じられるのは、メシアだけだ。ずっと一緒に、側にいるから。」
「姉さま・・・嬉しいっ・・・」
ぎゅっとメシアの腕に力がこもる。
「ふふ、あのね、メシアね、人間が恐くて泣いてたんじゃないの。」
「・・・・ん?」
涙も落ち着いて、上目遣いで、ふわりと微笑みつつ、メシアは言う。
「あのね、いつもあの、最後の時は姉さまを守れて幸せって思ってたの。あと、メシアと姉さまは、魂でずっと繋がってずっと一緒だったんだって思ったら、嬉しくて泣いちゃったの。」
「おぅふ・・・」
アタシの戦意が、音をたてて抜けていく。
そうだ、そういえばこーゆー子だった。流石メシアクオリティ、ぶれないな!
そんなアタシをスルーして、メシアは続ける。
「ふふ、姉さまにプロポーズしてもらっちゃった!嬉しい~!!」
「ええ!?」
一体どこにそんな要素があったのか。
というか、この世界に結婚とかの概念あるのか?番くらいはあるのか?そーいやアタシも人間じゃなくてモンスター扱いだから、その辺は大丈夫なのか?
などと現実逃避しつつ、ふと、窓の外を見ると。
「あ、日が暮れちゃったな。」
「えっ!?本当、もう夜だわ!お風呂入らなきゃ、姉さま!」
「そうだな。風呂の準備と、夕飯の支度しなきゃだな~。」
起き上がり、館の中が真っ暗なので、ライト代わりに光魔法(持続性:最弱)を次々天井に放ちつつ、アタシたちは階下へと向かう。
風呂とキッチンを明るく照らし、メシアには先に料理をお願いしてから、アタシは風呂掃除へ向かった。
室内の温泉かけ流しだから、浴槽内は綺麗ではあったが、一度全体的に綺麗にすべく水魔法を駆使し、湯槽内の水分をまとめて側に置いて、流れ出る湯をそちらにいくようにしてから、無限の腕輪に収納されていたお掃除セットで風呂場全体を綺麗に磨いて、置いておいた温泉水で洗い流した。
そして、お風呂セットを取り出して、置いておく。
次に脱衣場も綺麗に掃除して、残りの温泉水を使いきったところで、キッチンへと移動した。
例え、時間を戻して綺麗な状態といえども、やはり日本人らしく一度はこの手で掃除しないと気がすまないんだよなあ。
「メシア、風呂綺麗になったよ。」
「ありがとう、姉さま。こちらも完成よ。うふふ。」
メシアが上機嫌で皿に盛っていくのは、庭の野菜を使ったシチューだった。
その間に隣接するリビングのダイニングテーブル周辺を掃除して、手を洗った。
メシアは籠に盛り付けたパンとシチューを机に並べ、アタシは二つのコップにクリスタル水筒の水を注いだ。
「「じゃあ、いただきます。」」
メシアの作ったシチューを口に運ぶ。
「美味っ!てか、この野菜もうまっ!」
「本当?嬉しい~!日本と違って、ここのコンロが魔力で動くIHみたいな感じだったから、火力がちょっと心配だったの~」
「へえ、じゃあ光源ももしかしたらあるかもな、あとで探してみるよ。」
日本にいるときと同じような、幸せな時間。
ゆっくりと、明日は館周辺を散策しよう、とか、無限の腕輪に入っている凄まじい量のアイテムについて話したり、など穏やかな時間を過ごし、食べ終わった食器を水魔法で洗っていたら。
「ふふ、新婚さんって、こんな感じかしら?」
と誰でも見とれるような、幸せそうな笑顔でメシアが言った。
可愛い。いや違う、そうじゃない。アタシたちは昔は夫婦、今従姉妹なハズだろう。どうしてそうなるんだ。メシアクオリティか。
とりあえずアタシはメシアの頭を撫で、先に風呂に入るよう促した。
もちろんメシアからは一緒に入ろう、と言われたが一蹴し、しぶしぶメシアは風呂に向かったのだった。
ーーーさて。
一人になったところで、自分のスキルをチェックしよう。
「ステータス・オープン・・・・っても、何もないか。」
良くある異世界転移もののように、すぐにスキルやステータスを見れるようではなさそうだ。
ふと、そこで気が付く。
「スキル:トトの魔眼発動、常時解放」
視界が一瞬ぼやけたあと、元に戻る。しかし、きちんとスキルは生きているらしく、見たものに『詳細は?』と思い浮かべるだけで、説明が頭の中に流れ込んできた。
スキルなら、何とかなるらしい。
そのため、鏡の前に立ち、詳細を訪ねると、情報が一気に流れ込んできた。
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名前:フミエ
種族:ヴァンピール(稀少種)
スキル:古代スキル全種、調教、召還、口寄せ
魔法:古代魔法全種、古代精霊魔法全種、時空間魔法、生活魔法
耐性:物理無効、魔法無効、異常状態無効
称号:異世界人、魔と闇の女王、神殺し、魂繋調律師、ム◯ゴロウ並のテイマー
弱点:番のメシア
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一部抜粋だけど、漢字多いな!!
こんなん一気に頭に入ってきたら、そりゃーパンクしますわ!
つーか、過去の自分!一体何したの!?うっすら覚えているけれど、称号と弱点の、どこからツッコめば良いのがわからない!!
説明を途中で切り上げ、結構ツッコミ処がありすぎて、ひたすら自虐的思考に浸っていたら。
「姉さま、お風呂お先にいただきました。」
メシアが風呂から戻ってきた。
メシアの長く綺麗な髪から、まだ少し水滴が垂れている。
「よく乾かしなよ?アタシも風呂行って来るね。」
メシアの横を通りすぎ、先ほどちらりと詳細を調べた、メシアのステータスを思い出す。
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名前:メシア
種族:ヴァンピール(稀少種)
スキル:古代調教スキル全種、乙女の嗜み全種、花嫁教育全種、黄金の左
魔法:古代精霊魔法全種、回復・補助魔法全種、時空間魔法、生活魔法
耐性:物理無効、魔法無効、異常状態無効
称号:異世界人、癒しの天使、エレガントテイマー、完堕料理人、愛情一本
弱点:番の姉、スタミナ切れ
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うん、見なきゃ良かったような気がする。
ツッコミたい衝動を抑え、アタシは風呂へと向かったのだった。
軽く、ステータス公開な話です。
レベルやHPなどフィジカル面は、頭で意識すればわかる本人のみの閲覧仕様です。