三: 準備万端
「・・・う・・ん?」
「メシア!?」
余りに強く抱きしめ過ぎたのだろう。
ゆっくりと、メシアが瞼を開け、そしてーーー
「いやー!姉さまカッコいいー!!!」
「うおぉっ!?」
アタシの姿を見て、目を見開いたかと思えば、思いっきり抱き着いてきた。
すんでの所で後ろに倒れるのを防いで、改めてメシアに話しかける。
「メシア、体は平気?痛くない??」
「大丈夫、元気!それより、姉さまもメシアも、どうしてこんな姿なの?あの人たち誰~?」
「ああ、それは・・・」
平常運転なメシアに安心しつつ、どう説明したものかと思ったのだが。
「俺が説明する。」
先ほど色々教えてくれた男の影が、改めてメシアに経緯を話してくれた。
最初は不安げな様子で聴いていたメシアだったが、アタシが聴いた所まで聞き終わると、とっても良い笑顔になっていた。
「よかった!姉さまと離ればなれにならないんなら、安心したわ。メシアは姉さまと一緒なら、それで大丈夫!!」
「「「えぇぇ・・・」」」
アタシと影たちの声が重なる。
流石メシア、ぶれないな。
「そっ、それで、だ。」
説明役の男の影が、少し引きながら話を続ける。
「君たちの姿は再現させたもの、ではあるが、このまま別世界・・・異世界とも言うか、そちらに送っては安心して生活できないと思う。
そこで、魂に刻まれた、今までの能力や技能、スキル、魔術や魔法など、記憶全てを直ぐに使えるようにしておいた。」
「ミーたちも相っっ当がんばったんだけど、こんな事しか出来なくて、本当にご免なさいネ~?」
男の影と、オネエっぽい影が、ちょっとだけ遠い目をする。
これ、負い目もあるから、すっごく無理してがんばってくれたんだな。
「だから、本当に申し訳ないが、わりと全能なその力を使って、二人で新生活を送って頂けないだろうか?」
緊張しながら、真面目な面持ちで影の男が訊いてきた。
女の影もオネエの影も、真っ直ぐこちらを見つめている。
うーん、正直親や知人に会えないのは残念だけど、こんな姿だし、確実に現世では色々内外迷惑かけるからねぇ。
その異世界とやらが普通に生きていけそうなら、例えサバイバルでもまあそれでいいし、自分のスキルとかよくわからないから、あとでゆっくり見ることにして、問題はメシアだよなぁ。
ちらりと、メシアを見やれば。
・・・ニッコリと、笑っている。だけど、目が笑っていない!!
「ねえ、お兄さん。」
「うん?なんだ?」
スッ・・・と男の影にメシアは近より、見上げて話す。
「能力?で生活出来ればいいけれど、勝手に殺して勝手に再生して異世界に飛ばすとか言っておいて、何一つ知らない世界で生活するための家財道具や食料とか、それを保管するものとか、初期装備がないのは失礼なんじゃないかしら?」
「うっ・・・!?そ、そうだな・・・。」
言われてみれば普通な事を一気に言われ、男の影がたじろぐ。
女の影もオネエの影も『あら、そういえば』って顔しているし。
影たちは少し集まって話し合い、そして、ちょっと考えた後にオネエが口を開いた。
「よーし、わかったわ!それじゃあ、スッゴク大盤振る舞いで、ミーがとっても良い初期投資をプレゼントしちゃう!おバカをやらかしたお詫びよ!持ってけドロボー!!」
「わあ、ありがとうお姉さん!話がわかるのって、本当に素敵よ!!」
「やーね、んもぅ誉めないで~!」
オネエは凄くいい顔でウィンクしつつ、二つの腕輪を取り出した。
アタシとメシアはそれを受け取り、各々腕に装着する。
「で、これはどういう物なんだ?」
改めてオネエに聞いてみると。
「そこのお嬢チャンが言っていたもの、ほとんどがその腕輪に収納されてるのヨ。
ユーとお嬢チャンの腕輪は共通になってるカラ、無制限で色んなモノを出し入れし放題ヨ?
あと、元の世界で貴女達が持ってたモノも、入れておいたワ。」
なるほど、それは便利なものを貰ったな。
腕輪に意識を集中すると、中身が一覧のリストのように脳内に浮かんで、あとはこれを取り出すか、とか考えれば出し入れ出来るみたいだ。
メシアに至っては、出し入れを繰り返して、遊んで・・・確認している。
「ウフ、気に入ってもらえたみたいネ?」
「助かった。・・・これなら、もう異世界に送っても大丈夫そうか?」
男の影がオネエに感謝しつつ、メシアに問いかけた。
「ええ、そうね。あとはメシアたち自身で何とかできると思うわ。」
「ああ、アタシも問題はない。」
男の影に向き直って、アタシたちは手を繋いだ。
「よし、それでは別世界へと送るぞ。武運を祈る。」
「ユーたちに、幸多からんことを☆」
「無理はしないで、体に気をつけてねー!」
3人の影から声援を受けながら、アタシはスウッと意識を失うのだったーーー
ヒトであり人ではない二人の、新しい波瀾万丈な生活が、始まる。
オネエはいつでも最強だと思う。
さて、次から異世界へGOです。