二十六:深淵の宿
「は~い、皆様おはようございま~す!」
キラキラの笑顔と共に、朝食を振る舞う女将姿のメシア。
「そうですか、では、今日の内に相手の方に連絡致しますね。いや、最近森の中で遭難されたり犯罪者が何かしていたりと物騒なもので、森の魔物からも困ったから何とかしてくれと言われてましてね、それで合同救助訓練を・・・。」
その近くでは、お茶を淹れて渡しながら、冒険者たちに昨日の事情を訊くセエレ。
「はい、特製オムライスできましたよー!」
今回も15人体制で料理無双を行うアタシ。
あれ?これってアタシが一番大変じゃないか!?
まあ、こんなこと今回に限りで試運転なんだから勉強だと思うしかないかー。
それにしても、笑っちゃうよね。
今回、この冒険者が大量に森に入った理由が、『ギルド経由で、王からの依頼で森を制圧下に置くこと』だったなんてね。
しかも、この冒険者たち、森の魔物の子供レベルの強さだよ?
いくら稼ぎが良いからって、知らない土地に対して無謀だよね?
そりゃ魔物の大人達が『なんでこの弱さで皆でこの森に来てるの!?遠足!?ハイキング!?』って戦う気も起きずに敬遠しちゃうもんよね。
ーーー明らかに金で釣った人命の使い捨てじゃないか。
あ、因みに子供の魔物の平均レベルが52だから、人間の中では強くても、この森では瞬殺かスルー扱いが基本です。スルー推奨。
つまり、洞窟の中の魔物はそれ以上だったと言うことだ。
良かった、あそこまで迂回して到着してたらヤバかったよねー。容赦ないもん、かーちゃんたち。
とりあえず、朝一で街に向かった部下に冒険者ギルドで報告して、王都の責任者に話を通してもらうよう依頼しておいたけれど・・・きちんと動いてくれるのかな、クロムは。
そういえば、アタシのトトの魔眼、冒険者ギルドでもらったカードを解析したら、相手のフィジカルなステータスが見れる様になったんだよなー。
地味に機能アップするものだなぁ。
だからこそ、ここにいる冒険者の体調とかレベルとか把握して、何よりも外に出ない・休養を取る事が必要だってわかった訳だし。
昨日捕獲した時も、なんだか、みんな体力も精神力もゴリゴリに削られてたからなぁ。
一晩で結構回復したとはいえ、もう少しゆっくり休んで全快してほしいものだよ。
嵐の朝食タイムが終わって、次の昼食を作ってから、アタシたちは自分の館に帰ってきた。
あっちの食堂で一緒に作っておいた朝食を腕輪から出しつつ、みんなでまったりとモーニングを食べる。
「それにしても、俺達も手伝いに行かなくてよかったのか?」
「うん、黒呼たちには、子供達のお世話というか、人の勉強を優先的にお願いしたかったから。ありがとうね。」
「僕たち、人間と同じように色々できるようになったんだよー!パパ褒めて!!」
「そっかー、じゃあ後で色々お話聞かなきゃだなー。」
和やかに朝食を食べ、サクッと後片付けをしていると。
セエレの腕輪に通信が入った。
『此方、冒険者ギルドにてギルド長から返答あり、どうぞ。』
「おや、早かったですねぇ。それでは、ギルド長のお部屋に通して貰い、他に誰も近づけないようにしてから、通信越しに交渉しましょうか?」
『承知しました。行動します。』
ああ、どんどんセエレが悪い顔になっている。
何ていうか、悪役宰相みたいな感じ??
まあ、セエレに任せておけば良いかー。
皆が集まるリビングにて、通信が再開したのは数分後。
通信機で会話が出来る事に驚くクロムと、悪い笑みで朗らかな声のセエレの会話を見守る事にした。
「ギルド長、昨日はお世話になりました。」
『いえ、此方こそ、色々教えて頂きありがとうございました。
詳しい事を部下の方から伺ったのですが、まさかこんなに早く王都のギルドが動くとは知らず・・・昨晩に報告書を送ったばかりで、本当に驚きました。』
「まあ、普通そうですよね。不可侵の森を制圧しろだなんて、土地の詳細を知らずにやる事ではないと思いますし。大変でしたね。」
『ええ。朝から王都ギルドと水晶での通信をしまくって、やっと、明日辺りに冒険者達をお迎えに行けそうです。』
「それは良かった。ところで、今回の事件の首謀者・・・もとい先導者はどなたでしょうか?キッチリお話しておきたいのですが?」
『ええと、それは・・・・』
「王の名前で制圧しろだなんで事を起こしてる以上、こちらとしても落とし前をつけていただかないと、森の皆が迷惑してしまいます。
今回も、冒険者を傷付けないように注意しながら、がんばって協力してくださった訳ですし。」
『ええ、それは重々承知しています。本当に、なぜこんなに早く行動出来たのか、此方としても不思議なんです。』
「まあ、森にある何かを隠蔽・もしくは入手したくて事を性急に起こしたのかも知れませんが、森の魔物はとても強いかと存じますので、端から無理だったでしょうがね。なので、責任者に理由を教えて頂きたいのですよ。」
そこまで会話して、クロムが何かを考えているようだったので、返答を待つ。
『・・・そうですよね。何かがおかしい。わかりました。ちょっと王都ギルドを当たってみます。』
「ええ、よろしくおねがいいたします。」
そうして通信は切れた。
セエレはそのままギルド長の部屋に部下を待機させるよう指示し、優雅に珈琲を飲む。
何だかうまく話が纏まったようで何よりだ。
まあ普通に考えて、冒険者の派遣と、アタシ達がクロムに話ししてた時間が被ってる段階で、相手が悪い事の為に裏で動いてるってのは確定だからねー。
次のクロムの通信が入るまで小一時間、アタシはちまちま通信のみの機能しかない限定腕輪を作り、他のメンバーの考察に耳を傾けながら作業するのだった。
良いタイトルが、思い浮かばないのです。
これから更新が不定期になりそうな予感・・・。