二十五:軍事訓練
冒険者ギルドを出て、いつの間にか合流したセエレの部下と共に、アタシ達は全力で森まで戻ってきた。
よっすぃ~から訓練の現状を聞いて、きぃとフランが負傷した模様だとのことで、回復役のメシアがいた方が良い、という判断からだった。
とりあえず途中で現地の皆様に、頭に血を昇らせるな、相手は全て無力化して拘束、あとで交渉の道具にするから、など指示を出し、相手も此方も一人も死者を出さないよう厳命する。
そう、何故ならば、これは訓練なのだから。
相手が本気で来ようとも、此方は『警備訓練』だと主張して、行動しているのだ。
ちょっと森の皆が加入して、大規模な訓練と講習になっちゃっただけだ。
高速で空を飛ぶアタシ達が襲われて、うっかり風圧で相手を跳ねちゃっても、死んでないからOKなのだ!
全力でよっすぃ~のいる部隊へ合流し、怪我したフランときぃをメシアに任せ、アタシはよっすぃ~から話を聞いた。
朝イチで、庭で月影兄弟with月呼やセエレの部下と朝の戦闘訓練をして、それに龍たちや闘鶏も混ざって戦いの基礎や組手など模擬戦をしていたそうだ。
暫くすると、森から鳥型の魔物がやって来て、大量の人間が森に入ったから逃げろとの事。
そこでよっすぃ~は、闘鶏数羽と足の早いセエレの部下をグループにして視察に行かせ、他の余った闘鶏と部下たちで簡単な部隊を3つ用意。
その各々に司令塔として黒呼・白呼・月呼を配置して、各地へ派遣したと。
指令は腕輪経由で飛ばされ、森の仲間たちも先に帰還した鳥の魔物から聞いていたのか、こちらに混ざって避難活動などしてくれたらしい。
避難先が森の奥側なので、館を通過しないとそろそも会えないシステムだ。
その中で、うっかり相手の斥候から矢の一撃を食らいそうになったフランを庇ってきぃが矢を叩き落とし、そのままの勢いで2人ともずっこけたとの事。軽傷で何よりだ。
さてこれからどうすべか、と考える。
とりあえず相手の人数はどれくらいか尋ねたら、30~40人弱位のグループが3方向から此方に向かってきているそうだ。
「・・・ハッ、これは、こうしてはいられない!」
アタシは生け捕り作戦をよっすぃ~に任せ、館の裏側、セエレの部下の宿舎と牧場の間の、ものすごく空いた土地に駆け出した。
ここは畑からも微妙に遠く地味に広い土地で、牧場を拡大するかどうするか、何に使うか不明の場所だったのだ。
そこで、魔法と魔術とスキルを駆使して、全体の土を均し、無音の檻で2階建て巨大宿舎の骨組みと壁、窓や扉を作り、同時に一階に食堂と魔動式キッチン、温泉の風呂、勿論魔術を使って水洗トイレも区画毎に設置した。
なお、檻の色だと余りにも異質なので、外装も内装も後から色設定を変えて、ホテルのよう無難な色合いへ変更した。
そして、この館。なんと言っても外へ出入りする扉が特殊になっている。
いや、外からは入れるのだが、中から出るにはアタシの許可した人しか出られないようになっているのだ。
あとは、2人で一部屋設定なので、ベッドやタオルなど生活必需品を大量生産しながら配置し、各部屋の窓も横開きで開けられるけれど外に乗り出せないよう結界が作動してるか確かめ、後は水道が動くか、食器の数が足りてるかなど食堂のキッチンの動きを確認し、食料庫に大量の食材を突っ込んでから表に出てきた。
とりあえず、これで簡易宿泊施設は完成だ。
中でどんなに騒いでも聞こえないし、自動修復機能もあるから、暴れるだけ無駄と言ったところだし。
一応はあらかた作業を終わらせたので、よっすぃ~の元へ戻り事の次第を話す。
よっすぃ~が小声で「マジかよ」って言っていたが、私としては最終的に『深淵の宿』的に運営してみたいとは思っているので、プレオープンな気分で満足だ。
しばらくして、捕虜として気絶した敵を捕まえた魔物たちが戻ってきた。
それを受け取って、速攻『深淵の宿』の中へと、拘束を解いて次々転移させていく。
まあ、出入口のドアに「ごゆるりとおくつろぎくださいませ」ってこの世界の言葉で張り紙してきたから、きっと大丈夫なはずだ。
次から次へと
「いらっしゃいませ~、ようこそお越しくださいました~」
とご挨拶しつつ転送し、そのうち派遣していた月影部隊や様子見の部下鶏軍団も戻ってきて、捕縛した全ての侵入者を収納完了!!
うん、良い仕事したなぁ~!
キラキラの笑顔で、転送先の事を説明してみたら、全員から「うわぁ・・・」と引かれたのは何故なのか。解せぬ。
とりあえず、支配人にセエレを指名し、女将はメシアにして、アタシは裏番になることに決めた。
ノリノリの二人と警備隊長よっすぃ~で、あとで宿にご挨拶に伺おうということで、とりあえず訓練終了の締めをよっすぃ~が行い、軍事訓練はこれにて解散!
それから暫くして、少し大人びたメイド服に身を包んだセエレと、何処にあったのかわからないが着物に衣装替えをしたメシア、調理服がなかったのでとりあえず白衣を羽織ったアタシと、いつもの戦闘メイドなよっすぃ~で、民宿『深淵の館』へと足を踏み入れた。
既にお客様は各お部屋にいらっしゃるみたいなので、とりあえず調理場へ向かう。
そこでは、女性の冒険者が食材のチェックをしているところだった。
「こんにちは~!ようこそおいでくださいました!!」
「お疲れでしょう、今晩は私達で皆様の晩御飯を作りますので、どうぞお先に温泉に行ってらしてください。もちろん、明日以降も食材等はお好きにご利用くださって構いませんよ?
ああ、申し遅れました、私、この宿の支配人のセエレと申します。」
「女将のメシアです!なんでも、チーム深淵の館の戦闘訓練に巻き込まれたそうで。とりあえずお迎えが来るまではこちらでゆっくりと疲れを癒してくださいね~!」
目を丸くして驚いている女冒険者に、他のお客様にもその事を伝えるようにお願いして退室してもらい、アタシはとりあえず一人で調理を開始する事にした。
他の三人には各お部屋へご挨拶がてら、どういう状況なのか説明しに行ってもらう。
さて、とりあえず。
スキルで『意思のある分身体』を15人ほど作り、同時進行で今日の夕御飯を作っていく。
全部がアタシなので、量産魔法も惜しげなく使い、ハンバーグ付きのカレーライスや鮪の漬け丼、カルパッチョとサラダ、スープ各種と焼きたてのパンなど用意し、大食堂のカウンターの上に並べていく。
そのうち、お風呂上がりの戦士が数名、香りに誘われてやって来たので夕飯の案内をして渡し。
最初は恐る恐る食べていたが途中から凄い勢いで食べまくっていたのを皮切りに、どんどん空腹ボーイ&ガールが並んで夕餉の席へとなっていった。
途中で帰ってきた3人にはお茶を淹れて配ってもらい、結果、滞在者95名が全員満足して、各お部屋へと戻って行ったのだった。
その後アタシは、夜食が欲しい人向けに、禁断の魔方陣を駆使して、自動で漬け丼を量産して提供する魔導具の棚を作り食堂に設置して、使い方の説明書きやカトラリーも準備し食堂の清掃を行ってから、皆で宿を後にしたのだった。
なお、アタシ達の夕飯はその後となり、もう一度がんばって夕飯を作る羽目になったが、後悔はしていない。
なんだかんだ言って、意外とみんなノリノリです。